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元親  作者: 劉・小狼☆
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第三部 四国の夢  第15章 四国の夢

 春が、土佐に訪れていた。


 山々は淡く霞み、川は雪解け水を集めて勢いを増す。

 戦で荒れた大地にも、草は芽吹く。


 元親は、城の高台から国を見渡していた。


 ――土佐は、ひとつになった。


 だが、その実感は、まだ完全には胸に落ちていない。


 統一とは、終わりではなかった。

 むしろ、始まりだった。


 評定の席には、これまで以上に多くの顔が集っている。

 かつて敵だった者。

 疑いを向けてきた者。

 今は、同じ国を支える者たちだ。


「国中は、ようやく落ち着きを見せております」


 重臣の一人が報告する。


「年貢も、徐々に戻りつつあります」


 元親は、うなずいた。


 だが、次の言葉が続く。


「……しかし、周囲は静かではありませぬ」


 阿波、伊予、讃岐。

 四国は、まだ割れている。


「土佐が一つになったことで、

 他国は、我らを警戒し始めております」


 元親は、地図へ視線を落とした。


 小さな島に、四つの国。

 それぞれが、互いを牽制し、

 そして――外の大国を恐れている。


「このまま守りに入れば、

 いずれ、飲み込まれましょう」


 誰かが言った。


 織田。

 毛利。

 そして、台頭しつつある羽柴秀吉。


 天下は、すでに動いている。


 元親は、静かに口を開いた。


「……ならば」


 場の視線が、集まる。


「四国を、ひとつにする」


 言葉は、淡々としていた。

 だが、その重みは、土佐統一とは比べものにならない。


「土佐を守るために、

 土佐の外へ出る」


 一瞬、沈黙。


 やがて、誰かが息を吐いた。


「……夢が、大きすぎます」


 元親は、その言葉を否定しなかった。


「承知しています」


 ゆっくりと続ける。


「だが、小さな国が生き残るには、

 小さなままではいられぬ」


 鬼若子と呼ばれた日々が、遠くに感じられる。

 今、元親の目にあるのは、恐れではなく、責任だった。


 評定が終わり、元親は城下を歩いた。


 市では人が行き交い、

 子どもたちが走り、

 女たちが井戸端で笑っている。


 ――この光景を、失わせてはならない。


 それが、彼のすべてだった。


 夜、元親は国親の墓前に立った。

 すでに父は、この世にいない。


「父上」


 小さく、声を落とす。


「土佐は、守れました」


 風が、木々を揺らす。


「ですが……まだ、足りませぬ」


 天下の波は、四国にも届く。

 いつかではない。

 近いうちに、必ず。


「鬼として生きる覚悟は、すでにあります」


 だが、と元親は心の中で続ける。


 ――夢を見ることまで、捨てたくはない。


 城へ戻る途中、東の空に月が昇っていた。


 丸く、静かな光。


 四国という島もまた、

 あの月のように、一つになれるのか。


 元親は、歩みを止めなかった。


 土佐の主として。

 そして、四国の未来を背負う者として。


 その胸に芽生えたものは、

 野心ではない。


 国を残すための、夢だった。

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