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第三十二話 本題

ここで多々良君は本題に入る。

「奥さん、先生のところへ水島寒月という人が来ますか?」

「ええ、よくいらっしゃいます」

「どんな人物ですか?」

「大変学問のできる方だそうです」

「好男子ですか?」

奥さんは笑って「ホホホホ、多々良さんくらいでしょう」と答える。

「そうですか、私くらいですか」

……いや、マジに取っちゃダメだろ。いや、株で倍になるとか、イケメンの基準が多々良君くらいとか、世の中ほんと油断ならん。

「どうして寒月の名を知っているんだい」とボスが問いかける。

「せんだって、ある人から頼まれました。そんなことを聞くだけの価値のある人物でしょうか」

……まるで自分が寒月以上に偉いという態度だな。

「君よりよほど偉い男だ」ボスはあっさり言い切る。

「そうでございますか、私より偉いですか」

多々良君はリアクション芸ゼロの無反応マンである。

「近々博士になるそうだ。今、論文を書いているらしい」

「やっぱり馬鹿ですな。博士論文なんて書くなんて、もっと話せる人物かと思ったら」

「相変わらず偉い見識ですね」と奥さんが笑いながらチャチャを入れる。

多々良君「博士になったら、誰かの娘をやるとかやらんとか言ってましたが、そんな馬鹿な話があるか。娘をもらうために博士になるなんて。そんな人物にくれるより、僕にくれる方がよほどましだと、そう言ってやりました」

ボス「誰に?」

多々良君「私に寒月のことを聞いてきた人物です」

ボス「鈴木じゃないのか?」

多々良君「いいえ、その人物にはそんなことは言えません。向こうは富豪ですから」

……ネット弁慶かよ。

するとボスが突然言う。 「多々良、散歩をしようか」

上着一枚で寒さに震えていたボスは、少し運動すれば暖かくなるだろうと考えたらしい。

自宅警備員にしては珍しい提案だ。

普段からノープランな多々良君が迷うはずがない。

「行きましょう。上野にしますか。芋坂へ行って団子を食いましょうか。先生、あそこの団子を食ったことがありますか?奥さん、一度行って食べてご覧なさい。柔らかくて安いです。酒も飲めます」

例によって多々良君がグダグダな雑談を垂れ流しているうちに、ボスはもう帽子をかぶって靴を履いていた。


さて、俺には少々オフが必要だ。

ボスと多々良君が上野公園で何をしでかして、芋坂で団子を何皿食ったかなんて、どうでもいいこと。

細かいことは全部すっ飛ばして、俺は一人でダラダラタイムを過ごすことにした 。

オフってのは万物が神に要求する当然の権利である。

生きる義務を背負って、うごめいている者は、その義務を果たすためにオフを得なければならない。

もし神が「汝は働くために生まれた、寝るためじゃない」と言うなら、俺はこう答える。

「働くために生まれたからこそ、働くために休養が必要なのだ」と。

ボスみたいなガチ頑固マンですら、日曜以外に勝手に休養を取るじゃないか。

毎日メンタル削られてる俺なんか、猫とはいえボス以上に休養が必要なのは当然である。

ただ、さっき多々良君が、ただのニートみたいに俺をディスったのは少々気にかかる。

ただの一般ピーポーってのは形だけで他人を評価する。汗をかかないと働いてないと思ってるんだ。

多々良三平君なんかはその典型だ。

形式重視の超一流の人物だから、俺をカス同様に扱うのも無理はない。

だがボスまでが多々良に同意して「猫鍋」に異議を挟まないのは残念だ。

このままだと本当に猫鍋を囲む家族の団らん風景が現実となりかねない。

俺の様なチート的頭脳を持つ猫でさえ環境がクソだと、ただの猫である。

ただの猫なら、最低限ネズミを捕るくらいの仕事をしろって話だ。

俺はとうとう、ネズミを捕らざるを得なくなってしまった。

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