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第二十四話 席取り合戦

鈴木が来る前に帰らないと面倒だ。もう十分話は聞いたし、これ以上居座る必要もない。

俺は縁の下を伝ってトイレの横を回り、ミニチュア富士の陰から外へ抜ける。急ぎ足で屋根に草が生えた我が家へ戻り、何食わぬ顔で座敷の縁側へ回る。

ボスは縁側で腹ばいになり春の日差しで甲羅干ししている。

両手で顎を支え、右手の指にタバコを挟んでいる――ただそれだけ。

頭の中では宇宙の真理が中性子星のように高速回転しているのかもしれないが、外から見ればただの昼寝前のオッサンだ。

タバコの火はだんだん吸口に迫り、灰の棒がポトリと毛布に落ちても気にしない。

ボスはボーと煙の行方を見つめている。

その時、門のベルが勢いよく鳴り、大きな声で「頼む!」と響いた。

やっと鈴木君が、屋根のペンペン草を目印に、ボスのアジトを探し当てたらしい。

やがてお手伝いさんが持ってきた名刺を見て、ボスはちょっと驚いた顔をしたが、「こちらへ通してくれ」と言い捨てて、そのまま名刺を握ったままトイレへ入ってしまった。

どうして名刺を持ってトイレに行くのか、全く意味不明だ。

迷惑なのは臭い場所へ連行された名刺君である。

お手伝いさんが座布団を床の間の前に出して「どうぞこちらへ」と下がると、鈴木君は室内をフルスキャン。

床の間に掛けられたフェイクっぽい掛け軸や、安物の壺に活けた彼岸桜を順にチェックしたあと、ふと座布団の上を見ると――いつの間にか一匹の猫がすまして座っている。

もちろん俺だ。

この瞬間、鈴木君の胸の内に小さな殺意が生まれた。

その座布団は間違いなく彼のために敷かれたもの。

自分が座る前に、断りもなく妙な動物が平然と陣取っている。

これが殺意を生む第一の要因。

もし座布団が空のままなら、鈴木君は謙遜の意を示して、主人が「どうぞ」と言うまで畳の上で我慢していたかもしれない。

だが、いずれ自分のものになるはずの座布団を猫が占拠している――これが第二の要因。

さらに俺の態度がアタマに来る。

少しは気の毒そうにすればいいものを、権利もない座布団の上で堂々と構え、丸い目をぱちつかせて「お前は誰だ?」と言わんばかりに見つめている。

これが第三の要因だ。

不満があるなら、俺の首根っこを掴んで引きずり下ろせばいい。

だが鈴木君は黙って見ている。

堂々たる人間が猫に恐れて手を出さないはずはない。

それでも処分しないのは、彼が人間としての体面を守ろうとする自重心のせいだ。

その気になれば幼稚園児でも俺を動かせるだろう。

だが「猫と陣取り合戦した」とあっては人間の威厳に関わる。

猫を相手にマジに争うのは大人気ない。

……ワロス。

この不名誉を避けるために鈴木君は耐え忍ぶ。

だが忍ぶほどに猫への殺意は増す。

だから彼は時々俺の顔を見ては苦い顔をする。

俺はその不平な顔を見るのが面白いので、なるべく何食わぬ顔で座り続けている。

俺と鈴木の間で無言劇が続いているうちに、主人がトイレから出てきた。

「やあ」と席に着いたが、手に持っていた名刺は影も形もない。

どうやら「鈴木藤十郎」の名刺は、臭い場所で懲役に科されたらしい。

名刺こそ不運に遭ったものだと思う間もなく、ボスは「この野郎」とばかり俺の襟首をムンズと掴んで、ポイっと縁側へブン投げた。

俺は鉄棒選手の如く、クルクルとムーンサルトで着地に成功。

……全審査員10.0のパーフェクトスコア。

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