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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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繋がる情報、浮かぶ懸念

「遅かったな」

「プロ鑑定士試験の最中なんだ。本来なら忙しくて外出など出来ん。無理を言って来たんだ。お久しぶりですな、シュラディン殿」

「おお、サグマールか。いやはや、ウェイルが迷惑を掛けているようで」

「全くです。こいつと来たら、どこへ旅に出ようが事件を拾ってくるもんですから。その度に事後処理するこっちの身にもなってもらいたい」

「……別に好きで事件に遭遇するわけじゃねーよ……」


 サグマールはシュラディンと握手して腰を掛けると、説明を始めた。


「今の話の断片から察するにリベアの動きのことだろう? 我々も少しばかり調査はしていたんだ。どうも為替の様子が安定していないとな。その原因が、ここ立て続けに発生した事件と、そしてリベアの買い占めにあると睨んだ」

「リベアの買い占めは市場にも影響を出しているのか?」

「間違いないな。買占めは何も最近じゃないんだ。世界競売協会がリベア本社の家宅捜索に入ったときに見つかった為替取引証書なんだが、どれもクルパーカー戦争後辺りからあったらしい。戦争の混乱に乗じたと言っていいな。おかげで我々も気づくのが遅れたのだから」


 クルパーカー戦争後、確かに市場は荒れた。

 何せクルパーカーは貨幣単位『カラドナ』を発行している都市である。

 となれば当然、カラドナの価値について市場が混乱することは必至だ。

 カラドナで混乱しているところにレギオンの取引など、誰も気づくわけもないのだ。


「面白い話がある。世界競売協会はリベアの倒産に伴い、本社の財産を没収したんだが、いくらあったか知ってるか? ほぼゼロだったんだよ」

「……それは本当か……!? 有り得ないだろ、そんなこと!!」


 ウェイルは思わず声をあげる。

 だがそれも無理はない。

 倒産した企業から押収された財産が“0”だなんて有り得ない。

 何故なら、倒産とは本来、借金によるものだからだ。

 資産運営に失敗した結果残った負債、それがあるから倒産するのだ。

 そして当然だが負債も財産に含まれる。資産も負債も同じ財産として扱うからだ。


「プラスマイナスゼロ、そんなことがあり得るわけないだろう!?」

「だから言ったろ。面白い話だって」

「その資産を誰かが横領したと考えることは出来ないのか?」


 発言したのはシュラディンだ。


「無論、その線はすぐに洗った。だが、皆も新聞を見たろ? リベアの運営していた一族は皆殺しにあったと。問い詰めようにも相手がいない状況だ。ちなみに、彼らの家、別荘全て調査が入ったが、資産の一切は見つからなかった」


 そうだ。リベアブラザーズのトップの一族は、皆、何者かに殺害されていた。

 それは悲惨な有様で、それが原因でリベアが倒産したとも噂されている。


「一族の誰かが資産を盗んで、それを盗賊か何かに奪われた。これはどうだ?」

「可能性はある。だがもしそうなら資産、つまりはレギオンだが、少しくらいは市場に戻ってくるはずではないか? 盗賊は当然使うために金を盗む。しかし、今尚レギオンの市場流通量に変化はない」


 当然微々たる量であれば、いかにプロ鑑定士協会といえど把握は出来ない。

 流通貨幣量など膨大だし、それの計算など基本的には大まかだ。

 だからもし盗賊たちがチビチビとレギオンを使っているのであれば、それを知ることは出来ない。


「どちらにしても可能性か……。そもそも何故リベアのトップ連中は殺されたんだろうか」


 そういえばこれまで彼らが殺された経緯について、あまり詳しく話してこなかった。


「新聞での発表もないしねぇ」


 アムステリアも頬杖してため息をつく。


「プロ鑑定士協会では何か判ったのか?」


 そうシュラディンが問うと、サグマールは申し訳なさそうな顔を浮かべる。


「いや、実は犯人の動機が見えてこんのだ。もし金が欲しいならわざわざリベアのところへ行く必要もない。それこそ為替市場を襲えばいい。考えられるのは怨恨だが、これは心当たりが多すぎる。何せ大企業の社長一家だ。いなくなればいいと思う者もいる。だが、その線も薄いと我々は考えている」

「出世目的で、役員連中の誰かが、とか」

「リベアの役員は皆、リベア本家と血で繋がっている。そして今回の虐殺事件だが、親戚連中も皆殺されていたという話だ。何人か行方不明も出ているそうだがな。もしかするとその行方不明の奴がやったのかもしれんが、やはりその動機が判らない。何せ行方不明になっているのは、現リベアの社長本人なのだから」

「それは初めて聞いた情報だな……。社長本人が会社の資産を持ち逃げるとは考えにくい、か」


 可能性としてはあり得る。しかし、それは限りなく低いだろうとウェイルは見ている。


「結局のところ判らず仕舞いなのね」


 さもつまらないと言った表情を浮かべるアムステリア。


「話を戻すぞ。リベアには怪しいところが多すぎる。資産のこともそうだし、やはりレギオンの集中が気にかかる。一体、何故奴らはレギオンに資産を集中させたか」


 シュラディンの問いに、一同思案し沈黙する。


「…………逆、なのかも」


 そんな中、アムステリアがぽつりと呟いた。

 一斉に視線が彼女に集まる。


「逆、ってことは考えられないかしら? ハクロアやリベルテの価値が下がることを知っていた、ではなくて。リベルテの値段を彼らが下げたとしたら……?」

「…………そうか……!!」


 一同に衝撃が走った。

 そうだ、それも考えられる。

 というより、もはやそれしか考えられないとウェイルは思う。


「サグマール、奴らがレギオンに集中し始めたのはクルパーカー戦争後だったな?」

「そうだ」

「奴らはどこかからハクロアの値段が下がるという情報を手に入れた。残るリベルテを崩せばレギオンの値段が上がる。もし、ハンダウクルクスの事件の裏にリベアがいたとすれば、つじつまが合う」

「……ちょっと待てよ、ウェイル。確かお前さんの報告だと、ハンダウクルクスの都市長ルクセンクは人間為替を用いて奴隷商売をしていたと言ってたな」

「間違いない。奴隷になった奴にも出会ったし、それを重く見たから俺が動いたんだ」

「リベア本社が潰れた後、世界競売協会は本社から奴隷商売の証拠を掴んだんだ。知っているだろ?」


 リベアが直接潰れた理由ではないが、その後の株価に大きく影響を与えた情報。

 新聞でも連日報道された、リベアの奴隷商売の証拠。


「まさか……!!」


 そこでウェイルはルクセンクの言葉を思い出す。

 ルクセンクが軟禁しているときに語ってくれたこと。

 奴隷商売は、誰かに誘われたからやったのだと。

 ルクセンクは頑なに、その誰かの名を口にすることはなかった。

 だが、この状況と、ルクセンクの証言。

 それらがもし繋がっていたとすれば、全ては簡単な話になる。


「……人間為替で奴隷を作り、それをリベアが売っていた。そう考えると全てのつじつまが合う。奴隷商売を続ける内は儲かる。そして人間為替が崩壊しても、リベア側に支障はない。リベルテの価値が下がるだけ。ルクセンクはともかく、リベアは損をしない。リベアから奴隷商売の証拠も出ている。とすればこれ以外は考えられないな」


 ウェイルの説明を聞き、一同首を縦に振る。


「現状、その線が一番濃いそうだ。ウェイルよ、ルクセンクは誰と組んでいたか話さなかったんだな?」

「何度も尋ねたが、頑なに拒否し、口を割ることはなかったよ」

「口止めされていたんだろう。もっとも、全てを失ったルクセンクを黙らせるほどの何かがまだあるのだと考えると厄介にもほどがある。よし、プロ鑑定士協会に戻ったらすぐ、拘束されているルクセンクのところへ行ってみよう。リベアの名前を出した時の奴の表情を見てくる」


 こういう時、サグマールの人の見る目が役に立つ。


「ウェイルの話の通りだと、為替の混乱の原因はリベアだと確定的だ。だが、結局その目的が見えてこないんだよな。リベアはレギオンを集めて一体何をするつもりなんだろうか」


 動機、目的。

 結局それが見えてこない。


「判らない以上、現状は観察を続けるしかあるまい。全く、『不完全』といいリベアといい、どうして立て続けにかったるいことばかり起こすのだか」


 シュラディンは面倒くさいという表情でツルツルの頭を撫でていた。


「報告会は以上でいいかしら?」


 アムステリアの宣言に、誰もが頷く。


「ワシはルクセンクを問い詰めに行くとして、お前らはどうするんだ?」

「そうさな、ワシは一度スフィアバンクに行こう。貨幣の監視を続けないとな。それに今のうちにワシのハクロアもレギオンに替えておかねば。どうせなら便乗せんとな」

「……師匠、それは卑怯でしょう……」


 嬉々として笑うシュラディンに、思わず突っ込む。


「私の方は『不完全』の方に集中するわ。為替とよく判らないから」

「よろしく頼むよ、アムステリア」

「もう、だからテリアって呼んでよ、ウェイル~♪」


 抱きついてくるアムステリアはひらりと交わす。

 急な抱きつきは、もうフレスで鍛えられている。避けることなど容易い。


「あの小娘には抱きつかれるくせに……。そうだ! あの娘を殺そう!」

「良いこと思いついた! ……みたいな表情で怖いこと言うなよ……」


 アムステリア宅で行われた極秘の報告会。


 そこで交わされた情報は、しばらく平和が続いていたアレクアテナ大陸を激震させる大事件の引き金となるものだった。


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