第四話 マウスハンティング
その後も度々、クロと顔を合わせることになった。
会うたびに彼は車屋の猫らしく、かなり乱暴な性分であることがわかる。
ある日、茶園で寝転びながら雑談していると、クロが唐突に質問してきた。
「お前、今までネズミを何匹捕ったんだ?」
……来た。知識では俺の方が勝ってると思うが、腕力と勇気ではクロに到底かなわない。
正直に答えるしかない。
「実は……捕ろうとは思ってるんですが、まだ捕ったことがないんです」
クロは長い髭を震わせて大爆笑。
まあ、彼は自慢が大好きだから、俺がハイハイ聞いていれば機嫌はいい。
だから黙って彼をしゃべらせることにした。
「貴方はベテランだから、たくさん捕ったんでしょう?」
案の定、クロはドヤ顔で語る。
「三十か四十は捕ったろうな!」
さらに武勇伝は続く。
「ネズミの百や二百はいつでも引き受けるが、イタチはダメだ。一度ひどい目に遭った」
俺がフンフン相槌を打つと、クロは目をパチパチしながら語る。
「去年の大掃除の時だ。うちのボスが石灰袋を持って縁の下へ潜ったら、大きなイタチが飛び出してきやがった。俺は追いかけて溝に追い込んだんだが……奴め最後っ屁をこきやがった! 臭くて臭くて、それ以来イタチを見るたび胸クソ悪い」
クロは鼻を前足でなでながら、脳裏にあの黒歴史が蘇っているようだ。
俺はちょっと気の毒になりヨイショする。
「でもネズミならあなたに睨まれたらお終いですね。ネズミ捕りの名人だからそんなに肥えて色艶もいいんでしょう」
ところがこの言葉が逆効果。クロは大きく息をしてエクスプロージョン!
「考えると腹が立つ! いくらネズミを捕っても、人間って奴はふざけてやがる。俺が捕った獲物を全部取り上げて交番へ持って行きやがるんだ。交番じゃ誰が捕ったか分からねえから、そのたびに金をくれる。うちのボスなんか俺のおかげで大儲けしてるってのに、俺には、ろくなものを食わせやしねえ。全く人間ってのは大泥棒だぜ!」
クロは背中の毛を逆立て、怒り心頭。
俺は気まずくなり、テキトーにスルーして家へ帰った。
この時から俺は決してネズミを捕るまいと決心した。
クロの子分になって御馳走を漁ることもせず、ただ寝ている方が気楽だ。
教師の家にいると猫も教師みたいな性格になるらしい。
気をつけないと、俺まで胃弱になりそうだ。




