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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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大胆なパフォーマンス

 午後4時。残り時間は後2時間だ。

 二人が広げた噂を聞きつけ、数多くの受験者達が集めってきた。


「……救済処置があると聞いたんだが」

「あの二人がそうか?」

「まだ子供じゃないか……」


 広場の中心に立つ二人に、多くの受験者は不審がるものの、現段階では不合格は必至。

 藁をもすがる思いで、二人の前に集まっていた。


「フレス、その情報に間違いはない?」

「うん。さっき協会で教えてもらったんだけど、現時点での第二試験合格者は、たったの45名だって」

「……よし。それに見渡す限り、集まってきた数は500人以上。行けるよ!」


 集まった500人以上は、誰も彼も手に壺を持っていた。

 結局売ることが出来なかったのだろう。


「……なんだなんだ?」

「受験者が集まっている?」


 フレス達二人の様子は、プロ鑑定士達の間でも話題になっていた。


「あの子供二人がこれだけ集めたのか?」

「今から何をしでかすか、楽しみですねぇ」


 プロ鑑定士の期待、そして受験者の不安渦巻く中、ついにフレスが声をあげた。


「皆さん、このままでは不合格は必至です。時間は後2時間。もうどうあがいても無理だとは思いませんか?」


 フレスの言葉に、一部は反発したものの、大方の者はそれを悟っていたらしい。

 もう無理だと、表向きはそういう態度を示していなくても、心の中ではそう噛みしめている者ばかりだった。


「そんな諦めた人達の為に、私達は心ばかりの手助けをしたいと考えています! このまま試験を終了して壺を没収されるより、少しでも稼いで帰りませんか?」


 今度はギルパーニャが壺を持って叫んだ。


「もう今回の試験を諦めた皆さん、もしよろしければ、皆さんの持っている壺、今ここで一つ2000ハクロアで売ってはいただけないでしょうか?」

「今のままでは損をするだけです! 損をしてお帰りになるより、少しでもお金にして帰りませんか?」


 フレス達が流した噂、それは試験を諦めた者達への、小さな救済措置だった。

 この都市ではガラクタ同然の壺を、2000ハクロアという低価格ではあるが、買い取ってくれるというもの。

 元々この壺はプロ鑑定士協会がただ同然で受験者に配布した物だ。

 だからこそ、この壺を売れば受験者は少なくとも2000ハクロアを稼いで帰ることが出来る。

 小遣い稼ぎだと思えば、そんなに悪くはない提案である。

 壺は試験が終わり次第、プロ鑑定士協会が回収することになっている。

 ならば少しでも換金した方が得だと考えるだろう。

 無論、一部の者は慎重になってはいたが、ここに集まった時点で売ることに意欲はあるということだ。


「私達が皆さんの壺を2000ハクロアで買い取ります! もちろん、買い取りの拒否はしません。壺が本物であるかどうかは、受験者さんの鑑定眼にお任せします!」


 声高らかに宣言した二人。

 そんな二人を見て、イルアリルマも微笑んでいた。


「ふふ、あの二人、やっぱり素質がありますね」

「だろ? 俺の弟子と、妹弟子だからな」


 そんな彼女に声を掛けるのはウェイル。


「ウェイルさん。ええ、師匠が凄い人だから、自然と二人も凄くなりますよ」

「今、プロ鑑定士協会はあの二人の話で持ちきりだ。全く、良くも悪くも目立つ弟子だよ」

「これから何をするんでしょうね?」

「さあな。じっくりと見物しようじゃないか」


 広場の様子を見ていたのはプロ鑑定士だけじゃない。

 マリアステルの商人連中も、二人の動向に注目していた。 

 というより、これだけの人が集まっているのだ。嫌でも目に付く。


「さあ、残り時間は1時間30分! お売りしたい人は早く申し出てください! 即金でお支払いします!」


「……俺の壺、買ってくれよ」

「俺のも!」

「私のもお願いします!」


 最初は数人だった。

 しかし、人間というのは、誰もが他人に流されるところがある。

 人が殺到しているところには、自分も我先へと向かいたくなるものだ。


「はいはい、順番でお願いします!」

「はい、2000ハクロア! 次の試験、頑張ってくださいね!」


 フレスとギルパーニャは、一人一人に励ましの声を掛けながら、次々と壺を買い取っていった。







 ――●○●○●○――







 残り時間、ついに30分。

 手持ちの現金、100万ハクロアは全て壺へと変わった。

 二人の後ろに並ぶのは、合計512個のシアトレル焼きの壺。

 その数や否や圧巻で、見物人もそれを集めた二人がこれから何をするのか気になり、壺を売った受験者達も、未だその場に待機していた。


「フレス、壺、いくつある?」

「えーっと、ボクらのも合わせて512個!」

「これだけあれば完璧かな!」

「うん!」


 数を数え終えた二人。

 ギルパーニャは観客の前に出て、後ろに立つフレスはあるものを取りにその場を離れていった。


「さて、皆さん。売っていただいてありがとうございました! 次の試験、頑張ってくださいね! ……しかしながら、せっかく第一試験を通った皆さんです。やっぱりまだ諦めきれないって人、いると思います。その人達に、私達が最後のチャンスをあげたいと思います!!」


 どういうことだ、と口々に騒ぎ出す人々。

 協会内部から見守っていたプロ鑑定士達も、動揺が走る。

 ただウェイルと、イルアリルマの二人は落ち着いて動向を見守っていた。


「何をする気なんでしょうね?」

「さあな。フレスがこの場を離れたが、何をしに行ったんだろうな。……リル。視覚がないのに、この様子が判るのか?」

「はい。流石に細かいところまでは感じられないですけど、ギルさんやフレスさんの様子くらいなら手に取るように判りますよ」

「あ、フレスが戻ってきたぞ。……って、なんだありゃ?」


 戻ってきたフレスの手に握られていたもの、それは巨大なハンマーだった。




「さあ、最後のチャンス! これを見てください! フレス、お願い!」


「まっかせて!! おうりゃああああああああああ!!!!!」




 フレスはその手に持つハンマーを、壺目がけて容赦なく振り下ろした。


「なっ!? フレスが壺を壊し始めた……!?」


 驚くウェイルと対照的に、イルアリルマは笑っていた。


「フフフッ、供給を断つ。まさかこんな形で実現してこようとは。あの二人、やっぱり凄いですよ」

「なんとなく意図が読めてきたぞ。なるほど、フレスが言っていた作戦の供給を断つ、壺の数を減らすって、こういうことだったのか。何と大胆なパフォーマンスだ……」

「でも、良いパフォーマンスですよ。あれなら作戦も成功しますよ」

「師匠としては、その大胆さが心配なんだよ……」


 フレスから作戦は聞いたものの、それは大まかなもので詳しいことは秘密にされていた。

 何かしでかすことは判っていたが、まさか大衆の面前で壺を叩き壊すことだとは予想だにしていなかった。


「うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃいいいいいいいいいい!!!」


 次々と木端微塵となっていく壺。

 フレスがハンマーを振り下ろすのを止めたのは、壺の数が残り20個になってのことだった。

 待ってましたと言わんばかりにギルパーニャが叫ぶ。


「皆さん、見ていただけましたか!? この都市で供給過多にあった壺は、この通りぶっ壊してしまいました。ということは、相対的に壺の価値は上がった、そうですよね?」

 

 野次馬として来て様子を見ていた商人達は、こぞって首を縦に振った。

 何せ500個以上あった壺が、残り20個しかないのだ。単純に計算しただけで、その価値は25倍になったということ。

 それでも2000を25倍したところで10万には届かないが、今度はこの壺に付加価値がついてくる。

 何せこの壺には価値が戻った。

 であれば、この壺を手に入れさえすれば10万で売るという目標はすぐに達成してしまう。

 ともすれば壺値段は壺本来の値段の外に、第二試験合格と言う付加価値が付くのだ。

 フレス達はこれを狙っていた。


「さあ、今この壺を買えば、間違いなく10万以上で売れ、さらに第二試験に合格できる! どうしても試験に合格したい、そんな人のために、今なら特別に10万ハクロアぴったりで販売します! 残り時間は20分! 数は20個。無くなり次第終了です! さあ、欲しい人はお早めに!」


 ギルパーニャが叫んだ瞬間だった。

 試験を諦めきれなかった受験者が、壺を求めて二人に殺到。


「俺に売ってくれ! 早く!」

「私に売って! 15万出すから!」

「いや、俺だ! 試験に合格できるのであればいくらでも!」


 こうして残った20個はあっと言う間に完売した。

 二人は当初の目標よりも多い345万ハクロアという大金を手にし、第二試験を通過したのだった。



 第二試験合格者、合計87人。




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