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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第六章 為替都市ハンダウクルクス編 『優しい都市の裏の顔』
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親切すぎる住民達

「……おかしい……」

「うん。おかしいね……」


 二人して疑問視していたのは、先程のメイドのこと。


「あの怯え方、少しおかしくはなかったか?」

「少しどころじゃないよ。体が震えるほどの恐怖って……」

「雇われの身が客に粗相をしたんだ。そりゃ責任を感じたり、後から叱られたりするのが怖いってのは判るよ。それにしても、あの怯え方は尋常じゃない。何か別の理由があるような気がするんだよな」

「……うん……。それに執事さん達の顔も強張っていたし」

「だな。確実に何かに怯えていたよ。それに最後、ルクセンクのあの言葉に、彼らの表情が青ざめた」

「……あの言葉って……、『仕事』ってところでしょ?」

「フレスも気づいたか。ルクセンクが『仕事』と言った瞬間だったよ。彼らの表情が一気に張りつめたのは」


 ウェイルは見ていた。

 元々張りつめていた空気が、さらに緊迫したものになっていたのを。


「……ねぇ、何か気にならない?」

「……気になるな……」


 しかしながら、ルクセンクが彼らに何かした、という証言を得たわけではない。

 さらに言えば証拠もない。


「……気にはなるが、俺達にはどうしようもないことだからなぁ……」


 結局、雇い主、雇われの身という立場があり、それに関する問題なのだ。

 例えピリアや執事達が恐怖を感じていても、嫌なら仕事を辞めれば良いわけで。


「……少し歯がゆい気がするね」

「……だな」






 ――●○●○●○――





 

 いつまでもこのことについて考えるのも仕方がない。

 せっかく仕事が終わったのである。

 ならばこのハンダウクルクスを観光してまわるのも悪くない。


「フレス、証明書の期限は3日ある。せっかくだし、少し遊んで行かないか?」

「いいの!?」

「たまにはな。ここハンダウクルクスは美味しい物も多いし、特産物もたくさんある。ギルパーニャに何かお土産でも買ったらいい」

「うん! そうするよ! …………あ、ボク、今お金がないんだった……」


 改めて空っぽの財布を取り出すフレス。


「……仕方ない、小遣いだ」


 たった今稼いできた鑑定料の中から少しフレスに分けてやる。


「こんなに貰っていいの!?」

「本来よりもかなり多めに貰ったからな。気にするな」

「じゃあボク、熊を食べに――」

「あるわけねーよ……」



 ということでやってきたのが、ハンダウクルクス最大の商店街。

 商店街と聞くと、小さな店が連なって商いをしているイメージがあるだろう。

 しかしここの商店街は、そんなイメージを完全に吹き飛ばしてしまうほど、スケールが大きい。


「おお、やってるやってる! 見てみろよ、フレス!」

「あれなに?」


 ウェイルが指を差した先。

 そこには大きくミートと書かれた看板があった。


「精肉店?」

「そうだ。だけど、この精肉店は凄まじいぞ。見てみろよ」


 確かに普通の精肉店と比べると、圧倒的に広い。

 さらに店内には多くの客が足を運んでおり、何やら大声で叫んでいた。


「これは……オークション!?」

「そうさ。ハンダウクルクスの商店街は、凄まじくスケールが大きい。肉一つ買うのだって、オークションでやるんだよ。しかも牛を丸ごと一匹販売ときたもんだ」

「丸ごと!? …………じゅる……」

「……お前の小遣いじゃ絶対買えないけどな……」


 他にも魚や野菜、香辛料なども、それらの多くがオークションで販売され、商店街は大盛況していた。

 途中いくらか買い食いしながら、二人はこの都市の空気を満喫していた。


「それにしても親切な人ばっかりだね!」

「そうだな」


 しばらくの間、二人はハンダウクルクスの都市を楽しんで回った。


 ――ハンダウクルクスの人は親切な人が多い。


 事前にそういう情報を知っていたウェイルですら、彼らの親切っぷりには度肝を抜かれていた。


 ――ほんの一時間前のことである。

 商店街をぶらぶらとしていると、フレスがはぐれてしまった。(焼き鳥の匂いにつられて)

 ウェイルがどうやって探しに行こうか迷っていると、すぐにウェイルの元に数十人の住民が現れて、フレスを探してくれたのだ。

 フレスの方はと言うと、ウェイルとはぐれて困っているところに、声を掛けてくれた住民が多数。

 住民同士の連絡網で、すぐに二人は再会することが出来たのだ。

 極めつけは、フレスがはぐれることになった原因の焼き鳥。

 その焼き鳥を売っていた店主が、フレスに数本プレゼントしてくれていたのだ。

 おかげでフレスは上機嫌もいい所である。


「こんなに親切な人ばかりの都市なら、ボク、ずっとここに住んでもいいかも! マリアステルよりは暮らしやすいよ!」

「騙してくる奴もいないからなぁ?」

「むぅ! そうだよ! 文句ある!?」

「……別にねーよ。だが、少し不気味だとは思わないか?」


 歩きながら周囲を見回すウェイル。

 その視線の先には、互いに声を掛けあう住民達がいた。


「どうして? 良い人ばかりなのに」

「それだよ。良い人ばかりだから不気味なんだ」

「何言ってんの! 良い人が不気味なわけないでしょ!? マリアステルの蔓延る詐欺師達の方が不気味だよ!」

「ありゃお前の注意力が散漫なだけだ。もちろん良い人ばかりなのは喜ばしいことだ。でもな、それにしたってこれは異常だろう?」


 見ると躓いてこけたらしい男の子が大声で泣いていた。

 すると、その男の子の元に、何十人もの大人が駆け寄り、励ましたり、何かをプレゼントしたりしていた。


「大げさ、というのかな。この都市の人々は、とにかく過剰だと俺は思ったんだ。子供がこけて泣くくらいで、数十人もの人が集まるなんて、考えにくい」


 フレスの件もそうだし、実は先程からこのような光景を何度も見てきた。

 中には、買い物で小銭が足らずに困っていた老人に、たまたま通りかかった青年が不足分を払ってあげていたケースもある。

 明らかに過剰と言える親切が、当たり前のようにまかり通っているのだ。


「だから不気味だといったんだよ」

「そーかなー。親切なのはいいことだと思うんだけどなー……」


 そんな時、突如平和な商店街に、怒号が響いた。


「――な、なんなんだ! 貴様らは!?」


「……何かあったのか?」


 二人の視線の先にあったのは、この都市屈指の規模を誇る骨董店。

 そこの店主と、この都市を守る警備隊が、何やら口論を繰り広げていた。


「一体警備隊が何をしに来たんだ!? 価値は高レートを保っているぞ!?」

「それがつい先ほど、大暴落したんだよ。自分が何をしたか、心当たりはないか?」

「知らんぞ!? 全く身に覚えがない!」

「……お前はルクセンク様に贋作を売りつけたんだよ」

「……贋作だって……?」

「そうだ。聞けば本物に間違いないと称して贋作を売ったそうじゃないか。これは詐欺罪に相当するぞ?」

「何を馬鹿な!? 骨董品なんだし、贋作が紛れ込むこともあるじゃないか! 私自身が鑑定したわけじゃない! 贋作があったとすれば、私自身も贋作を掴まされた被害者だ!」

「言い訳は無用だ。貴方にもう価値はない。連行する」

「……そんな……」


 いくらか店主も反論してはいたが、ついに言い逃れが出来ないと諦めたのか、大人しく警備隊に連れて行かれていた。


「……今のは一体なんだったんだ……?」


 少し遠巻きに聞いていたため、ウェイルは詳しい内容を聞くことが出来なかった。


「……贋作だって。あの人、贋作を売っちゃって、詐欺罪で捕まったみたい」


 さすがはフレスの耳。会話の全てを聞いていたようだ。


「……そうか……。まあ詐欺罪なら仕方ないのだろう」

「そだね」


(……でもちょっと気になるなぁ……。貴方にもう価値はない、って。酷い言い方するよ……)


「何か気になったことでもあるのか?」

「う、ううん、別にないよ?」


 警備隊が去ると、都市は再び元の盛況を取り戻し、二人も今の事件など忘れて、存分に遊びつくしたのだった。

 日も暮れだしたので、宿を取ることに。

 この宿すらも、親切な人の計らいで予約なしで取ることが可能になったし、料金も安くなった。


「……不気味だ……親切すぎて……」

「いいじゃん! 楽に宿が取れたんだからさ!」


 楽観的なフレスとは正反対に、ウェイルは得体の知れない不気味さを肌で感じていた。


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