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元親  作者: 劉・小狼☆
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第三部 四国の夢  第21章 讃岐の影

 讃岐の地は、静かだった。


 平野が広がり、田は整い、

 戦の傷は、他国より浅い。


 だからこそ、厄介だった。


 元親は、境の丘から讃岐を見渡していた。


 ――ここは、強者の国ではない。

 ――だが、賢い国だ。


「讃岐は、様子見に徹しております」


 家臣が言う。


「伊予の動きも、阿波の一件も、

 すべて見ております」


 元親は、うなずいた。


「だから、動かぬ」


 動かぬ者は、

 最後に、最も高い代価を求める。


 使者は、何度も往復した。

 讃岐の国衆は、丁重で、曖昧だった。


「土佐殿の志は、立派」


「されど、天下の行方が定まらぬ今、

 軽々に動くわけには参らぬ」


 その言葉の裏にあるものは、明白だった。


 ――織田。


 そして、その後継として急速に力を伸ばす、

 羽柴秀吉。


 夜、元親のもとに、密書が届く。


「畿内、動く」


 短い一文。


 それだけで、十分だった。


 天下の波が、

 四国へ向かっている。


 評定の席。


「讃岐を急ぐべきです」


「今なら、四国は取れます」


 声が、上がる。


 元親は、しばらく黙っていた。


 四国統一。

 あと一歩。


 だが、その一歩の先に、

 天下が立ちはだかる。


「……急げば」


 元親が口を開く。


「四国は、取れる」


 家臣たちが息を呑む。


「だが」


 続く言葉が、空気を変えた。


「取った瞬間、

 天下とぶつかる」


 沈黙。


 誰もが、その意味を理解した。


「讃岐は、鏡だ」


 元親は、静かに言う。


「我らの動きを、

 天下に映す鏡」


 無闇に動けば、

 秀吉は、必ず来る。


 夜、元親は一人、星を見上げた。


 四国は、確かに見える。

 手を伸ばせば、届きそうだ。


 だが、その先には、

 はるかに大きな空がある。


 ――夢は、叶う直前が、最も危うい。


 讃岐の影は、

 国ではなく、天下だった。


 元親は、拳を握る。


 進むか。

 待つか。


 鬼としてではなく、

 国主としての決断が、迫っていた。

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