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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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無駄に偉いステイリィ

「そういえばウェイルは何処へ行ったの?」

「用事があるとかで外に出てったよ」





 

 ――●○●○●○――






 二人がディベートオークションに参加している頃。

 ウェイルは治安局のステイリィの元へ訪ねていた。


「入るぞ、ステイリィ」


 無駄に大きな扉を開け、中に入ると。


「…………Zzz…………」


 これまた無駄に大きな椅子に、さらに無駄にふんぞり返っていびきをかいているステイリィが出迎えてくれた。

 実に彼女らしい歓迎の作法である。


「起きろ! このアホ!」


 こめかみを掴んで力を加えてやる。

 ギリギリという締め付ける音と共に、ようやく彼女は夢の世界から帰ってきた。


「……うむむむ……って、いひゃい! いひゃいいい!! 誰だ! このサスデルセルで最も偉い私をいじめるうつけものは! 死刑にしてくれる! 覚悟しろ!!」


 未だ半分寝ぼけ眼だというのに、それでも口調だけは偉そうなところが凄い。

 素でこれなのかと思うと、なんだか少しばかり不憫にも思えてくる。


「殺してやる! 覚悟しろ!」

「誰を殺すって?」

「そりゃ私をいじめる奴は皆殺し…………って、ウェイルさん!?」

「ああ、俺だよ、ウェイルだ」


 ウェイルの姿を捉えた瞬間、ささっと距離をとる仕草は笑えるレベルである。


「おはよう、ステイリィ。俺はこれからお前に殺されるようなんだが、その理由を説明頂きたい」

「ちょっ!? そんな滅相もない! 一体誰がウェイルさんにそんなことを!! 絶対に許せん! 殺してやる!」

「お前だよ、お前!」

「私!? 私がウェイルさんを殺すなんて口が裂けても言うわけないじゃないですか!」

「……口、裂いてやろうか……?」


 呆れてものも言えないが、いつも通りのステイリィで安心したと言えば安心した。

 ステイリィは急いで身だしなみを整えると、改まって椅子に座り直した。


「でっかい椅子だな……」


 およそステイリィには不釣り合いな、豪華な椅子。

 見るにアンティークのようで、そこそこの値段もするような代物だった。


「でしょう!? これぞ私の権力の象徴です!」


  フフンと自慢げに鼻を鳴らすステイリィ。

 その姿はごっこ遊びをする子供のようにも見える。


「サスデルセルの支部長に任命されたんだろ? 良かったな」

「これもウェイルさんのおかげですよ。クルパーカー戦争の時の功績は、上層部に大きく評価されたみたいで」

「だろうな」


 クルパーカー戦争は総責任者のレイリゴア本人が直接加担した事件だ。

 ここでステイリィは、中々に良い活躍をした。

 それだけでも昇進には十分な功績ではあったが、それを決定づけたのはイレイズの一声であった。

 聞くところによると、イレイズはステイリィに大変恩義を感じていたのだそうな。

 なんとイレイズがステイリィの昇進をレイリゴアに頼んだという話だ。

 故郷の王の頼みとあっては断るわけにもいかないだろうし、実際にイレイズを保護したという大きな手柄もある。

 となればステイリィが今、この椅子に座っているのも納得は出来る。


「これで自由に仕事がサボれるんですよ!」

「……そうかい」


(どう考えても人事を間違ってるよな……)


 口には出さずも目線だけで伝わったらしい。


「いいんですよ! もうすでになってしまったんですから!! 後は立場を利用するだけです!」

「開き直るなよ……」


 こいつといると、呆れる回数が多くて疲れ、げんなりしてしまう。


「そんなこと言っていいんですか? さっきの情報だって、立場を利用してのものですよ?」


 そう、それが今回の本題だ。

 先程少しステイリィが言っていた、ウェイルが治安局へ訪れるきっかけとなった話。


「本当なのか? 『不完全』の残党がいるという話は……」

「はい。実は最近、とある事件があったんですよ」


 ステイリィは新聞を取り出すとウェイルに手渡す。


「……殺人事件か……」


「はい。その家に住んでいた人全員が死んでいます」

「惨い事件だな。だがこれがどう奴らと関わってくる?」

「その事件なんですけどね。見つかったのは最近ですが、事件発生はもっと前だということが判ったんですよ」

「……どういうことだ?」

「事件が巧妙に隠されていたんです。まず死体なんですが、一見すると普通に寝ているような姿をしていたんです。ぱっとみ外傷が見当たらない。言ってしまえば綺麗だったんです」

「綺麗な死体……?」

「そうです。まるで人間の贋作のように、ね」

「……なるほどな……」


 『不完全』ともなれば死体の贋作を作ることなどわけもない。

 そもそも実際の死体を生きているように見せかけるだけだ。

 腐敗を防ぎ、色合いを良くするだけ。奴らにとっては朝飯前だ。


「奴らはいたのか?」

「いえ、我々が通報を受け、突入した時には逃げていましたね」

「逃げていた、か。逃げ足は流石と言ったところか」


 『不完全』の構成員は一人一人が超一流の芸術家であり、そして犯罪者だ。

 治安局の動きを探る嗅覚は凄まじいものがある。


「通報したのは誰なんだ?」

「それが電信で匿名でしたので。我々としても情報提供者は保護したいので探してはいるんですが……」


(『不完全』の偽装を見破っての通報か……)

 

 匿名の通報というところにウェイルは少し違和感を覚えた。

 何せ相手はプロの贋作士なのだ。

 住民が生きているように装うことなど朝飯前なのだ。

 それを見抜いて通報した、となると、それはもうプロ鑑定士クラスの実力がなければ難しい。


「他に情報になりそうなものあるか?」

「はい。奴らも逃げるのに手間取ったようで、いくつか証拠を残していったんですよ。それがこれです」

「――これは……!!」


 ステイリィが取り出した遺留品。それは驚くべきものだった。



「世界競売協会に照会してもらいました。間違いなく本物です」




 ウェイルの目の前に置かれた物、それは――。




「――世界競売協会で奪われた重役一人の――――指……っ!!」


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