勝負の時
「凄いよ! ギルパーニャ!!」
ずっと息を殺して見守っていたフレスがギルパーニャに抱きつく。
「ふいー、流石に疲れたよーーーー」
未だに恨めしそうな視線を送ってくる対戦相手から急いで逃げてきたらしい。
「ああいう人の視線も久しぶりだったよ~~」
なんて言いつつ笑っているギルパーニャ。
「ボク、ずっと緊張しっぱなしだったけどさ! 最後、本当にカッコよかったよ!!」
「えへへ♪ まあね! 私、これくらいしか取り得がないからさ!」
「凄い才能だよ!! ボクも欲しいくらいだ!」
キャイキャイと騒ぐ二人だったが、会場にある時計を見て、二人は目的を思い出した。
現在時刻午後6時30分。
「急がないと競売に間に合わないよ!!」
「そうだね! このチップ、早く換金しないと!!」
大量に積まれたチップを何とか換金し、二人はカジノを出た。
「そういえばどれくらい稼いだの?」
「えーとね、92万ハクロアかな!!」
大量の札束を見せつけてくれた。
「凄すぎでしょ!?」
「これだけあればカラーコイン、絶対取り戻せるよ!」
「うん! 急ごう!!」
二人は昼間に訪れた裏オークションに、もう一度足を踏み入れたのだった。
――●○●○●○――
午後6時50分。
カラーコインの競売会場へと姿を見せた二人は、番号札を持って会場に座っていた。
「もうすぐだね……!!」
「参考最低落札価格は30万。だから余裕だとは思うんだけど、問題はあの硬貨の価値を知っている人がいるかどうか、だね……」
二人の手持ちは92万ハクロア。
師匠の金庫に10万は戻さねばならないから、実質82万ハクロアである。
参考最低落札価格が30万であるから、余裕を持って臨めるのだが、一抹の不安は残る。
「フレス、他の客をしっかりと見ていて……!!」
「うん……!」
客層を見る限り、それほど金を持っていそうな人はいない。
この競売会場Dは午後7時から競売が始まり、カラーコインは順番で言うと三番目の競売である。
一時間かけて行われる競売に、様々な人がお宝を求め参加してくる。
「……お金持ちっぽい人も来たよ」
見るからに周りと身にまとう衣服が違う者が現れる。
接客の対応も懇切丁寧にしていたし、このオークションハウスのVIPであることは間違いなさそうだ。
「あの人、要警戒だね……」
競売開始まで後3分というところ。
「……フレス、あの連中がいるよ……!!」
「……本当だ……!!」
ギルパーニャが見つけたのは、先程フレスがこてんぱんにやっつけた男連中。
彼らもこちらに気付いたらしい。
怒り心頭な視線を突き刺してくる。
「……どうしよう……」
「大丈夫だよ、ギル。もし手を出して来たらボクが守るから」
怯えるギルパーニャの手をしっかりと握ってあげると、ギルパーニャも握り返してくれた。
今にも襲ってきそうな雰囲気の男達だったが、意外にも冷静に、それどこらかニヤリと笑みを浮かべながら番号札を持って席へと座っていた。
「奴らもオークションに参加するのかな……?」
大人しくしてくれるのであれば好都合だ。出来る限り穏便にことを済ませたい。
――午後7時。
会場に灯された神器のランプが、さらに輝きを増した。
壇上の幕が上がる。
「……始まった……!!」
思わず握る手を強める二人。
午後7時を告げる鐘が鳴らされると共に、オークショニアが姿を現した。
「皆様、お待たせいたしました! これより会場Dのオークションを開催させてもらいます。競売の品の順番はお手元の資料通りとなっております。なお、この会場での暴力行為などは一切禁止とさせていただきます。違反行為が見つかり次第、即刻退場となりますのでご注意ください!」
手慣れた手つきでオークショニアが解説を行い、ハンマーを取り出し、思いっきり机を叩いた。
これはオークション開始を告げる合図なのである。
会場に集まった大勢の参加者が彼に拍手を送ると、最初の競売品が壇上へ運ばれてきた。
「カラーコインの競売は三番目だね……!!」
「フレス、どちらが番号札を持つか決めておこう」
番号札は二人で一枚。
この番号札を上げるタイミングは非常に大切だ。
どちらが持つか決めなければならない。
「ギル、ボクに任せて欲しいんだ」
フレスがギルパーニャに頼み込む。
「ギルはカジノでたくさん頑張ってくれた。今度はボクが頑張りたいんだ!!」
真剣なフレスの表情に、ギルパーニャも深く頷く。
「分かった。フレスに任せる……!!」
「任せてよ!!」
二人の命運を分かつ闇のオークションが、今、幕を開ける。