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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第六章 為替都市ハンダウクルクス編 『優しい都市の裏の顔』
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おバカな弟子

「いやぁ~~、いい買い物した~~♪ ギル、ボクが億万長者になったら驚くぞ……!!」


 意気揚々とプロ鑑定士協会へ帰り着き、ルンルン気分のまま就寝。

 翌日の朝も目覚めはバッチリで、株式の到着を今か今かと待ち望んでいた。


「フ~~、カラーコイン、一体どこで作られたんだ……?」

「あっ! ウェイル!」


 げっそりとした顔で自室へ帰ってきたウェイル。

 どうやら徹夜で鑑定を行っていたらしい。ヒゲも伸びきっている。


「フレスか……。ちゃんと勉強はしたのか……?」

「勉強なんかより、もっと凄いことしてきたよ!」

「凄いこと……?」


 洗面器に注いできた水に手を浸し、そのまま顔を洗いながらウェイルが尋ねてくる。


「うん! だってボク! 株主になっちゃったんだからさ!」

「…………はぁ?」


 重たい目を擦り擦り、ウェイルがこちらを見てくる。

 それに対しフレスはとても自慢げだった。


「だから! ボク、株主になったんだよ! 配当金だけで生きていけるんだよ!! 凄いでしょ!!」

「……お前、外に抜け出してまた変なことしてきたな……?」

「むぅ、外に抜け出したのは事実だけど! 変なことはしてないもん!」

「どうだかな。それで、いくらくらい使ったんだ?」

「それはね――」

「すみません、フレスさん宛てに荷物が届いてますよ」


 フレスの答えを遮るかのように、事務の人がウェイルの部屋を訪ねてきた。


「ああ、判ったよ。すぐ取りに行く」

「いえ、もうここまで運んでまいりましたので。こちらです、どうぞ」


 どさりとおかれた巨大な箱。


「では失礼します」


 事務員が退室してしばらく、ウェイルが口を開いた。


「フレス、お前、一体何を買ったんだ?」

「エヘヘ♪ これ!」

「……これって……。相当でかい箱だな……」

「そりゃそうだよ! だってこの中には大量の株式が入ってるんだからさ!」

「…………はい?」


 思わず硬直するウェイル。

 睨み付ける目の前の箱。


(これ全部……株券ってことなのか……?)


 ぞっと悪寒がした。

 これは何かとてつもなく不吉な状況。


「じゃあ開けるね! ……わくわくっ♪」


 そんなウェイルとは対照的に、フレスの回りには蝶が飛んでいるかのよう。

 まさに至高の一時。そんな笑みを浮かべながら、フレスは箱を開けた。


「凄い! たくさんあるよ! ウェイル!」

「…………フレス。俺にはどうにも嫌な予感しかしないんだが」

「何言ってるのさ! よく見てよ! このリベアブラザーズ社の株をさ!」




「――――リベア、だと…………?」




 自分の顔は今、一体どんな色をしているだろう。

 ウェイルは思わず洗面器に映る自分の顔を確認してしまう。


「ヘッヘッヘ、凄いでしょ! 何せボクはリベアの株30%の株主なんだからね!」


「な、な、なななななな――30%だと!?」


 その数字に睡魔すら逃げ出す。


「驚いて言葉も出ないでしょ! エヘン!」


 確かに驚いた。言葉も出なかった。

 まさしく別の意味で。

 ウェイルは言葉を選び、慎重に告げることにする。


「フレス。お前は――」



「なになに!? 天才!? 自慢の弟子!?」



「大馬鹿だーーーーっ!!!!」






 ――●○●○●○――






 ――リベアブラザーズ社。

 ヤンクが経営していたデイルーラ社と並び、大陸きっての大企業であった。

 しかし、ほんの数日前のこと。

 社長一族、さらに幹部役員ほとんどが惨殺されるという痛ましい事件が起こり、大陸中を震撼させた。

 さらに社長宅から、リベアが今まで違法商売をやっていたという証拠が発見された。

 麻薬やドラッグ、それだけならまだしも、問題の案件の多くは奴隷貿易だった。

 人間だけでなく神獣に至るまで、ありとあらゆる奴隷貿易が行われていたことが発覚したのだ。

 上層部の一斉殺害、さらに不祥事発覚が次々と晒され、これにより同社の株価は一気に地の底へと急落。

 ついに前日、世界競売協会から株式一部上場廃止を言い渡されてしまったのだ。

 事実上の倒産である。

 幸い多くの従業員の雇用先は世界競売協会が用意した。

 リベア社が行ってきた表向きの業務を、世界競売協会が監視管轄を行うことで営業を続けることにしたのだ。大規模なリストラは行われないことになり、従業員の多くは救われた。

 しかし、だ。救われたのは従業員だけである。

 リベアの株主にまで、救いの手が回ることはない。

 一応救済措置としてリベア株の上場廃止は一部だけで大半は保留とすることになったものの、暴落した値段が戻ることはない。

 株式はただの紙切れに。当然、目の前の大量のこれも例外ではない。


「――ということがあったんだ。フレス、お前は騙されたんだよ……」

「な、な、な、なんですとーーー!?!?」

「リベアの株式は、すでにゴミだ。これ全部でも1000ハクロアもしない」

「…………」


 青い髪に青の瞳。

 そんなフレスが顔まで真っ青になっていた。

 まさに全身真っ青である。


「お前、いくら払ったんだ?」

「41万ハクロア……」

「財布の中身全部じゃないか……。1ハクロアも残ってないのか?」


 こうしたやり取りがあって、前回の冒頭部分に戻るわけだ。


「ボク、ギルになんて御詫びすればいいか……」

「あいつなら笑って許しそうだけどな。まあこれもいい勉強だ。儲け話には裏がある。都合のいいことなど起こりはしないってな。高い授業料だったな」

「うううううええええええんん!! ボクはバカだ~~~~!! もう誰も信頼できないよぉぉぉぉぉおおおおっ!!」


 それからしばらく、フレスは己を悔い、涙した。

 なんと10時間以上もである。

 それを見たウェイルは流石に可哀そうに思い、優しく励ましてやるとケロッと簡単に泣き止みやがった。

 それからしばらく、フレスは夕食を食い、涙した。(夕食が美味すぎて)

 なんとお代わり10杯以上もである。

 それを見たウェイルは――

 


 ――深くため息をついたのだった。



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