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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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うってかわって

「よく判りましたね」

「まあな。これでも一応プロ鑑定士だからな」


 少女が不思議な雰囲気を身に纏っている理由は、まさにこれであった。


 神獣――エルフ。


 エルフは神獣と呼ばれる生物でありながら、人間に非常に近い存在だとされている。

 伝説では、長い耳に長寿命とよく語られることが多いが、実際はそうではない。

 確かに耳が長く、尖っていたりする者もいるが、これには個人差があり、人間と同等程度の長さしかない者もいる。寿命もまた然りだ。

 最近では、エルフの個体数が雌雄どちらも非常に少ないために、他種族と交わるケースも少なくない。

 人間と交われば当然耳も普通の人間と変わらなくなるし、寿命だって100年生きれば大往生だ。

 ただ、人間と大きく違うのは、生まれ持つ感覚の数。

 人間は視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚という五感と呼ばれる5つの感覚を持っている。

 しかしエルフは、これら5つの感覚に加え、察覚、魅覚と呼ばれる感覚を持つとされている。


 察覚とは、察する力。

 俗に気配と呼ばれるものを、敏感に感じることが出来る力。

 これが優れている者は、目を瞑っていても、どこに何があるか全て手に取るようにわかるという。


 次に魅覚。

 人間も芸術品や美術品を見て、美しい、魅力的なものだと思うことは多々ある。

 多くの場合、それは感性と呼ばれ、人を魅了したり感動させたりするものだ。

 ただそれは個人の感覚によるものが大きく、感性を表現するための具体的な言葉を、人間は持ち合わせていない。

 それがどう美しいのか、判りやすい説明は出来ないし、表現することも出来ない。

 しかし魅覚を持つ彼らにはそれが易々と出来てしまう。

 あまりにも的を得た表現をすることが出来るし、それ故に完璧な模写すら簡単にすることが出来るのだ。

 脳内に思い浮かべた情景や作品を、そっくりそのまま復元することが可能な力、それが魅覚であると言える。

 エルフである彼女も、むろん魅覚があるに違いない。

 ただ、ウェイルが今気になっているのはそんな能力のことなどではない。

 もっともっと不自然な雰囲気を彼女から感じたのだ。


「君、わざとこけたろ?」


「…………え?」


 ウェイルが問うと、彼女はキョトンとした顔を浮かべる。


「恍けても無駄だよ? 君、意外にしたたかだな」


 未だ地面で泣き言垂れるフレスを無理やり起こしながら、そう切り込んでいく。


「そもそも、そのメガネは何なんだ?」

「メガネ、ですか?」

「そうだ。エルフであれば、人間にはない感覚、察覚があるはず。目を瞑っていても物事を把握できる能力を持つ君が、どうしてメガネなんか掛けているんだ」

「ちょっと、ウェイル兄! 何言ってんのさ! メガネを掛けるくらい普通じゃない」

「人間ならな。エルフには必要ない物なんだよ、眼鏡ってのは。それに感覚が優れているんだ。そうやすやすと転んだりするもんか」

「……何が言いたいの? ウェイル兄?」

「だから言ったろ。わざとこけたってな」


「どうして私がわざとこけたと言い切れるのですか?」

 

 面倒くさそうに服に付いた埃を払いながら、彼女は立ち上がる。

 その目は鋭く、突き刺すような視線をウェイルへと向けてきた。

 その視線こそ何よりの自白であるとも知らずに。


「メガネが壊れなかったからさ。それこそ傷一つついていない」

「……傷、ですか?」

「そうさ。アンタは俺達が見ていた限り、フレスにつまづいて頭からこけた。であるならば本来、顔の真正面にあるメガネに真っ先に傷がつくはずじゃないか? だが、さっき俺が拾って返す時に見てみたが、そんな傷は全くなかった。だから確信出来たんだよ」

「偶然ってことは?」

「そりゃあり得るぞ? でも俺は見たんだよ。アンタがじたばたして眼鏡を探す時、一度だけメガネに手が当たったことをな。普通一度手に当たったら、その場所付近を重点的に探すだろう。君はそれをしなかった。それがわざとだという何よりの証拠だとは思わないか?」


 ウェイルの推理に、彼女は大きく、それでいて上品に笑い始める。


「フフフフフッ!! プロ鑑定士さん。貴方、プロだけあって、推理力抜群ね! でもほとんど正解ではあるけど、正解の半分は運が良かっただけ」

「……どういうことだ?」


 今度はウェイルが疑問を持つ番。


「私は確かにエルフでわざとこけた。でも、貴方が推理して判明したのは、私がわざとこけたということだけ。動機については判っていない。そして私がエルフということに関しては、外見だけで判断したんでしょう?」

「そうだ」


 ギルパーニャは彼女がエルフだと見抜くことは出来なかった。

 それはまだ彼女が経験乏しいことも一因だし、何よりエルフの数は少ない。

 実際にエルフと会ったことのある人間なんて、それこそ数えるほどだ。


「俺はエルフ族に会ったことがあるからな。すぐわかったよ」


 髪、瞳、肌の色。

 体のラインにスタイル。

 人間にはとても真似できない美しさの体躯を持つ、それがエルフの特徴だ。


「でしょうね。つまり貴方は推理から私をエルフと判ったわけじゃない。それに私はエルフじゃなくてハーフエルフなの。人間とエルフのね。最近は個体数の関係で純粋なエルフなんてほとんどいないわ。ほとんど正解って言ったけど、数少ない不正解がここ」

「……なるほどな」

「でも、私がハーフエルフだって知って、結局貴方達に何かあるの? 私がわざとこけた理由でも判るの?」


 ウェイルは彼女の行動について推理をして見せたが、結局のところ、何も判ってはいない。

 彼女は自慢げだった。

 私の動機が判らない以上、そんな推理も無駄だ、と言わんばかりに。

 そのことを視線で訴えてくる彼女にウェイルは、こりゃ強いな、と感じた。

 鑑定士に重要なのは、財力でも、人脈でも、ましてや知識でもない。

 自分の主張を意地でも通すという気概。それこそが鑑定士にもっとも必要な強さだ。

 論破され臆するということは、鑑定士にとっては殺されたと同じなのだから。


「これ以上、そちらが何か判ることはある?」

「参った、参った。これ以上は俺には判りそうもない。ハーフエルフさん」

「…………私の勝ち?」

「勝負をしていたつもりはこれっぽっちもないけどな。俺の負けでいいよ」


 ウェイルが手を挙げて降参のポーズをすると、


「ううううううう、やったあああああ!! ウェイルさんに勝っちゃったよ!」


「…………へ?」


「いやぁ、まさかウェイルさんに降参してもらえるとは! 感激ですぅぅ!」


 それまでの威圧的な態度から彼女は打って変わってはしゃぎ始めたのだった。









「……うう、いたい……」


 フレスはまだ、忘れられていた。


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