招かざる客4
そこは、高度な調度品が犇めき合っている部屋だった。
重厚な扉を開くと、豪華なシャンデリアの下、光を受けて輝く宝石の中に、『君主』と呼ばれる男の姿が、ある。
男はロングソファにゆったりと足を伸ばして微睡んでいた。
「―――我が、君……―――」
声のする方を向いた男の顔は痩せていて、切れ長の青銀の目が、鋭く光る。後ろに撫で付けられた白髪の所々に、銀糸が見えた。
「マリア……か」
そんな彼の許へ、散らばっている宝石などに見向きもせずに歩いてきたのが、美しい女性だった。
青銀の髪に銀灰色の瞳。紅いタイトドレスを着ている。豊満な胸元はドレスに収まりきれず、深い谷間が入っている。この姿で町を歩こうものなら、どんな男性も視線を奪われてしまうだろう。
「久しいな……マリア。三年ほどぶりになるのか?」
「はい。その間、我が君にはお変わりないようで……」
妖艶な笑みを浮かべ、『君主』の手を取り、甲に紅を落とす。
「私がいなかった間、どんなことがあった……?」
「我が君の予言どおり、戦争がありました。我が同胞たちは勇敢に戦い、騒ぎに乗じて力を高めることができました……。その後何代か政権が替わっておりますが、我々の力を恐れ、わが国に侵略することはないかと……」
「そうか……。私の予言どおりだろう?」
にやり、と笑い男はマリアの顎を掴んだ。
美女はされるがまま、操り人形のようにおとなしい。
「マリア……私はまだ、生きたい……!俗物たちのために三年も眠りにつく羽目になった……!だが今度こそ!私の世が来るのだ……!っぐ……」
「我が君!」
突然咳き込みだした男の背を擦ろうとマリアは腕を伸ばした。
ゆっくり呼吸が落ち着くまで続けると、ようやく『君主』の咳が止まった。
まだ本調子ではないのだから、と立ち上がろうとする男を宥めようとするが、逆に強い力によって引き寄せられた。
「マリアよ、私に少し力をおくれ……。お前の若い力が欲しい……!」
「我が君、私のからだは、髪の毛一本まで、御心のままに……」
そう言って、彼女はくちびるを重ねた。
彼らはくちびるを重ねることによって、力の強い者が弱い者より力と、力の差がありすぎる場合その身をも奪ってしまう能力を持っていた。だが、そんなことを長い間手塩にかけてきたマリアができるはずもなく、たかだか二十歳そこそこのマリアから力が奪われることも無い。
激しい口付けは、高齢とは思えないほど。若いマリアはそれだけで陥落してしまいそうだ。
「……口付けは及第だ……」
顔を赤らめ肩で激しく呼吸する姿は、男の欲望を高まらせる。
マリアを引き寄せ、己のからだと入れ替えてソファに横たえさせると、美女の絹肌の腕が男の首に回される。
「我が、君―――」
再び求められるくちびる。
そして―――。
男の姿は、消える。