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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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プロ鑑定士試験、開幕

「うわあああーーーー!! 見てよ、ギル! 人でいっぱいだよ!」

「こ、こんなに受験者がいるの!?」


 ついにプロ鑑定士試験第一試験の日を迎えた。

 ウェイルを含む三人は、試験会場であるマリアステルのプロ鑑定士協会本部前へとやってきていたのだが。


「……こりゃ例年より多いな……」

「そうなの!? うう、倍率が高そう……」


 ざっと見渡す限り、受験者数は千人をゆうに超えている。

 巨大な建造物であるプロ鑑定士協会本部周辺は、見渡す限り人で埋め尽くされていた。


「ここから見えるだけでも二千人はいるよ……。だとすれば合格は何人になるんだろう……」

「なに、どうせ実力の無い奴はすぐ落ちるんだ。倍率など関係ないさ。それに合格者数は決まってないんだ。実力があれば絶対に受かるよ」

「……うん! そうだね! それで試験時間っていつからだっけ?」

「今日の正午だ。時間的にもそろそろだぞ」

「フレス、ウェイル兄、あれ見てよ!」


 ギルパーニャの指さす先。

 プロ鑑定士協会本部の巨大な扉が、ズズズと大きく音を立てて開き始めた。

 開き切った扉の向こうから、大勢のプロ鑑定士を引き連れて、サグマールが先頭で姿を現す。

 騒がしかった周りは、一気にシンと静まり返った。

 サグマールが手を高らかにあげ、声をあげて叫んだ。


「ただいまより、プロ鑑定士試験、第一試験のルールを発表する!」


 固唾を飲んで見守る受験者達。フレスやギルパーニャも例外ではない。


「まずは一言言ってこう。ようこそマリアステルへ参られた、受験者の諸君! 我々は真実を見抜く力を持った者を歓迎する。どうか、その力を、ここで存分に発揮してくれたまえ!」


(サグマールの奴、似合わないことを……)


 普段とまるで違う、威厳あるサグマールの声に、ウェイルは思わず笑いを殺す。


(ちょっと、ウェイル! 笑っちゃダメでしょ?)

(すまんすまん、だが、素のサグマールを知ってちゃ笑いたくもなるよ)


「皆、配られた受験票はあるな? この受験票は、第一試験の間、君たちの命となる。もし紛失することがあれば、即座に失格とする。心しておくように。……それでは第一試験の課題を発表する!!」


 サグマールがパチンと指を鳴らす。

 受験者の目もサグマールに注目するが、何も起きる様子はない。


「……なんなんだろう……?」

「ギル、上だよ!」


 フレスが天に向かって指を差す。

 つられるように周囲の受験者も天を仰いだ。

 すると、空にいくつかの黒い点が見えた。


「受験者の諸君。言っておくがプロ鑑定士試験は命懸けだ。試験中に命を落としても、我々は責任を持たない。そのことをよく胸に刻んでおいて欲しい!!」


 空に浮かぶ黒い点は徐々に大きくなってくる。


「ギル! 何か降ってくる!! 避けないと!!」

「ホントだ……!! ウェイル兄も逃げて!」

「判ってるさ」


 ウェイル達は急いで屋根のある店先へ避難する。

 また、空の黒い点に気付いた者達もウェイル達と同じように避難していた。

 しかしながら、未だ残る数千人は気づかないまま。

 あまりにも多くの人数が集まったため、周囲の一人二人がいなくなっても、誰も不審に思わない。

 そしてその黒い点は、ついにその正体を現した。


 ――パシャン!! ガシャン!!


 ――バキャン!! ――ドスッ!!


「ぎゃあああああああ!!」

「な、なんなんだ!? 空から何か振ってきたぞ!?」

「逃げろ……!! うわぁああ!!」

「……壺……!? 花瓶……!?!? うがぁあああ!!」


 黒い点の正体、それは重く大きな壺であった。

 数多く降り注いだ壺は、地面の落ちる瞬間、粉々に砕け散り、その破片が受験者達を容赦なく襲った。

 中には試験受験を断念せざるを得なくなったほどの重症者も出ている。

 騒然とし、恐怖すら覚える受験者達の前に、またもサグマールの声が響く。


「言っただろう? プロ鑑定士試験は命をも失いかねないと!! 人に当たらないように落としている為、死者は出なかった。だが、怪我人はたくさん出ただろう? 鑑定士はいつ命を狙われるか判らない。この程度のことで怪我をする奴なんざ、鑑定士の素質なんてないのだよ!! もし、死にたくない奴がいるのならば、今すぐ立ち去ることだ!」


 その言葉に、受験者達の反応は様々だった。

 何せ今の壺を落とす行為は、本当に命を失いかねないやり方だったからだ。

 プロ鑑定士協会はやりすぎだ、とか、いや、むしろ正論を言っている、など、様々な意見が飛び交う。

 中にはサグマールに直接抗議し始める者も現れた。

 サグマールは頑なに無視を決め込む。

 動揺する受験者達。今のことでやる気の削がれた者も少なくはなさそうだ。

 しかしウェイルに言わせると、まだまだ生ぬるいとさえ感じた。

 何故ならプロ鑑定士は、本当に命を狙われる立場になるのだから。

 ここ数か月の間だけで、ウェイルはどれほど命を失いかねない場面に遭遇しただろうか。

 やってられないとばかりに、数十人はすぐにこの場を去った。

 それが賢明な判断だろう。

 この程度で文句を言い、弱音を垂れるようでは、依頼者の理不尽な依頼には対応できまい。


「お前ら二人はどうする? 命の保証はないみたいだぞ?」

「何言ってんの!! 試験を受けるに決まってるでしょ!」

「そうだよ! この程度、リグラスラムでは日常茶飯事!」


 二人は笑みを浮かべて、サグマールの元へと歩いていく。

 未だ抗議を続ける者達を押しのけて、サグマールに言った。


「ねぇ、そろそろ試験、始めようよ! ボク、もうウズウズして我慢できないよ!」

「そうだよ! せっかく楽しみにしてた試験なんだ! 早く課題を教えて!」


 サグマールはフレス達を一瞥すると、ニヤリと笑みを浮かべ、そして説明を開始し始めた。


「第一試験、それは真贋鑑定だ! 課題は壺だ!」


 そう言ってサグマールは、粉々になった壺を指さす。


「今、合計で20個の壺を落としてみせた。この粉々になった壺の破片から、この壺が一体何なのかを鑑定してもらいたい。尚、20個の壺の内、1つだけ贋作が含まれているから注意してくれたまえ。正解の壺は、この都市の市場で必ず売られている。正解の壺を入手し、プロ鑑定士協会本部に提出した者が第一試験合格だ! 制限時間は午後6時まで。プロ鑑定士協会の扉が閉まった瞬間が終了時間となる! また、入手した壺の提出は一人一度しか認められない。そして提出の際は受験票も一緒に提出してもらう。受験票がなければ壺の提出も認めない。以上、これが第一試験のルールだ!」


 周囲はごくりと息のを飲む中、のんきにも目を輝かせる二人がいる。


「へぇ、面白そう!」

「筆記試験じゃなくて良かったね! フレス!」

「うん! ギル、一緒に第一試験、合格しようね!」


 そしてサグマールは大きく片手をあげて、大きく叫んだ。


「それではプロ鑑定士試験、開始だ!!」


 ――正午。


 ついにプロ鑑定士試験、第一試験が幕を開けた。



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