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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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倒産した大企業『リベアブラザーズ』

「ウェイルの話は承知した。今度はワシの話を聴いてくれ」


 今回シュラディンがここに来た理由がこれである。


「ウェイル、ワシは以前言ったよな? 常に市場を見ておけと」

「ああ。言ってたな。確かにハクロアの価値は多少下落へと向かっているが、変動値は早急に対策を講じる程じゃない。大きく変わったと言えばリベルテか」

「為替都市ハンダウクルクスでの事件は知っているか? 何でも人間為替制度という違法な制度が発覚したそうで、都市は大混乱に陥っているとか」

「……知っているも何も、俺とフレスはその事件の一枚噛んでいるんだ。全て知ってるよ」

「…………一枚噛んでいるだと……?」

「ウェイル、貴方って、本当に巻き込まれるのが好きね……」


 驚くシュラディンに呆れるアムステリア。


「あのなぁ、俺だって好きで巻き込まれたわけじゃないんだよ。それにハンダウクルクスのことだって人間為替市場を潰す手伝いをしたってだけで」

「なぁ、ウェイル。あまり無茶はせんでくれ。師匠を心配させるもんじゃないぞ」

「だから俺だって好きでしてるんじゃないって! ……で、この事件をきっかけに、リベルテの価値が下がり始めたのは知っている。事件前の2/3になったんだってな?」

「それは4日前の話。今は半額程度にまで落ちている。今元気なのはレギオンくらいなもんだよ」

「ハクロアの価値って、そんなに不安定なの?」


 アムステリアはそこまで為替には詳しくない。

 そもそもお金にあまり興味がないからだ。


「ヴェクトルビアの事件は知ってるか?」

「ええ。ウェイルのことが新聞に載ってたから」


 ……それがなければ知らなかったのか、と心の中でツッコミを入れる。


「あの事件、どうも裏があってな。そうだよな? ウェイル」

「……ああ。公式発表に嘘は書かれてないが真実も少ない」

「もしその秘密がバレでもしたら大変なことになる。つまり現状、三大貨幣の内二つは大きな爆弾を抱えている。このまま推移してくれるだけならまだしも、もし爆発でもしてみろ。大陸は大混乱になる」

「なあシュラディン。今日ここに来たってことは、その可能性が非常に高いということなんだろ?」


 ウェイルは核心を訊く。

 わざわざ可能性の低い話をしにここまで来たとは思えなかったからだ。


「残念ながらその通りだ。それにワシが伝えたかったのはこの程度のことじゃない。実はな。最近とある企業の様子がおかしいんだよ」

「……とある企業?」

「倒産を発表した企業――リベアブラザーズだ……!!」


 大企業リベアブラザーズ。

 デイルーラ社と並ぶ、アレクアテナ屈指の大企業グループだ。

 その業務内容はとにかく手広く、神器や芸術品、食糧に金融、新聞や娯楽など多岐にわたる。

 しかしながら、その企業は先日倒産してしまった。

 最初はリベア社長一族の惨殺事件だった。

 一族のほとんどの者が無惨な死を遂げ、死亡が確認されていない者もいまだ行方不明という。

 その時、一族の家から違法品売買や奴隷貿易の証拠が大量に出てきたという。

 これを重く見た世界競売協会は、リベア本社に捜索に入り、ついに裏取引の実態を掴むことになる。

 そうなってしまえば、会社の信用は地の底。

 株価は一気に下落、結果として倒産に追い込まれてしまったというわけだ。


「リベアだって!? どうして!? あれは世界競売協会が運営していくことになってるんじゃないのか!?」

「表向きはな。現にリベア本社は世界競売協会が占めている。だが、その系列の子会社ともなると、息が掛かっていないんだ。リベアの子会社が不審な動きを見せていると、少しだけ話題にはなっている」

「一体何をしているんだ?」

「レギオンの買い付けさ。実はハンダウクルクスの事件以前から、リベア本社、並びに子会社はレギオン買い付けに力を入れていたようだ。レギオンはこのところ安定している。つまりは信頼されている。もし他の二つの信頼が落ちれば……。意味は判るな?」

「相対的に価値が上がるってことだろ。しかし、事件以前から買い付けているのであれば、インサイダーの疑いも出来ない。単純に運が良かったとか、先見性があると、そう言った類の可能性もある」

「ウェイルよ。その可能性はなくもないが、リベアほどの大企業が、たった一つの貨幣に全てを託すような真似すると思うか? 普通はリスクを考えて、色んな貨幣に資産を分散するだろう? それをしなかったのには、必ず裏があるはずだ」


 リベアブラザーズは大陸屈指の大企業だった。

 そんな大企業が、日々価値の変動する貨幣を、分散せずに一つに集中することなどありえない。

 暴落する可能性があるというリスクを考え、本来ならば様々な貨幣を持っておくべきだ。

 しかしリベア系列の企業はそれをしていない。

 レギオンという貨幣単位に全てを集中していたわけだ。

 何か裏があると考えるのが普通だ。


「ワシが思うに、リベアがこんな無謀なことをしたのは、何か決定的な情報があってのことだと考えている。ハクロアの価値はまだ大丈夫だが、いつ暴落してもおかしくない。リベルテはすでに価値が下がり続けている。それに比べレギオンは安泰だ。どうしてレギオンだけが大丈夫だと判ったのか。そこがヒントになると思う」


 つまりはシュラディンの言う通りなのだ。

 貨幣一点賭けもさることながら、では何故一点賭けの対象がレギオンだったのか。

 ヴェクトルビアの事件以降に貨幣収集を始めたのであれば、ハクロアに手を出さなかったのもうなずける。

 だが話を聴く限り少なくとも収集はハンダウクルクスでの事件以降になる。

 となれば当然、レギオンだけでなくリベルテも一点賭けの対象になってもおかしくはない。


「奴らは知っていたのか……?」



「――――そうかも知れんな」



 ふいにウェイルの疑問に答える声。

 振り向くと、そこにはサグマールがいた。


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