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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第七章 プロ鑑定士試験編 『試験開始、新たな懸念』
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宗教都市再び

「よく来たな! ウェイル!」

「調子はどうだ? ルーク」


 サスデルセルにあるルークのオークションハウスを訪ねると、ルークは大歓迎してくれた。

 いつも通りの挨拶を交わした後、三人はルークの案内でオークション控室へと向かう。


「競売禁止措置の時には世話になったよ、ウェイル」

「あの事件か」

「お前が裏で手を回してくれたんだろ? あの後すぐに解除されたぞ」

「俺が直接解除したわけじゃないんだけどな。あのとき、実は裏で大変なことが起きていたからな」


 競売禁止措置の制定の元凶、『不完全』。

 奴らとクルパーカーとの大戦争は、誰もが知ることだ。

 しかし、そのことと競売禁止措置が直接関係していることなど、ルークは知る由もなかった。


「あの戦争事件、そんなことになっていたのか……!!」


 詳しい経緯をウェイルから聞くと、とたんに神妙な顔になるルーク。


「俺の得意先、クルパーカーにあったからな。被害にあったと聞いたんだが、そうか、そういうことがあったからか……」


 知り合いがクルパーカーにいたようだ。

 もっとも聞くところによると、復興の進むクルパーカーで何とかやっているらしい。


「まさかウェイル。お前さんも戦争に絡んでいたとはな。ホントお前はタフな奴だよ」

「そんなこともないさ。あの事件の後は、流石の俺も疲れたしな。それに事件に絡んだのは俺だけじゃない。最後はプロ鑑定士協会総出で挑んだんだから」

「大ごとだな……」

「大ごとだよ。世界競売協会にも被害が出たくらいだからな」


 これはルークには話さなかったが、あの事件の時、アムステリアの妹であるルミナステリアに盗まれた世界競売協会重役の指は未だ見つかってはいない。

 このことを公にするわけにもいかないし、かといって放置も出来ないため、治安局は捜査に難儀しているようだった。

 一通り世間話も済ませると、今度は本題に入る。


「ルーク。後ろの二人のことなんだが」

「ああ。一人はお前の嫁だっけ?」

「そうです! ……あだっ」


 間髪入れず返答するフレスに、デコピンをかましてやる。


「弟子だって知ってんだろ……」

「ああ、知ってるとも」


 にやつくルークにげんなりするウェイル。

 そんな中、フレスが不満そうに頬を膨らましていた。


「むぅ。一度は結婚した仲なのに……」

「フレス、お前、何言ってんだ!!」


 確かにハンダウクルクスではそういうことになった。

 でもそれはあくまで形式上の問題だ。


「フレス!? 一度は結婚した仲ってどういうこと!?」

「言葉通りの意味だよ?」

「ちょっとウェイル兄!? 説明してよ! どうして私に内緒でフレスに手を出してるの!?」

「みゅふふふふ、ウェイルに熱い告白されたんだよ?」

「おいおい、ウェイル! 本当に結婚しちまったってのか?」


 なんてわざと大声で驚いた素振りを見せるルーク。

 こちらを見てにやつく辺り、この雰囲気を楽しむ気らしい。なんて質の悪い。


「ウェイル兄! 聞いてるの? 説明してよ!」


「そうだぞ? ウェイル。親友の俺にくらい話してくれても――あっ」


 追及の面倒臭さに、思わず逃げてしまおうかと思った時である。

 背後から猛烈な殺気を感じることとなった。



「みゅふふ、それでね、ウェイルったらね♪」


「――ウェイルったら……?」


「誓いのキスみたいだなって、ボクの唇をさ!」


「――唇を………なんだって?」



「もう、それは想像にお任せするよ!」




「――殺す……!!」




「……え?」




 のんきにのろけていたフレスも、ようやく事の重大さに気が付く。

 殺気を一足先に感じ取っていたルークとギルパーニャは急いで隠れ、首元を掴まれたウェイルは半ば諦めの表情を浮かべていた。

 怨念をひねり出すような声の主が、ウェイルの影から出てくる。


「…………殺す」



「う、うう、あわわわわわわ…………ステイリィさん…………!!」



 目を真っ赤に染めたステイリィが、フレスを突き刺すように睨んでいた。

 対するフレスはもはや恐怖で泣いていた。


「ウェイルさん? 今このクソガキが言ったこと、本当のことですか?」


 背筋の凍る戦慄させる声。

 これは本当かどうか聞いているんじゃない。

 生きるか死ぬかを問うている。


「も、もちろん嘘だって。ほんのジョークだよ、なぁ、フレス?」

「そそそそそそそそそ、そうです! その通りです!!」

「本当ですか……?」

「か、鑑定士が嘘をつくもんか! なぁ!」


 必死にバンバンとフレスの肩を叩く。

 首をブンブンと縦に振り続けた。


「そうです! 鑑定士は嘘なんてつきません! ウェイルとは何もありません!」


 しばらくの間、突き刺すような視線が二人に降り注いでいたが。


「……そ! なら良かった~~!! てっきり私、ウェイルさんをこのクソガキに盗まれちゃったかと思いましたよ!」


 打って変わって柔和の表情になるステイリィに、一同胸を撫で下ろす。

 唐突に現れたこと云々なんてとっくに忘れ、とにかく命が助かったことに安堵する。


「私のウェイルさんが、浮気なんてするわけないですもんね!」


 私の、のところをやけに強調してくるが、聞かなかったことにしよう。


「ステイリィ、どうしてお前がここにいるんだ?」

「そりゃ汽車にウェイルさんが乗ったという情報を得てからですね。部下に後をつけさせたんですよ!」

「……それって犯罪じゃないの?」

「何か言いました?」

「何もないです」


 ギルパーニャもステイリィには勝てないと判断したようだ。黙って首を縦に振る。


「はぁ……」


 ウェイルとしてもため息を漏らさずにはいられない。

 誰もがステイリィの気配に当てられまいと遠ざかる中、元凶であるステイリィがウェイルに近づいてくる。

 最初は何事かと思ったが、あまりにもステイリィの気配が真剣そのものだった為、ウェイルも顔を近づけた。

 そしてステイリィは、こっそりウェイルに耳打ちする。


(……実はですね。この都市に『不完全』過激派の残党が入り込んだとの情報があったんです)


(…………っ!?)


 ステイリィの顔を見ると、強く頷いてくる。表情も真剣そのものだった。

 なるほど、これは口外出来ない情報だ。

 この情報を伝えるために、ステイリィはウェイルの元へと来たらしい。

 誰にも聞かれないようにするために、わざと変なオーラを放って人払いをしたのだろう。


「…………詳しい話をします。後で治安局に来てくれませんか?」

「…………承知した」


 それだけ言葉を交わすと、ステイリィはいつものにこやかな笑顔を浮かべた。


「じゃあ私、帰りますね!」


 ステイリィはそういうとそそくさと出口の扉を開けた。

 そして振り返り様に一言。


「フレスさん? 面白くもない冗談は、今後一切止めてくださいね? でないと私、何をするか判らないですから♪ それでは!」


 敵意むき出しのスマイルに、相変わらずフレスも涙目でブンブンと首を縦に振り続けていた。


(あれはわざとじゃなかったのね……)





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