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龍と鑑定士  作者: ふっしー
第二部 第五章 貧困都市リグラスラム編 『妹弟子と引き金の硬貨』
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勝負師(ギャンブラー)

 リグラスラム最大のカジノ『クリムゾン』。

 リグラスラム都市部の中心に存在する、この貧困都市で最も人と金が集まる場所である。


「ここに来るの、久しぶりだなぁ……」


 入口を見てしみじみと口にするギルパーニャ。


「ここに来たことあるの?」


 フレスが問う。


「このカジノはね、私がまだ師匠に拾われる前に、お金を稼いでいた場所なんだよ」


 フレスは昨日聞いた話を思い出した。

 ギルパーニャは戦争孤児だった。

 孤児が生きていくためには、盗みと、そしてギャンブルで勝たなければいけなかったと。


「ギル……」

「フレス、そんな辛そうな顔しないでよ。確かに私、ここにあまりいい思い出はないけどさ。随分と助けられたのは事実なんだよ」


 次々と人の出入りする扉を見ながら、ギルパーニャは言う。


「このカジノがなければ、私はとっくの昔に餓死していたよ。幸い私はギャンブルの才能があったみたいで、結構稼いでいてさ。友達の同じ戦争孤児達にも、お金を分けてあげていたんだ。言うなればここは孤児みんなの親みたいなところなんだよ。負けた人には容赦ないけどね!」


 ギルパーニャは笑う。フレスを励ますために。

 そして力強く、顔を叩いた。


「よし! 気合入った! フレス! 絶対に負けられないよ!!! 応援よろしくね!」


 そんなギルパーニャを見て、フレスは自分自身が情けなく思えた。


(ボクの為にギルは……!! ギルは本当に強い子だよ! ギルは何だか似ているんだ……そう、ライラに!!)


 フレスも自分の顔をパンと叩く。


「うっしゃああ!! ギル! 勝って勝って勝ちまくろうよ!!」

「うん!! 行こう!!」


 オークション開始まで残り4時間42分。

 二人の一世一代のギャンブルが幕を開けた。







  ――●○●○●○――








 二人はカジノに入るなり、すぐさま手持ちのお金を全てチップへと交換した。

 二人が交換したのは、チップの中でも最も価値が高いゴールドチップ。

 このカジノではチップの色によりギャンブルホールが分かれている。

 ゴールドチップ1枚につき1000ハクロアであり、全てのギャンブルに用いることが出来るのだ。

 先程オークション参加費で1000ハクロア払ったので、二人の残金を全てゴールドチップに変えると、二人が手に入れたチップの総数は99枚ということになる。


「このゴールドチップを700枚にしないといけない」


 オークションに必要と思われる60万ハクロアと、師匠にこっそりと返す10万ハクロアの計70万ハクロア分のチップを手に入れなければならない。

 言うなればこのチップこそが二人に残されたライフポイントなのだ。


「フレス、このチップ、全部私が持つよ?」


 ギルパーニャは交換したチップを全て手持ちに入れた。

 フレスにも異存はない。勝率を考えた結果だ。

 フレスはギャンブルにあまりに向いてなさすぎる。

 今はチップ一枚足りとて無駄には出来ない。

 申し訳ないが、ここはフレスに引っ込んでもらうしかなかった。


「うん。お願いするよ! それで、どのギャンブルをするの?」


 ホールを見回すと様々なギャンブルが行われていた。

 ブラックジャック、バカラ、ルーレット――。

 様々なギャンブルが興じられる中、ギルパーニャはそれらなんて眼中にないかのように、とあるギャンブルが行われているテーブルへと足を進めた。


「私がするギャンブル。そんなの決まってるよ。短時間で何度もこなせて、それでいて一気に稼げるゲームは、これしかない……!!」


 ギルパーニャの視線の先。

 ディーラーがカードを配り、熱い読み合いが生じているそのゲーム。

 それはギルパーニャが最も得意とするギャンブル。



「リグラスホールデム……!! これしかない……!!」




 ギルパーニャはリグラスホールデムの行われているホールの、最もレートの高いテーブルへと進んだのだった。







 ――●○●○●○――







 ギルパーニャが向かったのは、最もレートの高いテーブル。


 ★リグラスホールデム 

 SB:ゴールドチップ(以下チップ)3枚 

 BB:6枚


 これがこのテーブルの条件だった。


 SBとはディーラーの隣に座る人が必ず払わなければならない参加費。

 BBとはSBを払った人の隣に座る人が必ず払わなければならない、SBの倍の参加費のこと。

 つまりこのゲーム、続けるためには最低6枚のチップがいる。

 この6枚が払えなくなった瞬間、ギルパーニャは敗北となるのだ。


「入れてもらっていい?」

「ええ、どうぞ。リグラスホールデムのルールはご存じで?」

「もちろん」

「ではこのテーブルルールについて説明させていただきます」


 プレイヤーがディーラー含め5人だったホールに、ギルパーニャは入ることにした。

 明らかに歳行かぬプレイヤーの登場に、他のプレイヤーからは不審げな視線を送られたが、当の本人はなんのその。

 胡散臭そうなおっさん連中の間に、腰を下ろした。

 ディーラーが説明を始める。


「当テーブルのディーラーは私固定で行います。しかしそれではSBを払われる方が不利ですので、SB、BBを払われる方は、1ゲーム毎順番に移動していただきます」

「おっけー、了解だよ」


 リグラスホールデムというゲームは、ディーラー(親)は1ゲームごとに交代していく。

 しかしながらここはカジノ。

 ディーラーは店が用意した者固定ということだ。

 ただしそれではSBを払う者も固定されてしまう。(SBはディーラーの左隣のプレイヤーが払わなければならないため)

 それを防ぐためのルールである。

 このルールのおかげで、プレイヤーが座る場所によって有利不利は起こらない。


「そしてレイズのリミット上限は50と設定させていただきます。50を超えるチップのレイズは行えません。しかしながらオールイン(手持ち全賭け)であれば50を超えても構いません。チャンスがあればどうぞ」

「判ったよ。さぁ、やろうか!」


 ギルパーニャを含めた6人のリグラスホールデムが開始された。


 座ったプレイヤー、および順番は、ディーラーの左からメガネを掛けた優男(以下メガネ)、顔中に入れ墨を入れた男(以下入れ墨)、ギルパーニャ、スキンヘッドの男(以下ハゲ)、毛皮のコートを纏い煙草をふかしている女(以下コート)の順番である。




 ★第一ゲーム


「それではカードをお配りします」


 ディーラーから配られたギルパーニャの、それは――。


(♦の4、♣のJ、か。手札としてはまあまあかな?)


 メガネがSB(スモールブラインド:最初の賭け金のこと)、入れ墨がBB(ビッグブラインド:最初の賭け金の2倍の賭け金)をポット(勝った人が全取り出来るチップ置き場)に置く。

 このホールではSBは3枚、BBは6枚である。

 最初に行動宣言するのはギルパーニャ。


「コール」


 ギルパーニャはノータイムでコールを宣言。

 コールは前の人と同じ額を提示する宣言のことで、ギルパーニャは前の人(入れ墨)と同じ6枚のチップをポットへと加えた。


「俺もコールだ」


 続いてハゲもコールを宣言。

 続くコートもコールを宣言した。


(皆ここは様子見というわけね……)


 ディーラーもコールを宣言。

 この時点でポットには33枚のチップが集まった。

 続くのはメガネ。


「……フォールドします」


 しばらく考えたメガネはフォールドを宣言。

 ゲームを降り、様子を見ることに徹するようだ。


 全員が同じ金額を賭けたことで、次のフェイズに移行する。


「それではコミュニティーカード、開けます」


 ディーラーは慣れた手つきで3枚のカードを開いた。

 開かれたカードは♥のA、♥の4、♣の10。


(この時点でワンペアか……なら……!!)


「チェック」


 入れ墨がチェックを宣言。

 このゲーム、入れ墨はどうしても人の調子を見る気らしい。


(ならこうすれば降りるだろうね……!!)


「レイズ! チップ8枚!」


 ギルパーニャはすかさずレイズを宣言。勝負に出る。


(これで隣は……?)


「……フォールド」


 ハゲはフォールドを宣言しゲームを降りる。


「コール」


 それに対しコートは勝負に出てきた。


「申し訳ありませんが、私もフォールドさせていただきます」


 ディーラーもフォールドを宣言。

 これでギルパーニャとコート以外がゲームを降り、ゲームは二人の一騎打ちとなる。


(他の入れ墨、ハゲはおそらく慎重型。第一ベットラウンドでは多少の額ならコールしてくる……!! でも逆をすれば必ず降りる……!! 問題はメガネとディーラー、そしてこの女、コート。果たしてどんなタイプなんだろうか……?)


 ギルパーニャは少しずつだが相手のタイプ、思考、癖を読み取っていく。


(まだ断定は出来ないけど……、あのメガネ、フォールドする寸前、考え込みながら左手で耳を触っていた。もしかすると癖なのかも……? いや、まだ確定させるのは早い。あの行動だって罠の可能性もある……!!)


 目の前の勝負と同時に、様々なことを思考できるマルチタスク。それが出来るのがギルパーニャなのだ。


「ベット、チップ8枚!」


 ギルパーニャはベットを宣言。またもチップは8枚。


(どうする……?)


「レイズ! チップ12枚!!」


 コートは少し悩んだ末そう宣言した。


(…………やるじゃない……!!)


「コール!」


 ギルパーニャも負けじと追加4枚をポットに加える。

 すでにポットには73枚のチップがある。

 ギルパーニャの残りチップ、73枚。

 このゲームに勝てば持ちチップは2倍となるわけだ。負けるわけにはいかない。


「ターン、4枚目です」


 ディーラーの開いた4枚目のカードは……♠のJ。


(……来た……!! ツーペアだ! ここで揺さぶりを掛けてみるよ。果たしてコートのしつこさが、本物の勝負師なのか、それとも偽物なのか……!!)


「チェックするよ」


 ギルパーニャはチップの賭けを行わないチェックを宣言。


「ベット! チップ12枚」


 コートの女はさらにレイズを宣言。


(本当の勝負師か、見させてもらうよ!!)


「――オールイン!!」


 ギルパーニャはオールインを宣言した!


 オールインとは、自分の残りチップ全てを賭ける宣言。

 すでに降りたプレイヤーは、ギルパーニャのオールイン宣言に思わず目を丸くしていた。

 それはコートの女だって例外じゃない。


「……どうしたの? オールインって言ったんだけど?」


 ギルパーニャの残りチップは73枚。これに勝負してくるのかどうか。

 後ろで見ていたフレスも思わず息を呑む。

 いや、それどころかギルパーニャのオールイン宣言を耳にした者が次々と見物に来ていた。


「どうするの? コール、する?」


「クッ……、フォールドよ……!!」


 周囲の雰囲気に呑みこまれてしまったコートはついにフォールドを宣言。


 ニューコンテストということでギルパーニャはポットの貯まった85枚を獲得し、残りチップは158枚となった。


ゲームのルールが判らない方は、本章の第一話、『リグラスホールデム』の後書きをご覧ください。

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