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第三十八話 猫のエクササイズ

第七章


俺、最近ちょっと運動エクササイズなんて始めたんだ。

俺の運動がどんな種類か気になる奴もいるだろうから説明してやろう。

不幸にして俺は機械を持ってない。だからボールもバットも扱えない。金もないから買えない。

必然的に俺の選んだ運動は「一文いらず器械なし」ってジャンルに属する。

じゃあ「のそのそ歩く」とか「鮪の切り身を咥えて走る」とか想像するかもしれんが、ただ四本足を動かして地球の引力に従って歩くだけじゃ単純すぎてつまらん。

だから俺はいろいろ考えた。

台所のひさしから屋根にジャンプする技とか、屋根のてっぺんにある瓦の上で四本足をピシッと決める立ち方とか。物干し竿を渡る――これは無理。竹がつるつる滑って爪が立たないんだよ。物理法則ってやつは猫にも容赦ない。

後ろから不意にガキに飛びつく――これはかなりスリル満点で面白い運動なんだけど、やりすぎるとひどい目に遭うから月三回が限度。紙袋を頭にかぶせられる――これはただ苦しいだけで、エンタメ性ゼロ。しかも人間がいないと成立しないから駄目。

次に書物の表紙を爪でガリガリやる――これは主人に見つかると必ず説教されるリスク付き。しかも指先の器用さだけで全身の筋肉が動かないから、運動としては不合格。

要するに、これらは俺の言う「旧式運動」だ。昔の遊びみたいなもんで、スリルはあるけど進化はない。人間が「健康ブームだ!」って騒ぐ裏で、猫は猫で旧式の運動を試行錯誤してる。――まあ、俺の運動史もまだまだアップデートが必要ってことだな。

新式の運動の中で、俺が一番ハマったのが「カマキリ狩り」だ。ネズミ狩りほどの大イベントじゃないけど、危険度は低めで夏から秋にかけてのシーズンスポーツとしては上等だね。

やり方はシンプル。まず庭に出て、カマキリを一匹見つける。時期が良ければ二匹くらいすぐ見つかる。

で、見つけたら風を切って突進!するとカマキリ君は「とりゃ!」とばかりに鎌首を振り上げて構える。

いや、あいつも意外と健気で、相手の力量を知らないうちは抵抗する気満々なんだよ。

そこを俺が前足でちょいと参ると、首がぐにゃり横に曲がる。その瞬間の「おや?」って顔が最高に面白い。

さらに背後に回って羽根を軽く引っかく。

すると大事に畳んでた羽根がぱっと乱れて、中から薄色の下着が現れる。

夏でも二枚重ねとか、カマキリ君もお洒落に余念がない。

首を立ててこっちを睨む姿もなかなか様になってるけど、長引くと運動にならないからまた一発。

賢いカマキリなら逃げるけど、無教育な野蛮カマキリはがむしゃらに突っ込んでくる。

そういう奴は狙いすまして張り飛ばしてやると、1メートル近く飛ばされる。

おとなしい奴なら気の毒だから庭の木をぐるっと回って遊んでやる。

けど結局は逃げ惑うだけで、最後には羽根を広げて「一大活躍!」を試みる。

だがその羽根、実用性ゼロの飾り物。

人間の英語や仏語やドイツ語みたいに、見栄えはするけど滅多に役に立たない。

だから「活躍」と名乗っても、実際は地面を引きずって歩くだけ。

ちょっと気の毒だが、運動のためだから仕方ない。

俺は前面に回って鼻を一発。カマキリ君は羽根を広げたまま倒れる。

その上を前足で押さえて休憩、放してまた押さえる。

まるで孔明の「七度捕らえては即解放 」戦法だ。

三十分くらい繰り返すと、もう身動きできなくなる。

そこで口に咥えて振ってみて、また吐き出す。

最後には地面に寝たきりになって、突っついても飛び上がれない。

そうなったら――”このあとみんなで美味しくいただきました。”

正直にいうとカマキリは旨くない。栄養も少ない。

つまりこの運動は「味」より「過程」がご馳走なんだ。

俺にとっては、夏の庭で繰り広げる、ちょっとしたクエストみたいなものなのさ。

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