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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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壺のかけら

 サグマールの開始の合図に、どうしたら良いかと戸惑う多くの受験者達。

 しかし、その中には機敏に行動を開始する者達もいる。


「フレス! あっちをお願い!」

「うん!」


 開始の宣言と同時に走り出したフレスとギルパーニャ。

 狙うは――粉々になった壺の欠片。

 二人はそれぞれ、別の場所で割れた壺の欠片を取りに行く。


「そうだ。これなら仮に片方が贋作でも、もう一つが本物なんだから鑑定は可能だ」


 壺の贋作は一つだけ。ならば二か所以上の欠片を取れば、必然的に本物の欠片は手に入る。


「やった! 大きい欠片もーらい!」

「フレス~! こっちも大きいの、手に入ったよ~~~!!」


 開始と同時に動き始めたフレスら含む先陣組が、次々と壺の欠片を確保していく。

 その様子をただ呆然と見ていた他の者達は、今頃になって危機感を覚え焦り始めた。


「ま、まずい……!! 欠片が無くなる……!!」

「おい、その欠片は俺のだ! 返せ!」

 

 壺の欠片を巡って争いまで起こり始める始末である。


「……あの連中、駄目だな」


 初動の遅い者は、この試験では必ず落ちる。

 もうすでに欠片が手に入らず、絶望している者もいるくらいだ。

 粉々になった破片は、開始十分後には全て無くなっていた。


「ウェイル~、欠片、手に入れたよ」

「お前ら、動くのが早かったな。それでいい。さぁ、急いで鑑定して、本物を手に入れてこい! 俺は協会内で待っているからな」

「うん。そういえばウェイルはこれから何するの? カラーコインの鑑定?」

「いや、実は秘密にしていたが、俺もこの試験の審査員をすることになっている。だからこれから第一試験が終わるまで、お前に口出しは出来ない」

「そ、そうなの!? ……うん。最初からウェイルの力を借りるつもりなんてなかったし、審査員になるんなら仕方ないね。ボク、頑張るからね!」

「ウェイル兄! 私達、第一試験を一番でクリアして見せるからね!」

「期待してるよ。それじゃ二人とも、幸運を祈る」


 ウェイルが二人の肩をポンと叩くと、二人はやる気満々な笑みをこちらへ投げかけてきた。


「「絶対合格してやるー!!」」


 拳を上に突き上げて意気込む二人を背に、ウェイルは協会内へと戻ったのだった。






 ――●○●○●○――






 壺の欠片をしげしげと見定めるギルパーニャ。

 二人が手に入れたのは大きめの欠片四つ。内一つは手のひらサイズもある、とても大きな欠片だった。


「色は……どっちも黒いね」

「うん。触った感じ塗装されたわけではなさそうだよ」

「焼き方は……、うん、普通だ。一般的なものと変わらない」

「ギルの欠片とボクの欠片、どこか違うところあるかな?」

「うむむむ。同じように見える。ねぇ、こういうのってフレスのが得意でしょ?」

「うん。ボクは間違いなく一緒の物に見えたんだ」

「なら間違いないと思うよ。問題はこれが何だか、なんだけどさ」

「ねぇ、ギル。壺って、大抵表面につやがあったりすると思うんだけど、これにはないよね。何かヒントにならない?」

「そうだなぁ……。つやを出すって言ったら釉薬を塗るんでしょ? それでこれにはそれがないとなると…………あ! そういえば!」

「何か判ったの!?」

「これ、シアトレル焼きの壺だよ! うん、間違いない! 釉薬を塗らないのはシアトレル焼きの壺だけだ! この黒い色も、表面にかまどの炭が付着して出来た色なんだよ!」

「……ペロリ。ホントだ! 炭の味だ!」

「……フレス、それで判るの?」

「うん」

「そ、そう……。ならこの壺、シアトレル焼きで間違いない。早速買いに行こう!!」


 鑑定が終わって、嬉々として走り出すギルパーニャ。

 それに対してフレスはというと、視線は横にして立ち止まっていた。


「どうしたの? フレス」


 怪訝な顔を浮かべるギルパーニャ。

 今は急いで買いに走らなければいけない時。

 確かにサグマールはこの都市に必ず正解の壺は売っているといった。

 しかし、その数には限度があるはずなのだ。

 受験者は、最初のアクシデントや、自信喪失で帰ったものを除外しても、まだ2000人近く残っている。

 それだけの人数が、シアトレル焼きの壺に集中したならば、数が足りなくなるのは目に見える。


「フレス、急がないと……!!」

「ねぇ、ギル。あの人達にさ」


 フレスが指さしたのは、行動が遅くて欠片が手に入らなかった受験者達。


「あの人達に、この欠片、分けてあげない?」

「な、何言ってるのさ、そんなこと駄目だよ!」

「ボク、壺の数が足りなくなる危険性は判ってるんだよ。でもさ、あの人達、可哀そうだよ。あの人達も、ボクらみたいにたくさん勉強してきたはずなんだ。それなのに、欠片が手に入らないで落ちる、なんてあんまりに思えたんだ。ねぇ、駄目かな?」

「う~ん……。私達も余裕があるわけじゃない。ライバルは少しでも蹴落としたい。でも、フレスの言いたいことは理解できるよ……。判った。欠片を置いてこう。でも置いておくだけだよ? 私達からあの人達にあげる、なんてことはしない。ここに置いていくだけ。彼らがこれに気付いて鑑定するんなら、それはそれでいい。フレス、いい?」

「うん! さすがにこれどうぞ、なんてボクもしないよ! ボクらはただ、この欠片をここに忘れていくだけ!」

「そそ、忘れてしまっただけ、だよ!」


 フレスとギルパーニャは持っていた欠片を、その場において立ち去った。


「おい、壺の欠片があるぞ!」


 残された受験者達は、奇跡的に落ちていた壺の欠片を、皆で分配し、鑑定を始めることが出来たのだった。



 ――ただし一部の者は、走り去ったフレスとギルパーニャの姿を見て、いやらしい笑みを浮かべていた。


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