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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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ハーフエルフの少女 イルアリルマ

「ううううううう、やったあああああ!! ウェイルさんに勝っちゃったよ!」

「うえぇえ!? ウェイル兄のこと、知ってる!?」


 突如豹変した彼女にギルパーニャも目を丸くする。


「いやぁ、まさか憧れのウェイルさんに認められちゃうだなんて……。私、今回不合格でもいいや!」

「……おい、ちょっと話が見えないんだが……」


 驚いたのはウェイルも同じ。

 まさか今の今まで生意気な態度をとってきた彼女が、突然自分のことを憧れと言い出すとは予想できるわけもない。


「あ、あの! 生意気な態度をとってごめんなさい! 私、控室から尊敬するウェイルさんの姿が感じたものだから、いてもたってもいられなくて! つい出しゃばった真似をしてしまいました!」


 今度はぺこぺこと頭を下げてくる。一体どうしたものか。

 顔を赤く染め、必死に謝ってくる。

 ウェイルはとりあえず名前を訊くことにした。


「君、名前は?」

「私、イルアリルマと言います。リルと呼んでください」

「リル、君は一体どうしてこんなことを?」

「今言った通りです。ウェイルさんを"感じた"から。現役のプロがどれほどの実力か、確かめてみたかったんです。それに以前から一度会ってお話ししたいと思っていまして」


 先程の生意気な彼女はどこへやら、尻尾があれば振りまくっているに違いないほど、彼女は目を輝かせていた。


「でも折角話すだけじゃもったいなかったので、つい演技をうってしまいました。貴方を試してみたかったんです。凄いです。わざとこけたのを見抜くなんて。バレバレでしたかね?」

「いや、いい演技だったよ。優秀な鑑定士ってのは、自分を隠すのも得意だからな。第一試験一位通過もあるし、君は素晴らしいプロになれると思う」

「ホントですか!? その言葉を聞けて私自信を持てましたよ!」


(……今まで自信がなかったの!?)


 ギルパーニャは、はしゃぐイルアリルマと自分を見比べてみる。

 彼女の演技にも全く気付かず、それどころかウェイルへ強気な態度を取るほどの自信。

 同じ受験者にも関わらず圧倒的な実力差をギルパーニャは感じてしまったのだ。


(……うう、私、リルとフレスにも全然勝ってるところがないよ……。才能、ないのかなぁ……)


 と思わず悲観してしまうのだった。


「ウェイルさん、そっちの二人はお弟子さんですか?」


 イルアリルマの話題は、落ち込むギルパーニャと、いじけるフレスに及ぶ。


「この青い髪をしている方がフレス。俺の弟子だ。そしてこっちがギルパーニャ。まあ、妹みたいなもんだよ」

「へぇ! 見たところ私より若そうなのにプロ目指すなんて凄いです! ここにいるってことは第一試験も受かったってことですよね!?」

「うん、そうだけど……」


 イルアリルマに問われて、ギルパーニャは俯きながら答えた。


「やっぱり! 貴方、ギルパーニャさんって言ったよね? 凄い才能ですよ! 自信を持ってください!」

「…………え?」


 イルアリルマは腰を落として、ギルパーニャに向き合ってくる。

 まるでギルパーニャが落ち込んでいたのを見抜いていたかのように、そっと頭を撫でてきた。

 その手は少しひんやりとしていたけど、とても優しかった。


「貴方達、凄い才能を持ってますよ。お世辞ではないです。私が貴方達くらいの時は、第一試験すら合格できなかったんですから」

「…………うん。ありがとう……」


 頭を撫でてくれるのは師匠とウェイル以外では始めてだった。否応にも照れてしまう。 


(……ははぁ、ギルの奴、リルとの実力の差を見せつけられて落ち込んでいたのか)


「素晴らしい察覚だな」


 エルフの持つ感覚の一つ、察覚。人間の心理状態すらも察することが出来るようだ。

 

「はい♪ 私の自慢の能力の一つです」


 ギルパーニャの頭を撫で終わったイルアリルマは、続いてフレスに手を差し伸べる。


「フレスさん、さっきはごめんなさい」

「ううん。いいんだよ。ただ一位を取れなかったことが悔しかっただけだから!」


 ようやく構ってもらったのが嬉しかったのか、それとも言葉通り悔しかったのか。

 少しばかりフレスの語気は荒くなっていた。


「こういうのは順位じゃないですよ! 大事なのは合否ですから。フレスさんは合格した。それは立派なことです」

「そう、なのかな……?」

「もちろんですよ♪ それにフレスさん達だって他の人に比べたらかなり早いんですよ? それで落ち込むなんて、他の人に失礼です」


 優しく諭すそうイルアリルマ。

 彼女の声はとても心地よく、聞く者の心を穏やかにさせる。

 これもエルフの能力なのか。


(そんな力は聞いたことないな)


 だとすればこれはやはり才能だ。 


「……うん。そうだね。合格したことに喜ばなくちゃね!」


 フレスもすっかりご機嫌だった。


「そうです♪ そうだ、フレスさん、ギルパーニャさん、この試験のことなんですけど――」


 フレスとギルパーニャをあやすその姿に、ウェイルは彼女の才を垣間見た。

 落ち込んでいたフレスとギルパーニャの姿はすでにない。イルアリルマのペースに巻き込まれ、笑顔を取り戻している。

 彼女は上手い。

 人を持ち上げる話術も然ることながら、何より彼女は会話で落ち着いている。

 それは相手にも当然伝わり、価値のある会話を演出するために必要不可欠な才能だった。

 現にフレス達は、無意識の内にイルアリルマを信頼している。


「――それで、あの鑑定士さん、裏オークションを4回も摘発してですね。大勢の犯罪者を捕まえたって話ですよ」

「すごいねぇ! 他にも面白い話はないの!?」


 会話を弾ませる三人は、まるでライバル同士だとは思えないほどリラックスしたものだった。


「リルさんって色々知ってるんだねぇ!」

「はい、それはもうプロ鑑定士になることが夢ですから! 去年は第三審査で落ちちゃったので、今年こそは絶対に受かるつもりです!」

「ボク達、初受験なんだ。お互いに頑張ろうね!」

「そうですね♪」

「フレス、ギル、俺は審査の仕事に戻るからな。また後で」

「うん♪」

「ウェイルさん! また後でお話ししていただいてもよろしいですか?」

「構わないよ」

「リルさん、夕ご飯、一緒に食べようよ!」

「いいですね! ……いいですか?」

「もちろんだ」


 少し不安げに尋ねてくるイルアリルマに、ウェイルは快く頷いた。

 その後、控室に入った三人と別れたウェイルは、受験者で殺到する受付へと戻り、壺の鑑定を行うことに。

 鑑定をしながらふと思ったことがある。



(……間違いなくリルは……。何せ"感じた"って言っていたもんな……)



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