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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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オークションの舞台裏

「……こ、怖かった……。あの人もウェイル兄の知り合いなの?」

「……ああ。治安局の人間でな。世話になってる奴の一人だよ」

「ボ、ボク、殺されるかもと思ったよ……!!」

「フレス、今のステイリィはな。相当権力を握っているんだ。下手に触れない方が身のためだぞ?」


 ステイリィはここ最近、大きく地位を上げたと聞く。

 若い女局員というだけでそこそこ重宝する存在らしいし、何より手柄を良く上げるのだ。

 ラルガ教会での事件、ヴェクトルビアでの事件。さらにクルパーカーでの事件でも大きく手柄を上げている。

 そのほとんどはウェイルのおこぼれという状態ではあるが、そこはステイリィ、全てを自分の手柄として報告しているのだ。

 特にヴェクトルビアとクルパーカーでの事件は大きく評価され、今ではサスデルセル支部の支部長にまで昇進している。

 ウェイルは手柄というものに興味はない。したがって手柄を独り占めされようがどうでもいいと考えている。

 むしろウェイルとしては、無報酬で事件に協力してくれ、しかも信用できる人物が昇進することは都合がいいとさえ思っている。

 要するにギブアンドテイクが成り立っていたわけだ。

 そんなわけで、この都市で彼女に逆らうことは治安局に逆らうことにもなる。

 フレスも下手にステイリィに言えないということだ。


「……ウェイル兄って、凄い人ばかり知り合いにいるよね……」

「ほっとけ」


 ステイリィの介入により、良くも悪くもフレスの発言は棚上げされることになった。

 ようやくとばかりにルークも会話に入ってくる。


「電信で何がしたいかは聞いたけど。本当にやるのか? この二人で」

「ああ、こいつらも鑑定士になれば嫌でもやることだ。試験対策も兼ねて練習させておきたい。構わないか?」

「無論だ。フレスちゃんにも借りはあるからな。喜んで協力させてもらう。早速これからやってみるか?」

「そうだな。出来る限り数をこなしたい」


 ウェイルとルークの会話に置いてけぼりを喰らうフレスとギルパーニャ。


「ウェイル、ボク達に何かさせるの?」

「そうだ。お前達はこれから3日間、オークション専属鑑定士をやってもらう」

「ええ!? ウェイル兄!? それ本当!?」

「本当だ。いい勉強になるぞ」

「き、緊張するよ……!!」

「……ギル、オークション専属鑑定士ってなんなの?」

「それはね――」



 ――オークション専属鑑定士。


 オークションハウスには必ず、一人以上の鑑定士が常駐している。

 オークションで落札した品に、鑑定証明書を発行するためだ。

 それ以外にも、競売品として提出された品が、本当に本物なのか鑑定しなければならない。

 それら業務を専属にこなす鑑定士をオークション専属鑑定士と呼ぶのだ。

 また、オークション専属鑑定士の数によって、オークションハウスの規模が決まると言っても過言ではない。

 大手オークションハウスになると、一日の取引が数百回に及ぶ。

 それほどのオークションを行い、業務を回すには、少なくとも数十人以上の鑑定士がいるとされている。

 ちなみにルークのオークションハウスには、鑑定士が4人ほどいる。

 昔はウェイルもこの中に含まれていたのだ。


「そんなこと、ボクらがしていいの!?」

「そうさ」

「ボクらプロじゃないんだよ? 失敗してもいいの!?」

「駄目に決まってるだろ? だから鑑定士は責任が重いんだ。でもお前達はその鑑定士になるんだ。遅かれ早かれ責任を持つ立場になる。だからこそ、今のうちに慣れておけ。二人とも、頑張ってこい」

「うん♪」

「不安だけど、頑張るよ。いこ、フレス」


 こうしてフレスとギルパーニャはルークに連れられ、実際の業務に携わることになったのだ。





 ――●○●○●○――





 ルークに連れられた二人が来たのは、第二オークション会場の舞台裏。

 多くの人が静かに、それでいて忙しなくオークションの準備を行っていた。


「ルークさん、ボク達、ここで何するの?」

「そうだな……。そうだ、二人はオークションに参加した経験はあるかい?」

「うん! 一度だけ、ギルと二人で参加したことがあるよ!」


(……普通のオークションじゃなかったけどね……)


「その時ウェイルから色々と教わったんだよ! サクラに気をつけないといけないとかさ!」

「……サクラか。そうか、結構深いことまで教えているんだな」

「…………」


 二人が参加したのは、盗品や拾得品などを扱った裏のオークション。

 これが果たして普通のオークションに参加したことになるのか、疑問ではある。


「なら一般的なオークションの流れは一通り理解は出来ているんだな?」

「うん!」

「ならば少しは安心だ。ならば一層、ここのオークションはよく見ておくんだ」


 ルークがそういうと、舞台表の方から歓声が聞こえてきた。

 たった今、競売品が落札されたようだ。


「……よし、うまく行ったみたいだな。二人とも、舞台表に移動しなさい。二人の席は用意したからな。しっかりと見学してみろ」

「……移動するの? 普通のオークションなら見たことあるから大丈夫なんだけど」

「それがな。この第二会場のオークションは普通じゃないんだ。しっかりと見学した方が後学の為になるぞ」


 舞台裏は次のオークションへ向け、忙しなく動き始めた。


「ルークさん、次の競売品、お願いします!」


 従業員と思わしき人がルークの元へやってくる。


「ああ、判った。ささ、移動しなさい。そうそう、二人は見学だからな? 間違っても入札なんかしないでくれよ?」

「判ってるよ♪」


 ルークに促され、オークション会場へと移動した二人。

 舞台裏から出る時、ルークが鑑定士らしき人物と打ち合わせしている様子が見えた。


「普通のオークションじゃないって、いったいどういうことなんだろ?」

「そうだなぁ。見てみれば判るよ」

「そだね」


 用意された席に座り、舞台を見ると、何やら見慣れない設備が施されてあった。

 真正面には2、3段ほど高い位置に机が用意され、そこに三人の鑑定士が座っていた。

 その両側には、同じ高さでそろえられた机。

 左には先程見た従業員と、そして舞台裏にいた鑑定士が座っており、対する右側には、一般人と思われる人と、これまた鑑定士が座っている。

 それら三者で取り囲むように置かれた真ん中の机。


「……ねぇ、あの席、一体なんなんだろうね?」

「私の記憶が正しければ、これって裁判所そっくりなんだけど……」


 そう、これはまさに裁判所の配置であった。

 真正面に座った鑑定士は、さしずめ裁判官といったところ。


「ボク、こんなオークションみたことないよ?」

「私だってないよ。でも師匠から聞いたことはある……」


 すると一人の従業員が、競売品らしきものを持ってきて、真ん中の机の上に置いた。

 周囲の喧騒も徐々に小さくなり、真とした雰囲気が会場を包み込む。


(……ねぇ、ギル。これって一体何なの!?)

(これはね――)


 コソコソ話を遮るかのごとく、真ん中に座っていた鑑定士が叫んだ。


「――これより、ディベートオークションを開催する!!」


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