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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第五章 貧困都市リグラスラム編 『妹弟子と引き金の硬貨』
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ギルパーニャ ~闇に舞い降りた天才~

 それからしばらくのゲーム、ギルパーニャはとにかく守りを固めた。

 手札がよほど良い時に限り少しずつ賭けていき、相手が調子に乗ったところで一気に賭けて返り討ち、などという戦略もとった。

 7ゲーム目においては、手の良い時にとにかく強気に出てくるメガネを、フラッシュVSフルハウスという手札で圧倒し、彼のチップをほとんど吸い上げてしまったほどだ。

 そのような手札以外の時は、とにかくチェック、してもコール。

 それ以外ならばすぐにフォールドを行った。

 これは逃げではない。

 この間、ギルパーニャはとにかく対戦相手の趣向や性格を絡め取っていたのだ。

 そして獲得チップが300枚を超えた時、ギルパーニャは勝負に出た。

 皆の標的は、間違いなくギルパーニャになっていた。

 相手に恨みを買うようなプレイスタイルを取ってきたし、そうなる事こそが最大のチャンスを生み出すからだ。

 第17ゲーム目。

 手が良い時以外、全て初手フォールドを繰り返していたギルパーニャが、今回は初手でレイズを行ったのだ。


「レイズ、チップ15枚!」


 ギルパーニャの戦略は徹底していた。

 とにかく手の良い時は大賭けする。それ以外の時はすぐに降りる、と。

 相手から見ればギルパーニャが大賭けするときはいつも手が良いのだ。

 今回もそうに違いないと誰しもが思う。

 この時、ギルパーニャの手札は♠の2と♦5。

 相当弱い手札であったのだ。

 だが、相手はこの雑魚手札が、雑魚に見えない。


「……フォールド」


「……コール」


「……コールさせてもらいます」


「フォールドです」


「俺もフォールドだ……」


 彼らのそんな表情を見て、カードが3枚開かれた後、ギルパーニャはさらに大賭けに出る。


「ベット!! チップ33枚!!」


 これには周囲も降りざるを得ない。

 ギルパーニャの徹底した戦略が功を制す。

 この様に弱い手札でも、相手は勝手に勘違いをしてくれるのだ。




 ゲームの後半、25ゲーム目のこと。

 恨みを買い続行けたギルパーニャはついに待っていた時が来ることになる。


(……来た!! 初手が♦のA、♠のAのペア!!)


 ベットラウンドが始まり、皆が順調にコールしていく中、ギルパーニャは宣言する。


「レイズ! チップ30枚!!」


 見守っていた観客からどよめきが走る。

 それに反比例するかのように、対戦相手からは激しい視線が飛んできた。


(えへへ……見られてる見られてる……!! 十分にエサは撒いたからね……!!)


 ギルパーニャはすでに手を打っていたのだ。

 あまりにも高額なレート。しかし、対戦相手はすでに冷静さを失っている。

 対戦相手本人からすると、おそらく冷静な気でいるのだろう。

 それでいい。自分が冷静だと思っている相手ほど、コントロールしやすい相手はいないのだから。


 ハゲは宣言する。


「コールだ!!」


「私もコールよ!!」


「……フォールドさせてもらいます」


「……コールだ!!!」


「俺だってコール!!!」


 ディーラー以外の皆がコールを宣言。

 ポットには150を超えるチップが集まっていた。

 ディーラーが最初の3枚を開く。


 その中にあったのは♠のJ、♦のQ、そして♥のA……!!


「ベット!! チップ30枚!!」


 本来であれば、こんな賭けをしてくる相手に乗ることなどありえない。


 ――だがしかし。


「コール!」


「私もよ! コール!!」


「コールです!」


「コールだ!!」


 彼らは乗ってくるのだ。


(……ついに釣れたね……!!)


 ギルパーニャが仕掛けたのは、この状況をおびき寄せる撒き餌だった。

 実はギルパーニャ。

 これまでの24戦の間、実は弱い手札で何度か突っ張っていた。

 第17戦なんかがそのもっともたる例だし、第22戦目にも、同じようなことをやった。

 ノーコンテストになったとき、ギルパーニャは自分の悪い手札をわざと大声で自慢していたのだ。


『こんなに手が悪いのに、相手が降りてくれた』


 そう叫ぶのだ。

 すると相手は心中穏やかではいられない。

 この小娘がウザくてウザくてしょうがなくなるのだ。

 ここにいる連中もそれなりの猛者である。

 だからこそ考える。

 この生意気な小娘をギャフンと言わせる方法を。

 それはギルパーニャが高額を張ったときに、皆で一気に張り返すというものだった。

 これまでのゲームから、ギルパーニャは手が悪くても強気に出ることを知っている。

 問題は、本当にその手が弱いかどうかを見極めなければならない点だが、それに至ってはギルパーニャの癖を見ることにしたのだ。


 ギルパーニャはあまりにも強い手が来た時、鼻の頭を掻く癖がある。


 それを対戦相手のディーラー以外は発見したのだ。

 鼻の頭を掻かなければ、こいつは手が弱い。

 冷静さを失った彼らはそれが真実だと信じ込んでしまった。

 それこそが最大の罠。


 もちろん、ギルパーニャにそんな癖はないのである。


(引っかかったね♪)


 少し考えれば怪しんで当然のこの行動。

 だが彼らのギルパーニャに対する激しい感情が、それをさせなかった。

 ギルパーニャがわざと怒りを買うプレイングをしていたのは、このためである。


「……うう、チェックにするよ……」


 リバー(最後のカード)が開けられた時、すでにギルパーニャの手はA3枚を含むフルハウスという最高クラスの役になっていた。

 だが相手から見れば、そのフルハウスは雑魚手に見えるのだ。

 何故ならギルパーニャが鼻の頭を掻いていない。

 それに最後、一気に弱気を見せてきた。

 この二点で、彼らはギルパーニャの手を勝手に弱いと判断したのである。

 回りはさらに白熱。


「レイズ! チップ30枚!!」

「それにコールよ!」

「同じくコール!」

「コールだ!!」


 意地悪するかのようにギルパーニャに突っかかってくる他の対戦相手。

 相手からすると、ギルパーニャはこのコールに合わせることはありえない。

 そう考えてしまったのだ。

 この小娘は、ここで無様にも降りてしまうと。

 だが、対戦相手達の予想は完全に裏切られることになる。


「レイズ! チップ50枚」


 ギルパーニャの宣言に、誰もが口を閉じられずにいた。

 何せチップ50枚はこのホールのレイズ最高額なのだ。


「な、何言ってんだ? お前!?」


 ついに宣言以外の言葉が対戦相手から漏れ始める。


「お前の手は判ってるんだ! そんなに強気に出たら死ぬぞ!?」

「そうよ! 貴方狂ってるの!?」

「皆様。どうか静粛にお願いします」


 ディーラーが場を宥めるが、彼らの鋭い視線は一瞬たりともギルパーニャから離れることはない。


「さあ、みなさん、どうなされますか?」

「…………!!」


 皆黙りこくる。

 誰もがギルパーニャに怯えていた。

 この余裕。まさか自分たちはすでに罠に嵌っているのではないか、と。

 だが、その怯えに対し、プライドが対抗してくる。

 こんな小娘のブラフに負けるのか、と。

 恐怖と威厳が衝突し、彼らが出した結論は。




「「「「コールだ!!!」」」」




 ポットに貯まったチップは400を超える。


 ついに決着をつける時が来た。




「ショーダウンです……!!」




 メガネ ワンペア


 入れ墨 スリーオブアカインド(スリーカード)


 ハゲ  ツーペア


 コート ワンペア




 ギルパーニャ フルハウス




 圧倒的な役の差で、ギルパーニャは勝利し、見事目標であるチップ700以上を達成してしまったのだった。


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