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おれたちはサクラ色の青春  作者: 藤香いつき
スクール・フェスティバル
67/79

06_Track5

「なぁ、ヒナ見てねぇかっ?」

 

 寮横カフェテリアに駆け込んできたハヤトは、開口一番に尋ねた。

 喫茶の後始末をしていた壱正・ルイ・詩の三人が振り返る。ハヤトに最も近かった壱正が首を振った。

 

「いいや、見ていない。ハヤトたちと一緒にいたのではないのか?」

「あいつ、ライブの片付けもしてねぇのに消えたんだよ」

「ここには来ていないが……」

 

 ルイが、ハヤトの様子に気づいて「何かあったの?」と口を挟む。ハヤトの目がルイに移る。

 

「お前ら……ライブ見てなかったのか?」

「うん? 見てたよ? 遅かったから、後ろのほうだったけど」

「3曲目であいつがミス——っつぅか、まったく弾かなくなって。様子が変だったし、アンコールで裏に引っ込めたんだよ。そっから行方が分かんねぇ」

「あぁ、ラストの。突発だったんだ? 旧メンバーで締める演出なのかなって思ってたよ」

「そんなことするわけねぇだろ。ヒナももう俺らの仲間なんだぞ」

「……うん、だよね」


 ハヤトの強い語気に、ルイは謝罪するような神妙さで同調した。

 

「……ヒナくん、失敗したことをハヤトくんに怒られると思ってるんじゃない? ブレスに連絡はしたの?」

「した。メッセージに既読もつかねぇし、通話も出ねぇ」

「困ったね……?(ハヤトくんがヒナくんを見つけられなくても僕は全然困らないけどね?)」


 頭を傾けるルイの後ろで、厨房から出てきた麦に、詩がヒナの行方不明を話していた。

 麦が瞳を上に向け、考えるように、

 

「もしかしたら……茶道部のとこかも。ライブのあとに、そっちで合流しようねって……約束したから」

「ほんとかっ?」

 

 反応したハヤトが、素早い身のこなしで反転して「見てくる! ありがとな!」返答を待たずに飛び出していった。

 

「ぇ……確証は、ないよ……?」

 

 麦の言葉は、宙に浮いたままだった。

 数秒、嵐が去ったような気持ちで止まっていた4人だったが……はたり、と。思い立ったように顔を見合わせ、


「ぇえっと……サクラ先生に、連絡したほうがいいかな?」


 麦が首をかしげる。

 壱正は眉根を詰めて、

 

「ハヤトを怖がったヒナが行方不明——と、伝えるのだろうか?」

「そ、そのまま伝えちゃダメだよっ。またハヤトくんのイメージが悪くなっちゃう!」

 

 慌てる麦に、ルイが小さく苦笑した。

 

「普通に、『連絡が取れなくて心配なので、位置情報を確かめてもらえませんか?』って言ってみるのは、どう?」

「ぁ、そうだね!」

「高等部にいるなら、それで確かめられるしね。……ところでさ。明日の後夜祭の話なんだけど、中等部の屋上から、高等部の校庭って見える? 人混みが嫌いな僕としては、屋上を解放してくれるのは嬉しいよ? でも、前と同じとこから、ちゃんと花火が見られるか怪しくない?」

「ぁ……ほんとだね?」

 

 花火は校庭で小型の物が打ち上げられる。前回の屋上からの景色を思い浮かべてみたものの、高等部の校庭まで見えていたかは記憶が曖昧だった。

 壱正と詩も記憶をたどる。

 

「見えるとは思うが、『ちゃんと』と言われると……遠目になるかも知れない」

「そうですね……。ですが、代わりに全員揃って見られますから——それが、一番かと」

 

 二人の答えを聞いて、ルイは身を回し、ポニーテールに束ねていた髪をさらりと揺らした。

 

「——うん、そうだね。……よし、早く片付けてヒナくんと合流しよっか。あ、壱正くんはサクラ先生に連絡してくれる? ヒナくんの居場所、いちおう()いてみて」

「ああ、分かった」

 

 止まっていた手が、再び動き始める。

 

 残りの時間、ヒナと校内祭を満喫しようとしていたルイたちだったが、それが叶うことはなかった。

 ヒナが体調不良を理由に帰宅していたと知るのは、もう少しあとになる。

 

 そして、学校祭の最終日である翌日の体育祭でも、ヒナは姿を見せなかった。

 

 

 

 

 

 

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