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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第六章 為替都市ハンダウクルクス編 『優しい都市の裏の顔』
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謎の音

 大量の株券はとりあえず金庫に入れておくことにした。

 色々とやってるうちに期日である二日が過ぎてしまい、カラーコインについて何一つ詳しいことは判らぬまま、次の仕事に行くことになった。


「次はどこに行くの?」

「為替都市『ハンダウクルクス』だ」

「為替なのに都市なの?」

「ああ。この都市には少し変わったルールがあってな。まあ行ってからのお楽しみだ」


 マリアステルの駅に着く。

 マリアステルへ行商に来る商人や競売人の為に出ている出店から、色んな料理の良い匂いが漂っている。

 いつもならここで大量に買い食いをするフレスだが、あいにく今は持ち合わせがない。


「…………」


 無言で財布を振り、音のしないことに涙を浮かべ、そしてウェイルを見上げてくる。


「…………うう……」

「ん? 何か用か?」


 当然フレスの伝えたい内容は理解しているが、ここで甘やかすほどウェイルは甘くない。

 わざとしらを切り続けると、今度はフレスも大胆になってきた。


「ウェイル~~~、買って♥」


 声の口調を甘々にして腕に抱きついてくる。


「駄目だ」


 だが、そんな手が今更ウェイルに通じるわけもない。

 単刀直入なのは良いことだが、いささか考えが甘い。


「むぅ……!! ウェイルのケチ!」

「お前がバカだっただけだ」

「…………うう……」


 涎を呑みこみ、お腹の音を響かせながら、フレスはウェイルに後に続いて汽車に乗った。



 汽車に乗ること8時間。

 昼から出発し、気が付けば景色は闇に染まっていた。

 マリアステルから西の方角に、為替都市ハンダウクルクスはある。

 アレクアテナ大陸最大の山『ハンダウル』と、最大の湖『クルクス湖』に囲まれたこの都市は、自然からの恵みを一身に受け成長してきた都市である。

 農作物も、農業都市『サクスィル』に続く輸出高を誇り、大陸有数の大市場や競りが行われている。

 資源豊富で、さらには豊かな土地に恵まれ、この都市は独自の文化を築いてきた。


「いいか、フレス。もうじきハンダウクルクスにつく。そこでお前に注意点がある」

「なんなの?」

「駅に着いたら即検問があり、そこで本人だという証明書が発行される。その証明書だが絶対に失くすなよ?」

「……証明書なんているの?」

「そうだ。あの都市で証明書は、自分の命と同じなんだ。証明書のない者は問答無用で拘束される」

「もし失くしたら?」

「今言った通り、拘束される。再び本人確認が証明されるまで延々とな」


 ウェイルが今言ったことが、ハンダウクルクス最大の特徴にして唯一のルールなのである。

 このようなことになったのはいくつか要因があるが、最も重要とされているのが警備上の問題だ。

 この都市は非常に資源も豊富で豊かである。

 それ故に過去、山賊や略奪者から襲われたことがあった。

 その被害は尋常ではなく、ハンダウクルクスは崩壊寸前とまで言われたことがあるくらいだ。今から見れば信じられない話ではある。

 つまりハンダウクルクスは侵略者に対してトラウマを持っているのだ。

 それ故に身分を証明する証明書の携帯を義務とし、証明書がない者については常に疑いの目を向ける。

 それは拘束という手段を持って疑念を棚上げするのだ。


「いいか? 絶対になくすなよ?」

「心配しないでよ! ボク、ウェイルの弟子だよ? そんなヘマするわけないでしょ?」

「……俺は今、初めてお前の師匠であることが恥ずかしくなったよ……」


 もはやフレスに説得力の欠片もなかった。







 ――●○●○●○――







「着いたか……」


 午後11時。

 外は完全に闇に染まった頃、汽車はハンダウクルクス駅へと到着した。


「ウェイル! 早く降りよ!」

「いや、今日はもう無理だ」

「……どゆこと?」

「周囲を見てみな」


 言われてキョロキョロしてみると、確かに下車しようとする人は皆無。


「何でみんな降りないの?」

「今降りても都市には入れないからな」

「…………? なんで?」

「さっき証明書が必要って言ったろ?」

「うん」

「証明書は午後6時までしか発行してくれないんだよ。だからみんな下車出来ないのさ」


 そのため、午後6時以降にこの都市につく汽車は、そのまま寝台汽車と貸す。

 多くの人が汽車上で一夜を過ごすことになるのだ。


「うへぇ……、面倒くさい都市だねぇ……」

「その意見はもっともだがな。この都市は資源が豊富だし、何より安価だ。面倒くささを差し引いても取引すれば利益が出るからな。みんなこれくらいは我慢するのさ。そろそろ寝た方がいいぞ」

「うん……」


 汽車の座席である為、横になることは出来ない。

 座って寝ることに慣れているウェイルはすぐに寝息を立て始めた。

 座席付近のランプが消え、あるのは月の光とそれを反射した湖、そして微かに灯る都市の光。

 幻想的な景色に、フレスはある種の震えを感じる。


「綺麗だけど……ちょっと怖いかも……」


 フレスはそのままウェイルの隣へ移動して。


「お邪魔しま~す。エヘヘ、ウェイルの匂いだぁ……。……落ち着く……」


 一緒の毛布に包まって、夢の世界へと旅立ったのだった。








 ――●○●○●○――








「……ううん……」


 深夜は3時を回った頃。


「……何なんだろう、この音……」


 突如耳に入ってきた音に、フレスは起こされてしまう。

 隣を見ると相変わらず静かに眠るウェイル。


「…………外から、かなぁ?」


 窓を開けると、確かに聞こえてくる。

 実はこの音、フレス以外誰にも聞こえてはいない。

 何せ極微小な音なのだ。人間が感じられるレベルではなかった。

 だがフレスは龍だ。微妙な音の変化をいち早く察し、違和感を覚えていた。


「こんな深夜に、何やってるんだろう……」


 しかしたとえフレスであっても、この音の詳細について判るほどではない。

 フレスにしても、ただ少し変わった音がしただけ程度のことなのである。

 そもそもこの程度の音が睡眠を邪魔することは稀だ。


「……ちょっと不気味……」


 そう感想を述べたフレスは、もう一度大きな欠伸をした後、またしてもウェイルの隣へつき、眠りについたのだった。



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