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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第六章 為替都市ハンダウクルクス編 『優しい都市の裏の顔』
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ハンダウクルクスの都市長 ルクセンク

 豪邸の中は、それはもう広大で、外見同様内装も贅沢の限りを尽くした豪勢な作りだった。

 大きなソファーが置かれ、天井には巨大なシャンデリアが輝く一室へ通され、依頼人の登場を待つことに。

 部屋中至る所に芸術品が置かれていたが、ウェイルの目線は、とある彫像に釘付けとなっていた。


「……ほんとかよ……」


 思わず心の声も漏れだしてしまう。

 いやいや、あれがこんなところにあるはずない、と最初は高をくくっていたが、やはり気になり詳しく見てみる。


「……やっぱり……」


 自分の目に嘘はつけない。

 一目見ただけで、その彫像の発するオーラを感じ取ってしまった。


「……おい、フレス。この大理石の像なんだが、俺の目利きが正しければ、リンネ・ネフェルの作品で間違いない」

「……リンネ?」


「そうさ。芸術史史上最高の腕を持つ彫刻家、リンネ=ネフェル。彼女の作品は素材の美しさを最大限に生かし、尚且つどんな場所に置いても映える、そんな彫刻手法が特徴なんだ。リンネの作品自体、俺はあまり見たことがないが、自信を持って言える。これはリンネだ……」



「――ほう、まさかリンネだと一瞬で見抜くとね」



 遅れて部屋に入ってきた、髭を蓄えた老人。

 この館の主、そしてハンダウクルクスの都市長、ルクセンク本人であった。

 鋭い眼力に、思わずフレスの背筋が伸びる。


「よく来た、鑑定士よ。ワシがこの為替都市『ハンダウクルクス』の都市長、ルクセンクだ。それにして驚いたぞ」


 ルクセンクから握手を求められ、二人はそれに応じた。

 ウェイルと握手をしたとき、ルクセンクの握る力が強まる。


「この彫像がリンネの作品だと見抜いた鑑定士は、他に二人しかいなかった。どうやら君は腕利きの様だな?」


 想像を絶する威圧感。

 フレスでさえも、思わずウェイルの後ろに隠れてしまうほどの大物感を放出させていた。


「リンネの彫像なんて、プロなら誰だってすぐに判りますよ」

「……あれ……?」


 ウェイルが敬語を使っていることに、フレスは驚いた。

 しれっと答えたウェイルがだが、見ると少しばかり額に汗が光っている。

 流石のウェイルも、ルクセンクを前に気付かぬうちに緊張していたのかもしれない。


「ハッハッハ、プロとはいえあてにはならんのが鑑定士という連中だよ。鑑定士ってのは結局その人間の価値観や眼力、知識だけで生きているのだからな。個人差というものがどうしても出てくる。完璧な人間はいないのと同じように、鑑定士だって誤ることはある。ワシは基本的に100%以外信頼してないのじゃ」

「ではどうして鑑定士に依頼を?」


 ルクセンクの、ウェイルを睨む眼力がさらに強くなる。


「……そうさなぁ。ワシは自分自身以外の物については、さほど興味を持っていないだけなのかもしれん。このハンダウクルクスを再建したのも、全てはワシ自身が住みやすい環境が欲しかっただけ。利益が欲しかっただけだったのかもしれん。現にワシの趣味に合わせて都市の形を変えたりしたこともあるしな。人々はそんなワシを英雄と称えるが、本質的には褒められたことじゃない。自分勝手に行動しただけなのだからな」


 ルクセンクの言葉一文字一文字に、二人は言いようのない重みを感じるのだった。

 この老人、やはり出来る人間(カリスマ)だ。

 例え自分勝手に動いた結果だといえ、結局のところハンダウクルクスを最高の形で引っ張ってきているのだ。

 下手な謙遜より、よっぽど気持ちがいい。

 反面、恐怖も感じた。

 つまるところこの都市にはこの老人に逆らえる者は誰一人としていないということだ。

 彼が何をしようと全てが許される。


「それで、依頼品は何なのです?」


 ウェイルが話を本題に移す。


「ああ。ワシは最近、趣味でこんなものを集めていてな?」


 ルクセンクはパチンと指を鳴らすと、突如部屋の扉が開き、執事数人が入ってきた。


「そこに並べろ!」


「「「はっ!」」」


 執事達は慎重に、その手に持つ物をテーブルの上に置く。

 並べられたのは、様々な種類の時計だった。

 壁掛け、据え置き、腕時計。


「……凄いな……。どれも高級時計だ」

「だろう? 特にこの腕時計。リアネックスの初期型、シリアルナンバー006というものだ。相当高価だろう?」

 自慢げに腕時計を見せてくるルクセンク。

 目の前に広がる数々の時計に、ウェイルの目が輝く。


「……これら全て鑑定すればいいんだな?」

「ああ。そういうことだ。出来るか?」

「当然だ」


 ウェイルの言葉遣いが自然と元に戻ってきた。

 これはウェイルが本格的に鑑定を始める時の証拠。

 俗世のしがらみ全てを捨てて、本能のままに鑑定する。

 言葉づかいなど、今のウェイルにはどうでもいいのだ。


「しばらく落ち着いて鑑定したい。こちらの質問には嘘偽りなく答えてもらおう」


 鑑定モードになったウェイルの辞書に物怖じと言う言葉はない。

 執事も多少困惑気味になっていたが、ルクセンクはニヤリと笑みを浮かべた。


「…………ふむ。肝も据わっている鑑定士だ。信頼できるに値する。良いだろう。質問には嘘偽りなく話すことを約束する」

「よし。それでは始めるぞ」


 神器『フロストグラス』を取り出し、慎重に時計を見定め始めたのだった。



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