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第二十話 魔王城への潜入ミッション

向こう横町に来てみると、噂通りの西洋館が角地をドーンと占領していた。

まさに「魔王城」って感じ。

主人もこの館みたいに傲慢に構えてるんだろうな、と門をくぐって居城を眺める。

二階建てが無意味に突っ立ってるだけで、威圧感だけが取り柄。能なし構造。

金縁メガネの言う「月並み」ってこういうことか。

玄関を右に見て植え込みを抜け、勝手口へ回る。

さすが金田邸、勝手口も広い。ボスんちの台所の十倍はあり、整然としてピッカピカ。

「料理番組に出てくるような台所だなあ」――とつぶやきながら、そっと侵入する。

白壁で二坪ほどの土間に、例の車屋のおかみさんが立っていて、料理人と車夫を相手に何やら井戸端会議中。

俺は「こりゃヤバい」と水桶の裏に隠れる。

「おい、あの教師、旦那の名を知らないのかね」と料理人。

「知らねえわけあるか。この界隈で金田邸を知らない奴なんかいねえ」と車夫が続く。

「でもあの教師、本しか知らない変人だよ。旦那のこと少しでも知ってりゃビビるかも知れないが、駄目だね。自分の子供の歳さえ知らないんだから」とおかみさん。

「金田さんを恐れねえ厄介な偏屈者だ」

「構わねえ、みんなでビビらしてやろうじゃないか」

「それがいい。奥様の鼻が大きすぎるとか、顔が気に入らないとか――酷いこと言うんだよ。自分のツラが今戸焼きの狸みたいなくせに」

「顔だけじゃない。手拭を提げて銭湯に行く姿もイキってる。自分が一番偉いと思ってる」

……ボスは料理人にも大いに不人気。BADボタンが4桁を超える。

「大勢で垣根のそばへ行って悪口を言うぞ」

「そうすりゃきっとビビるぜ」

「姿を見せずに声だけ聞かせて、できるだけ煽れって奥様が言ってた」

「そりゃ分かってる」――おかみさんは口撃火力の三分の一を担当する気満々だ。

なるほど、この連中が先生を冷やかしに来るのか。

……クッソザコ 乙。

俺は三人の横をそっと通り抜け、奥へと忍び込んだ。

猫の足は音を立てない。俺のスニークスキルは神レベル。

行きたい場所へ行き、聞きたい話を聞き、舌を出しシッポを振り、ヒゲをピンと立てて悠々と帰るだけ。

俺は「これはニャンコのシッポ大明神のおかげだな」と気づく。

礼拝してニャン運長久を祈るとするか。

シッポを見て三拝しようと身体を回すと、シッポも回る。右に首をねじればシッポも右に。

なるほど霊物だけあって、簡単には手を合わせられない。光の速度で七周半もグルグル回ってバテちまった。目が回って方角も分からなくなる。

「まあいいや」とフラフラ歩き回ると、障子の裏からハナ子の声。

「貧乏教師のくせに生意気じゃありませんか」――例の金切り声。

「うん、生意気な奴だ。懲らしめてやろう。あの学校には知り合いがいるからな」

「誰がいるの?」

「津木ピン助や福地キシャゴがいる。頼んで煽ってやろう」

……ひょっとして異世界からの転生者か? 妙な名前ばかりで驚いた。

さらに金田君は続ける。

「あいつは英語の教師か?」

「車屋のおかみの話じゃ、英語のリーダーとかを専門に教えてるらしいよ」

「どうせろくな教師じゃないさ」

「この間ピン助に会ったら、妙な話をしてたな。生徒が『先生、番茶は英語で何と言いますか』と聞いたら、真面目に『Savage tea(ヤバいお茶)』と答えたんだと。教員間の物笑いになってる。大方あいつのことだ」

「間違いない。そんなこと言いそうな面構えだ。ヒゲなんか生やして」

「けしからん奴だ」

……ヒゲを生やしてけしからんと言うなら、猫なんて全員アウトだろ。

ハナ子「それに迷亭とか、へべれけとかいう奴は、調子っぱずれなロック野郎だ。伯父が牧山男爵だなんて、あんな顔に男爵の伯父があるはずない」

「どこの馬の骨か分からん奴の話を真に受けるのも悪い」

「悪いって、人を馬鹿にしすぎじゃありませんか」――ハナ子夫人は残念そう。

不思議なことに寒月君の話は一言も出ない。

俺が忍び込む前に評判は済んだのか、すでに落第扱いなのか。気になるが仕方ない。

しばらく佇んでいると、廊下を隔てた座敷でベルの音。

……お、あそこにもイベント発生

俺は遅れぬように、その方角へ足を向けた。

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