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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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最後の猛勉強

 それから試験の前日まで、フレスとギルパーニャは勉強の日々を続けた。

 フレスは苦手であった為替計算も、そこそこ出来るようになり、またギルパーニャも実際に名品、珍品に触れて目を肥やすことが出来た。

 ルークやヤンクに支えられながら、二人は勉強に没頭することが出来たのだ。


「32カラドナをレギオンに本日レートで換算すると?」

「えっとね、…………判った! 32カラドナは2ハクロアで、レギオンはハクロアの半分の価値だから……、答えは4レギオン!」

「正解だ。以前のお前ならここで1レギオンと答えていたところだ。よく勉強したな」

「えへへ、ルークさんにしっかり教えてもらったんだ!」


 他にもいくつか問題を出してみたが、時間は掛かるがしっかりと正解を導きだせている。

 これなら筆記テストに関しても、何とかなるだろう。


「えーっと、このラルガポットは……あ、贋作だ!」

「どうして贋作だと思った?」

「まずは叩いてみた音。少し鈍い音がしたんだ。ミスリルはもっと綺麗な音が出るでしょ? そして呪文印の彫り。あまりにも雑だよ。しかもご丁寧にシリアルナンバーまで入ってる。本物にシリアルナンバーはないから」

「ふむ。正解だな。ギルパーニャもよく勉強している」

「私、筆記は得意だけど、真贋鑑定には自信がなくて。だからフレスが羨ましいよ」

「ボクだって、ギルの頭の良さ、尊敬してるんだから!」

「よし、二人とも。合格だ。試験を受けてもそこそこいい成績を残せるだろう。頑張ったな」

「「やったぁ!!」」


 思わずハイタッチをする二人。

 まるで試験に合格したかのような騒ぎ様だ。


「第一試験は明日、マリアステルで開催される。受験自体は誰にでも出来て受験料も無料だから、相当な人数が集まるぞ。お前ら、負けるなよ」

「うん。そういえばさ、ボクら、試験の勉強はたくさんしたけど、実際の試験方法について詳しいことは何も知らないんだよね」


 プロ鑑定士試験の詳細について、ウェイルは敢えて何も語っていなかった。

 そうした理由は、プロ鑑定士試験の不透明さにある。

 実はウェイルも、それほど詳しい内容については知らないのだ。


 何せ――


「プロ鑑定士試験は、その内容、日程について、直前まで決まっていないんだよ」


 ――ということだからだ。


「決まっていないの!?」

「ああ。決まっていることは2つ。試験は第五次試験まであるということと、第一試験のみマリアステルで行われるということ。これだけなんだよ。試験の内容は、毎回全く違うし、当日になって急遽変更されることすらある」

「そ、そんな……。ウェイルの試験の話を聴いて参考にしようと思ってたのに……」

「そりゃ残念だったな。俺の経験談は全く意味がない」


 これは当然のことながら、全ての受験者が公平になるようにするためだ。

 フレスやギルパーニャのようにプロの弟子をしている者と、そうでない者とが、試験に関しての知識に差があってはならない。

 不公平感を払拭するための配慮でもある。


「ウェイル兄、昨年の試験の内容ってどんなものだったの?」

「確か第一試験は筆記で、第二試験は……、あ、そうそう、一人10万ハクロアを与えられて、それを1000万にしてこいって奴だったと思う。それで達成したのが一人だけだ」

「たった一人!? ……というか10万を1000万にした人が一人でもいたんだ!? その人凄いね!!」

「そいつ、確か第三試験で落ちたはずだけどな」

「ううう……。ウェイル兄、私、受かる気しないんだけど……」

「まあそれは去年の話だ。今年それがあるかは判らん。試験官次第だな」


 その後も色々と二人に質問されたが、残念ながらウェイルは本当にその問いの答えを持ってはおらず、二人から理不尽な抗議を受けたのだった。

 そろそろマリアステルに戻らなければ、試験に間に合わない。

 ということで前日の午前中にはヤンクの宿を離れることにした。

 そそくさと荷物を纏め、ウェイルは先に下の酒場へと降りていた。


「ヤンク。世話になったな」

「何、いいってことよ。久しぶりに賑やかな宿になって楽しかったぜ。ほら、弁当だ。三人で汽車で食べてくれよ」

「ありがたくいただくよ。そういえばルークは来ていないのか?」

「来てるよ」


 店の扉に手を掛けたルークがそこにいた。


「全く、お前さんの弟子を教えるのには苦労したぜ」

「ルーク。お前にも本当に世話になった。実際のオークションを体験出来て、あいつらもいい勉強になっただろうよ」

「なに、俺も面白かったよ。特にフレスちゃんの破天荒な行動力にはね。ギルパーニャちゃんの方も交渉術、会話力で言えばウチで囲っている鑑定士よりも優秀だ。彼女達の才能は本物だ。良い鑑定士になるよ。きっとな」

「俺もそう思うよ」


 ウェイルとルークはがっしりと握手を交わした。


「お待たせーーー」

「せーーー♪」


 大量の荷物を抱えた二人が、揃って下に降りてきた。


「二人とも、お礼は言ったか?」

「うん♪ でも改めまして、ヤンクさん、ルークさん、本当にありがとうございました!」

「……えっと、ヤンクさん。色々とお話ししていただいてありがとうございました。デイルーラ社を創立した話は、とっても面白かったです。ルークさん、オークションに参加させていただいて本当に感謝してます」


 少女二人に頭を下げられ、二人は少し照れ臭そうに揃って鼻の頭を掻いていた。


「いいってことよ。また来てくれよ。次こそはクマ……は無理かもしれんが、また上手い飯、食わせてやるからよ」

「二人とも、合格するんだよ? 合格したら、是非ウチの店で働いてくれ。歓迎するよ」

「「うん!」」


 フレスとギルパーニャも、ヤンク、ルークと握手を交わした。


「よし、じゃあ行こうか。汽車の時間が迫ってきている」


 少し急がねば乗り遅れてしまう。

 名残惜しいが、そろそろ出発しなければならない。


「また来るよ」


 親友に二人に手を挙げる。

 二人も無言で、それに応えてくれた。

 こうしてたっぷりと有意義な時間を過ごした三人は、試験会場であるマリアステルへと揃って足を進めたのだった。







 ――●○●○●○――







「ウェイルさん、います!?」


 息を切らせたステイリィが、必死な形相でヤンクの元へ駆けつけてきた。


「なんだ? ステイリィ。ウェイルならさっき帰ったぞ」

「なんですとーーーー!?」

「おいおい、一体、どうしちまったんだ?」

「実は、旧ラルガ教会に、『不完全』が潜伏していたことが判って……!!」

「『不完全』だと!? そいつらは今どうしてる!?」

「それが、それが――どうやらこの都市から脱出したみたいで……!!」

「行先は判るか?」

「それはまだ調査中です。ですが、この都市の結界が壊されている部分がありまして――」



「――壊された結界は――――マリアステルの方角なんです……!!」



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