失くしちゃった!?
無事師匠の家に帰宅した二人はというと。
「師匠~~~!! いるの~~~~!?」
ギルパーニャが家中をくまなく探しても、シュラディンの姿を見つけることは出来なかった。
「まったく、どこへ行ったんだろう……。カラーコインのことで聞きたいことがあったのに……」
チェッ、と可愛く舌打ちするギルパーニャに、フレスが提案する。
「ここには鑑定用の道具はたくさんあるんでしょ? だったらボク達だけで始めておこうよ!」
最初からウェイル抜きで二人でやる予定だったのだ。
シュラディンがいないならば、帰ってくるまで独自に鑑定を行えばいい。
「そうだね。そうしようか! 私、鑑定道具を持ってくるよ! ……全く、師匠ったらいつも急にいなくなるんだから……!!」
ぶつくさ文句を垂れながら地下室へとギルパーニャは向かう。
その間にフレスは手袋を嵌めて、ポケットに入れてあったカラーコインを取り出そうと、ポケットに手を入れた。
「…………あれ…………?」
どうしてだろう。そこにあるべきものがない。
「あれ!? あれあれ!? カラーコイン、どこ!?」
羽織っているローブを抜いて、ブンブンと振り回してみる。
……何一つ落ちてこない。
「……下着に挟まってるとか!?」
ポケットを全て確認した後、ついに身に着けた物を全て脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿になるフレス。
「…………ない……」
確定的だ。
フレスは、カラーコインを紛失してしまった。
「ど、どどどどどどど、どうしよう!?!?!?」
涙目になり、もう一度ローブをブンブンと振り回すフレス。
その時。
「鑑定道具持ってきたよ~~~~」
のんきな声でギルパーニャが戻ってくる。
「さっそく鑑定しよう……って、どうしたの、フレス!? その恰好!?」
素っ裸になったフレスが服を抱えて泣いていたのだ。
これには思わずギルパーニャも驚く。
「えぐっ、えぐっ、うううううう……ギル~~~!!」
「どうしたの!? フレス!! もしかしてさっきの奴らに何か……!!」
「そうじゃなくて……えぐっ……ボク、カラーコイン、失くしてしまったみたいなんだよ……!!」
「なんだ、そうなんだ~~~~。…………って、えええええええええええええええ!?!?!?」
「どうしよう、ギル~~~!!! このままじゃ、ウェイル、依頼主さんに怒られちゃうよ!! ボクのせいで、ボクのせいで~~~~~!! うええええええ~~~~~ん!!」
依頼者から預かった鑑定品を、鑑定士が紛失した。
そんなこと絶対にあってはならないことだ。
ウェイルの信用を失うばかりか、プロ鑑定士全体の信用問題にも直結する。
さらに今回のカラーコインは代わりのきかない物。
弁償からして不可能なのだ。
「うえええええぇぇぇぇん!! ギル~~~~、ボク、どうすればいいの~~~~!!!?」
「フレス……」
この都市で一度失ったものを取り戻すなど不可能に近い。
しかし、今回フレスがカラーコインを失ったのは、おそらく連中に絡まれた時。
そうなると責任の半分はギルパーニャにもあるのだ。
「…………どうにかして取り戻す方法……!!」
ウェイルが帰ってくるまで時間はあまりない。
必死に考えるギルパーニャの脳裏に、以前シュラディンから教わったことが描き出された。
『犯罪者は物を盗んだ後、それを売らねばならない。この都市には、そんな盗品を専門に競売を行うオークションハウスがある』
「……これだ!!」
「えぐっ、ひぐっ……これ……?」
「そうだよ! 奴らがもしカラーコインを拾ったとすれば、間違いなく裏オークションへ流すはずだ! そこで競り落とせばいいんだよ!!」
「……そんなこと、出来るのかなぁ……?」
「フレス! 弱気にならないで! 私達はプロ鑑定士になるんだよ!! 狙った品を競り落とせないようじゃ話にならないよ!」
ギルパーニャはそう力強く言うと、自分の持っているカラーコインを金庫の中に入れ、代わりにそこから札束を取り出した。
「10万ハクロアあるよ! これだけあれば大丈夫!」
「でもそのお金、使っていいの……?」
「大丈夫! 10万ハクロアなんて、すぐ稼げるんだから!!」
ギルパーニャにはとある秘策があった。
「フレス! 一緒にカラーコイン、取り戻そうよ!」
「……うう……ギル…………!!」
フレスの目に再び涙が浮かぶ。
「おっと、フレス! もう泣くのは止めようよ! これから鑑定士として、一杯頑張らないといけないんだから! この程度で泣いてちゃだめだよ!!」
ギルパーニャのサムズアップ。
「ギル……」
フレスもゴシゴシと涙を腕で拭った。
そして同じようにサムズアップをすると、
「ギル! 一緒に頑張ろう! ボク達だって鑑定士なんだ!」
「そうだよ! 絶対に取り戻す!!」
二人はコツンと拳をぶつけあった。
フレスは急いで服を着ると、ギルパーニャと共にリグラスラムの都市部へと向かったのだった。
――●○●○●○――
リグラスラム都市部裏路地。
人気のない薄暗いこのような場所に、そのオークションハウスは存在した。
「以前師匠に連れられて来たことがあるんだ。盗品の流通経路を知っておけば、盗賊の行動も予想できるって」
裏オークションのため、その建物に看板など無い。
ただ入口に男が一人突っ立っているだけ。
「いくよ、フレス……!」
「うん……!」
意を決し、オークションハウスへと潜入する。
まず入口にいた男に阻まれる。
「……こんなところに何の用だ?」
「裏オークションに参加する」
そう言ってギルパーニャは1000ハクロア札を男に手渡した。
「……入りな」
扉が開き、中へと通される。
このオークションに参加するには参加費として1000ハクロア徴収されるのだ。
決して安い参加費ではないが、取引される品が品だ。それも仕方ないというものである。
「まず今日の競売の予定を確認してみよう」
掲示板には分刻みのスケジュールで競売にかけられる品の一覧が掲示されてあった。
「……カラーコインは……あった」
見つけた。
競売品名称『色付き硬貨』。
4枚セットで、硬貨の特徴に赤、黄、青、黒とある。
フレスが持っていた硬貨の色と一致している。
「……これに間違いないよ……!!」
「競売開始時間は……これだ」
競売開始時間は午後7時12分より会場Dにて。
参考最低落札価格は……30万ハクロア。
「30万ハクロア!? そんなに持ってないよね?」
「持ってないよ。でも、大丈夫……!!」
現在午後2時丁度。
オークション開始まで、残り5時間と12分ある。
「これだけ時間があるなら、なんとかなると思う。でも、ここに掲示されているのは参考最低落札価格。オークションが始まってしまったらどれほど値段が上がるか分からない。だから出来ればこれの倍は用意しておかないと……!!」
30万ハクロアの倍と言えば60万ハクロア。
一般的な成人男性の年収とほぼ同額かそれ以上。
「本当に大丈夫なの!? 60万ハクロアなんて……!!」
フレスの心配はもっともだ。
それでもギルパーニャは不敵に頷いてみせた。
「大丈夫。5時間あるんだ。……大丈夫」
そういうとギルパーニャは何故か出口の方へと向かった。
「ギル、どこ行くの!?」
「決まってるでしょ? お金を稼ぎに行くんだよ!」
「こんな短時間で60万ハクロアなんて無理だよ!!」
そう言ったフレスに、ギルパーニャはニヤリと笑みを浮かべ、こう返した。
「――大丈夫。だってこれから行くところは――カジノ、なんだからさ!」