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おれたちはサクラ色の青春  作者: 藤香いつき
スクール・フェスティバル
75/79

06_Track13

「いけ、今や。言ってまえ」

 

 ヒナとハヤトから絶妙に距離を取った位置で、竜星がなんか言っている。

 長身の琉夏を柱にして、ハヤトの動向を(会話は聞こえないが)ひっそりと見守っていたはずが、気づけばがっつり観察していた。無神経な琉夏が邪魔しそうだったので、お菓子を渡して引き留めている。ぬかりない。

 ただ、挙動不審な竜星に琉夏はそろそろ疑問を抱き始めていた。ガリッと音を立ててラムネを()み砕き、

 

 

「竜星、どこ見てンの〜?」

「なんも。音楽、聴いてるだけや」

「ふ〜ん? ……でさぁ、明日休みじゃん? どっか行こ〜よ」

「………………」

「聞いてる?」


 あかん、あいつ言う気ないやろ。何してるんや。鈍感ヒナは言わな伝わらんやろ。

 ぶつぶつ口の中で呟いている竜星に、琉夏が「なァ〜、明日どっか行こ〜? 竜星が行くって言ったらハヤトもヒナも来るって」ずっと勧誘しているがカケラも返ってこない。

 

「ちょっと黙っててや」

「えェ〜?」

「明日行ってあげるし、いま動かんといて」

「ほんと? もっかい言って。録音しとく」

「動かんといて」

「そこじゃなくて」

 

 視界を遮るように動く琉夏を、竜星が押さえ込む。

 そんな二人を見たルイが、「何してるの?」両肩を上げて呆れていた。麦と詩は笑っている。日が落ちたのもあって詳細が分からず、壱正だけが(喧嘩ではないな……?)学級委員の目で様子をうかがっていた。

 遠くの校庭でイベントが次々と展開されていくが、屋上は教室と変わらない空気が流れていた。


 ——いや、そんなこともない。

 薄暗くなった視界に、遠くのライトアップを受けて(ほの)かに浮かぶ、非日常めいた世界。

 泣きそうな顔で笑ったヒナを見て、ハヤトは少しばかり意識を変えていた。

 

「ヒナ」


 遠くに投げられていたヒナの目が、呼び声にハヤトを振り返る。涙を隠した瞳は、光を乗せて淡く輝いた。

 

「うん? なに?」

「……学園、やめたりしねぇよな?」

「……うん。夢はなくなったけど……やめたりなんて、しない。せっかく頑張って入ったんだからな」

「……そうか」

「……特待でご飯タダだし?」

「メシかよ」

「ハヤトにだけは言われたくないよ」

 

 ヒナの顔は、まだ少し泣きそうだった。それでも、前を向こうと笑っている。

 眉の下がった未熟な笑顔が、胸の奥をじんわりと締めつけ……想いがこぼれるように、ハヤトは口を開いた。

 

「理由はなんでも、俺は、お前がここに来てくれてよかった」


 瞳が、開く。驚愕に丸くなったヒナの目が、ハヤトを大きく映した。

 

「——俺は、お前が好きだ」

 

 ハヤトの囁きは、夜風に攫われることなく。

 確かにヒナの鼓膜を揺らして、募る想いを音にした。

 

 ……けれども、

 

「おう! おれもハヤトが好きだ! 仲良く青春しようなっ!」 

 

 にかっと破顔した、ヒナの晴れやかな表情。

 すべてを吹っ切った実に良い笑顔だったが……そういうことじゃない。


「………………」

「えっ……なんでそこで睨むんだ? ……笑えばいいと思うよ?」

「笑えねぇ。屋上から突き落としてやりてぇ」

「なに言っちゃってんのっ?」

「だからっ! 俺が言ってんのは——」

 

 声を荒らげて訴えようとしたハヤトの本心は、背後から、


「物騒な会話をしているね?」

 

 突如、現れた刺客によって妨害を受けた。

 ハッと背を顧みたハヤト。身長が負けているせいで見上げる羽目になるサクラが、空々しい微笑を浮かべていた。

 

「鴨居さんを突き落としたら、鴨居さんが無事でも、狼谷さんには学園から出ていってもらうよ?」


 にこりとした脅しを冗談と捉えたヒナは、呑気(のんき)な笑みを返す。

 

「その前に警察呼んでください。おれ、刑事さん見てみたいです! 殺人未遂なら来てくれますよね?」

「そうだね」

「事情聴取とかされる……? 緊張しちゃいそうだなー?」


 物騒な発言から物騒な話題を繰り広げていく。

 しかめっ(つら)のハヤトがサクラを細く()め上げると、見透かすような微笑みが返ってきた。

 

——その()()は、この子が大人になるまで要らないね?

 

 テレパシーか。過保護な兄みたいな心の声が聞こえた。

 

(……あんたは俺が超えてやるから、待っとけ)

 

 高くなる目線に意志を込めて強く見返せば、サクラは瞳を伏せるように笑って受け流し、

 

「そろそろ終幕かな?」

 

 屋上には見慣れた顔ぶれが揃いきり、彼方(かなた)では花火が上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

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