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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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第一試験合格と新たなライバル

「一番乗り~~♪」

「二番乗り~~♪」


 無事壺を死守し、二人はプロ鑑定士協会本部へと入った。


「あ、ウェイル兄だ!」


 入ってすぐ、受験者用の受付のところにウェイルがいた。


「早かったな」

「だって、簡単だったんだもん!」

「表が何やら騒がしかったけど、襲われでもしたか?」

「うん♪ でもやっつけちゃった」

「そうか。毎年そういう卑怯な輩が必ず出てくるんだよな。まあそんな奴らにやられるような奴はプロ鑑定士になんかなれっこない。そういう意味じゃお前らは素質があるよ。さあ、受付だ」


 ウェイルの指示に従い、二人は受験者受付を行うことに。

 受付口には多くの鑑定士が、受験者の為に待機していた。


「ここかぁ。……よし、ボク、行ってくるね!」

「じゃあ私も!」


 フレスとギルパーニャは別々の受付へ。


「第一試験の品物、持ってきました! 見てください!」


 フレスは白い髭を蓄えた、肌の黒い老けた鑑定士のところへ。


「受験票を提出しなさい」

「はい♪」


 鑑定士の鋭い目に気圧されることなく、フレスはポケットの中から受験票を取り出す。


「……あ」


 だが、その受験票は、先程の戦闘のせいで皺だらけになっていた。


「……ごめんなさい……。受験票、くちゃくちゃになっちゃった……」

「……ふむ。大丈夫。しっかりと名前もあるし、問題ないよ」


 その鑑定士だって、表の騒ぎ位承知している。

 何せ毎年同じような事件が起こり、そして毎年同じように受験票をぐちゃぐちゃにしてくる者がいるからだ。

 第一試験の担当を始めて数十年経つが、例外はない。

 もはや伝統といってもいいくらいだ。


(……ふむ。なるほど、ウェイルの弟子か……。師弟揃って受験票が汚いものだ)


「鑑定しよう。見せてくれ」

「はい♪」


(…………試験開始からわずか一時間。流石はウェイルの弟子であるな……)


 数年前の試験の時に自分のところに来た、若き鑑定士をつい思い出してしまう。


(あの時の試験とは違うが……。どことなく懐かしい……)


「……この壺は、なんなのだね?」


 老鑑定士は質問を投げかけた。


「シアトレル焼きの壺です!」


 フレスは迷わずそう返す。

 本来、プロ鑑定士が鑑定の最中、受験者に質問をすることはない。

 黙々と見定め、そして合否を出すだけである。

 しかし、老鑑定士はどうしても質問をしてみたかった。

 老鑑定士はすでにフレスが正解の壺を持ってきていると見定め終わっている、

 プロであれば、ものの数秒で判るレベルの物だからだ。

 それでもフレスに質問をしたのは、一重に懐かしさから。


(堂々とした返答。なるほど。間違いなく奴の弟子だな)


 そして思わず笑みを漏らしてしまう。

 老鑑定士の表情の変化に、フレスはキョトンとしていたが。

 フレスを見上げた老鑑定士は、再び真剣な表情に戻り、伝えた。


「……これは間違いなくシアトレル焼きの壺だ。フレス、おめでとう。君は第一試験、無事合格だ!」

「ホント!? やったぁぁぁぁあああっ!!」

「これが合格の証のドッグタグだ。身に着けておけ」

「うん♪」


 与えられたドッグタグを身に着けるフレス。


「これ、綺麗だね! ありがとう!」

「失くすなよ? それがないと第二試験を受けることが出来なくなるからな」

「判った! ありがと、鑑定士さん!」


 ブンブンと手を振ってと立ち去るフレスに、老鑑定士は思う。


(……やはり伝統は引き継がれるものだな……)





――●○●○●○――





「ボク、合格したよ!」

「私も!」


 二人揃って無事第一試験を突破することが出来た。

 祝いのハイタッチを交わし、二人はウェイルのところへ向かう。


「師匠! 合格しました!」

「良かったな。心配はしてなかったけど、少し安心したよ」

「ボク、1番に合格したんだよ! もっと褒めてよ!」

「あら、フレス。確かにここへ入ったのはフレスが一番だけど、合格を言い渡されたのは私の方が先だよ! 1番は私!」

「ボクだよ!」

「私!」


 ううーー、と弾ける視線を送り合う二人の間にウェイルが入る。


「残念ながら、どちらも1番じゃない。お前らは3番と4番だからな」

「「にゃんですとっ!?」」


 信じられないと言った二人。


「そ、そんな……。一番に合格するつもりだったのに……。あの男達のせいだ……!!」


 フレスに至っては手を床についてボソボソと嘆いている。


「ウェイル兄、1番の人って、どれくらいで来たの?」

「開始して20分後くらいかな」

「20分!?」


 フレス達のタイムがおよそ一時間。

 開始して即座に動き、素早く鑑定を終わらせ、壺を買いに行った二人。

 スピードだけで言えば、プロ顔負けの手早さである。

 そんな二人の三分の一程度で、1番は合格したことになる。


「そんなの無理だよ! 鑑定だけでも20分はかかるよ!?」

「それでも早い方だけどな」

「一体どうやって……!?」




「それはね――――音だよ」




 その声と共に、合格者が入室できる控室から出てきた、一人の女の子。

 とはいえ、年齢で見れば十七、八くらいだろう。少し幼さが残るものの、眼鏡を掛けたその顔は、とても凛々しく見え、知的な雰囲気を持った少女だった。


「……音……?」

「はい。私はね、音で鑑定することが出来るんです」


 こつこつと歩いてくる少女。

 独特な雰囲気に、思わず見とれるギルパーニャだったが。


「音はね、何でも私に教えてくれるんですよ――あうっ!」

「一番乗りが良かったのに……。イジイジ……。…………って、ふみゅううううっ!!」

「あれ!? ……って、ふぎゃああ!!」


 その少女は、地面に手をついて落ち込むフレスにつまずいてしまった。

 いじけるフレスを巻き込みながら体勢を崩し、盛大に顔から地面に突っ込むメガネの少女。

 フレスはと言うと、その少女の下敷きになっていた。


「あれは痛いよ……」

「痛いな……」


 不思議な雰囲気もぶち壊しである。


「あれ? メガネ! メガネ!!」


 こけたかと思えば、今度はメガネを紛失した模様。

 目の形を3にして、必死に探している。

 じたばたするあまり、まさに正面の方にあるメガネに気付いていない。


「……目の前にあるのに……」

「意外にドジなのか……? …………ん? 今……」


(……よく考えると、あれだけの勢いでこけたはずなのに……。この娘まさか……!! なるほど、そういうことか……!)


 ウェイルはクックと笑うと、眼鏡と拾って、何やらしげしげ観察した後、彼女に渡してやった。


「ほら、眼鏡だ」

「は、はい! ありがとうございます!」


 少女はウェイルから渡された眼鏡を急いで掛ける。

 ウェイルと顔を合わせた少女は、恥ずかしさで顔を赤らめていたが、プイと顔を背けたかと思うと何事もなかったかのよう立ち上がった。

 パンパンと服に着いた埃を払い、一度咳払いしたのち、説明を続ける。


「物には、その物特有の音があります。壺を叩いた時の音、割れた時の音、砕いた時の音。その音によって、私は材質を知ることが出来るです」


(いや、こけたことについては何も言わないのか?)

(ウェイル兄、彼女がなかったことにしてるんだから言及しちゃダメ)


「今回の試験、最初に壺が割れましたね? その音で、私は壺がシアトレル焼きだとすぐに判ったんです。音が20か所響き、一つだけ音が違いましたから、それが贋作だとすぐに理解出来ました」

「音でシアトレル焼きだって判ったの!? そんなバカな……」


 ギルパーニャは愕然とする。

 自分であれば、20分かかる鑑定を、彼女は一瞬の音だけで終わらせてしまう。

 少しばかりその力に不信感はあるものの、1番で合格した事実は変わりない。

 力の差を感じざるを得なかったからだ。


「音で金属に含まれる成分の含有量が判る人間もいると聞いた。君もそうなんだろう?」

「ええ。私なら可能ですよ」


 聴力や音感が飛びぬけて優れている者は、プロ鑑定士の中でも少なからずいる。

 今言った物体の成分含有量を調べたりすることも出来るし、まさに音、すなわち音楽関係の鑑定にも重宝される存在だ。

 音によって一瞬で鑑定を終わらせてしまう。

 第一試験の作業工程である、取得、鑑定、購入のうち、取得、鑑定を排除できるわけだ。

 20分で合格したことにも十分頷ける。


「ギルパーニャ、落ち込むなよ。人間誰しも、得手不得手はあるもんだ。それに彼女、人間じゃないっぽいぞ」

「…………なんですと?」


 上から下まで見回してみるも、どこも変わった様子はない。


「……エルフ、なんだろ?」


 ウェイルの問いに、彼女はメガネの位置をくいっと直す。


「……ええ。まさか見破られるとは思いませんでしたけどね」


 彼女は薄く、そして切なげに唇を釣り上げたのだった。


「……うう、ボクのこと、みんな忘れてるよ……」



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