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おれたちはサクラ色の青春  作者: 藤香いつき
サクラ色の秘密
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最初の贈り物

「ヒナって、女子っぽくね?」

 

 部活後の寮横カフェテリアで、琉夏(るか)の何気ない一言が妙に反響した。

 親子丼を食べていたヒナが眉を跳ねさせる。ついでに、ハヤトも思いっきり動揺して固まった。

 竜星(りゅうせい)は箸を止め、向かいの琉夏に目を上げる。

 

「あんたの『琉夏』も女子っぽいやろ」

「えェ〜? ルカは世界的にも男名じゃん?」

「外は知らん。日本やったら女子が多いやろ。いつからか知らんけどぉ……中性的な名前が人気やな?」

 

(あ、そっち?)

 

 名前の話をしている。ヒナは数秒遅れで察した。

 

「あ、あ〜……そうだよな? ヒナもルカも女子に多そうだな?」


 ヒナの正面で無言だったハヤトも、止まっていた手を動かして食事を再開した。

 

「クラスの半分以上が中性的な名前か?」


 ハヤトの問いに、3人は顔を合わせてクラスメイトの顔を順になぞった。

 麦、ルイ、詩は中性的といえばそうなのか。

 もぎゅもぎゅとオムライスを頬張りながら、ヒナはほんの少し難しい顔をする。

 

「そうそう、おれ自分の名前が女子っぽいって思って嫌だった時期があった。今はまぁ……いいけど。ハヤトとか竜星みたいに、めっちゃ男子!な名前がよかったんだよなー?」

「うちは竜星が嫌やったけどぉ……」

「え、なんで? かっこいいのに?」

「外見が名前負けしてないかぁ? 正味ドラゴンスターではないやろ」

「あー、うーん?」

 

 竜星のピンクヘアは少し長めで、小柄なのも相まって印象も可愛い寄り。

 竜星は溜息を落とし、隣のハヤトを横に見る。

 

「こういう感じやったら竜星でいいんやけど……」

「俺のどこが竜星なんだよ?」

「暴れん坊なとこやな」

「おい」


 ハヤトから軽い肘の突っこみが入った。受けた竜星は笑っている。

 向かいではヒナが目玉をぐるっと上に回していて、

 

「竜星って、響きだと流れ星みたいで綺麗だけどな? シューティングスター?」

「そぉか〜?」

「ヒナは、響きも漢字も可愛すぎる。イメージも赤ちゃん鳥で小柄な感じだし……」


 控えめに不満げな表情を見せていると、カタンとイスを引く音がして——そちらに意識が向いた。

 学校祭を終えてから寮横カフェテリアは賑わいを見せている。満席とまではいかないが、食事どきは半数以上が埋まるようになった。

 それでもハヤトの周りは結界が張られたみたいにふんわり空いていて、ヒナたちは近くに誰かいるという認識はなかったのだが……

 柱で死角になっていた位置から、サクラが姿を現した。

 

「ぅぐ」

 

 濁音みたいな声をこぼしたのはハヤトで、ヒナもつい口の中のものを丸呑みした。

 唐突なサクラは心臓にわるい。何も悪いことはしていないのに。

 

「さっ、サクラ先生、こんにちはー!」

 

 取り繕って笑顔を見せるヒナに次いで、竜星や琉夏もゆるく挨拶を送る。ハヤトも遅れたが続いた。

 食べ終えたところと見えるサクラは一同を見下ろし、「こんにちは」驚くことなく応えた。いつ来たのか、先に座っていたのか。

 油断していたヒナと琉夏が、

 

「(えっ、おれたち、まずいことは何も喋ってないよな?)」

「(今回は喋ってないはず? 名前の話しかしてなくね?)」

「(だよな!)」

 

 コソコソと素行を確かめ合い、ほっと胸を()でおろした。

 そんな挙動不審なヒナと琉夏に目を投げていたサクラが、ふと、

 

「——『ヒナ』は『雛鳥』ではなく、『雛人形』だよ。(くる)まれた赤ん坊は、見ようによっては雛人形のようだろう?」

 

 ——ん?

 いきなり話題に切り込まれ、見上げる4人は目を開いた状態で停止した。(なんの話だ?)と首を傾げる程度に理解が回っていない。

 自分の過去と照らし合わせたヒナが、いち早く再起動し、

 

「あっ……もしかして、おれの名前の由来ですか?」

「ああ」

「母さんがそう言ってました?」

「……そう、だね」

「?」

 

 妙に歯切れ悪く返したサクラに、ヒナの顔は疑問符をのぞかせる。

 詳細を求めるように見上げる瞳は、サクラの脳に小さな雛鳥を連想させる。

 

「……気に入らなかったのなら、悪かったね?」

「えっ、なんでサクラ先生が謝るんですか?」

「……さあ、ね?」

「んん?」

 

 ふっと淡く笑って去っていくサクラを、ヒナが困惑だらけの顔で見送っていると……

 

「サクラ先生とヒナの母親、知り合いなわけ?」

 

 並んでいた琉夏が問うた。


「え? ……あっ、うん。おれの母さん、サクラ先生のとこで使用人してたから」

「してたってことは、昔の話? 今は何してンの?」

「今っていうか……えっと……おれ、知らなかったんだけど、母さんはおれを産んですぐ亡くなってて……」


 ぽろっと答えたが、内容が——重い。

 ヒナの心中では、こんがらがった(ひも)(ほど)けるように、今となっては全ての事実が()に落ちていたが……周りからすると、非常にナイーブで重たい話だった。

 軽い気持ちで尋ねた琉夏が硬直している。硬い唇を動かせて謝罪した。

 

「……ごめん」

「えっ、いや? 謝らなくても?」

「………………」

「る、琉夏? おれ、もう乗り越えたからいいんだよ?」

 

 落ち込んでいるのか(まれ)に見る大人しさで黙りこくった琉夏に、ヒナが慌てて「気にすんなよ! へいきだって!」フォローの言葉をそそぐが反応がない。

 竜星は苦笑いで(親子問題は琉夏にとって地雷やしな……)話題を変えようと口を開けた。

 すると、ハヤトのぶっきらぼうな声が、

 

「『ヒナ』も『琉夏』も『竜星』も、いい名前だ。親か身内か知んねぇけど、名付けてくれたひとが心込めて付けてくれたのは分かる。今はいなくても、疎遠になってても、そんときの愛情を感じられるのは……いいよな」

 

 それは、彼なりのフォローなのか。あるいは、自分の気持ちも含んでいるのか。

 

「……なんだよ」

 

 3人の目を集めて押し黙るハヤトが、低く脅すように言葉を返すと、困り笑いのようにそれぞれの表情が揺らぐ。

 

「そぉやな。ドラゴンスターも、悪くないわ」

「オレはべつに琉夏はキライじゃない」

「……おれも、ヒナって、今は嫌いじゃないよ」

 

 ぽつぽつと挙がる意見に、ハヤトは鼻を鳴らして食事へと集中する。

 と、その前に、

 

「言っとくけど、俺は颯人(ハヤト)を気に入ってるからな」

 

 捨て台詞にしては、可愛らしい。

 目を揃えた残りの3人は、小さく笑みをこぼしていた。

 

 

 

 

 

 

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