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元親  作者: 劉・小狼☆
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第四部 天下の下で  第28章 従うという戦

 その命は、突然ではなかった。


 だが、やはり重かった。


「朝鮮出兵に備え、

 土佐より兵と船を出すべし」


 羽柴政権からの通達。

 淡々とした文面に、拒む余地はない。


 元親は、書状を閉じ、しばらく黙っていた。


 ――ついに、来たか。


 評定の席で、家臣たちの声が上がる。


「遠すぎます」


「土佐の兵に、海の戦は……」


「なぜ、我らが」


 もっともな意見だった。


 元親は、全てを聞いた上で、言った。


「出す」


 短い一言。


 空気が、凍る。


「だが」


 続ける。


「最小限だ」


 家臣が息を呑む。


「命じられた分を、

 正確に、過不足なく」


 それは、従属の中で選べる、

 唯一の戦い方だった。


 城下では、動揺が広がる。


「また、戦か」


「天下の戦だ」


「戻って来られるのか」


 元親は、兵を集め、語った。


「これは、栄誉ではない」


 正直だった。


「だが、拒めば、

 土佐は失われる」


 沈黙。


「生きて帰れ」


 それが、唯一の命令だった。


 出立の日、港に船が並ぶ。


 波は、静かだった。


 元親は、船に乗らなかった。

 代わりに、浜に立つ。


 ――送り出す立場になったのだ。


 その夜、元親は眠れなかった。


 剣を持たず、

 命令を受け、

 国を差し出す。


 これもまた、戦だ。


 数日後、畿内の役人が言った。


「土佐は、よく従う」


 褒め言葉の形をした、鎖。


 元親は、うなずくだけだった。


 鬼であった頃、

 敵は、目の前にいた。


 今、敵は、

 見えぬところにいる。


 夜明け、元親は城の上から海を見た。


 遠い海の向こうで、

 土佐の兵が戦っている。


 ――従うとは、

 ――刃を向けられぬ相手と戦うことだ。


 長宗我部元親は、

 この新しい戦に、

 静かに身を投じていた。

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