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おれたちはサクラ色の青春  作者: 藤香いつき
スクール・フェスティバル
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06_Track3

 午後組と交代したヒナたちは、昼食をとってから高等部の敷地にある体育館へ向かった。

 朝からイベント尽くしの体育館ステージ。2Bのアカペラもどうかと、学校祭実行委員から提案されたが断っていた。クラス企画でそれどころじゃない。バンドのメンバーが抜けるだけでも厳しい。そう思っていたのだが、

 

「午後は、たぶん売り切れで即行おわりだなー?」

「そぉやなぁ……正味1時間くらい? ルイは喜んでたわ」

「だろなー」


 ヒナは竜星と話しながらステージの裏に回った。搬入済みの楽器を確認する。ヒナはキーボード。ギターから浮気した。

 壱正の指導もあって上達……と言いたいところだが、実際はまったく成長していない。心にはありったけのロック魂を込めるが、指先は果てしなく簡単な譜面をたどる予定。

 

 楽器の確認を終えて顔を上げると、ステージ裏にいた学校祭実行委員の生徒たちに目がいった。本番のステージの用意は実行委員が手伝う手はずになっている。

 ヒナの視線の先で、実行委員の腕章をつけた男子生徒二人が、ハヤトの一挙一動に案じるような目を送っていた。2年生だった。

 

(カミヤハヤト警報。ほんと根強いな?)

 

 生徒会の後押しもあってライブは実現したものの、相変わらずハヤトを怖がる生徒は多い。2Bの活躍は認められつつあるのに、彼に対する警戒は根強かった。

 夏休み明けとともに開催された学校祭は、一見すると2Bも学園に受け入れられたような雰囲気だ。

 だが、『隔離』は、まだ残っていた。

 

 先日、サクラから話があった。

 


——君たちに、包み隠さず話したいことがある。

 

 クラス企画の話し合い時間にやって来たサクラは、始まりにそう言った。

 緊張を帯びたクラスメイトたちの顔を見回して、2Bの学校祭への参加についてクレームが出ていることを伝えた。正確には——ハヤトの参加が問題視されている、と。

 

——学校祭の最終日に、2年生徒から休みの申請が多く出ていてね……理由を調査したところ、『狼谷(かみや)さんが怖いから』という意見が占めていた。最終日の夕方に行われる後夜祭イベントは、花火やフォークダンスがあるね? 比較的に暗いなか、教員の目は隅々まで届きにくい。そのような場で学年ごとに集まることになるが……それが不安なため、欠席を望む者が多数いる。狼谷さんの欠席を求める声も出ている。

 

 サクラの声は静やかで、話題の中心となるハヤトも静粛に聴いていた。

 怒ったり文句を返したりすることなく、「それなら、俺が休みます」と、ハヤトは口早に応えた。

 

 ……ずるい。ハヤトを自主的に休ませるため、大人の事情を押し付けてきたサクラに、ヒナは反感を持って声をあげようとした——が。

 

——狼谷さんは、それでいいかも知れないが……君たちは違うね?

 

 サクラが見たのは、ハヤトじゃなかった。

 ヒナを含むクラスメイトたちを見回した瞳は、不思議なほどに優しく。

 

——クラス全員で最後まで楽しみたいと望むなら……私から提案がある。

 


「……って。なんだかんだサクラ先生の思惑どおりだよな?」


 ヒナはステージ裏の薄闇にまぎれて、ぽつりと文句をこぼした。

 隣にいた竜星が振り向く。

 

「ん? なんの話?」

「……後夜祭イベント。『屋上を開放するから2Bはそこで見ましょうね?』って……特別感で流されたけど、大人の都合にうまく乗せられちゃったなー……と。思ってた」

「え? 別にいいやろ。屋上から花火見るの、キレイそぉや」

「フォークダンスは?」

「それは踊らんでも……。もともとダンスは(たる)かったし」

「えー? おれは踊ってみたかったぁ……」

「そんなら踊っとき。ハヤトと」

「なんでハヤトっ? 嫌だよ! おれは女子と踊りたかったの!」


 小声だったが騒がしいと判断されたのか、こちらに寄ってきたハヤトによって「静かにしろよ」と注意を受けた。

 隣に並んだ琉夏が、「緊張するよりは全然い〜けどねェ」ニヤニヤとした唇を見せる。ミュージック甲子園のステージ裏と比べられている。

 琉夏を見上げて、フッと不敵に笑ってみせた。

 

「あの頃とは、ひとあじ違う。おれも成長したんだ!」

「ヒナのキーボード、カケラも成長してねェよな?」

「ばか、マインドの話! 精神面が成長したって言ってるんだろ!」


 ハヤトの目が吊り上がった。

 

「だから。お前うるせぇって。静かにしとけ」

「ごめんなさーい」

「反省が見えねぇ。次騒いだら口塞ぐぞ」

「(人権無視だ! 暴虐だ!)」

「あ? なんて?」

 

 口パクで文句を送っていると、ステージ上の発表が終わりの(きざ)しを見せた。休憩を挟んでライブになる。

 ステージから聞こえてくる音声に耳を傾けていると、ブレス端末が振動した。麦からの報告。

 

『無事に完売しました。片付けを後回しにして、みんなでライブを見に行くことになったよ。がんばって』

 

 応援のメッセージに気持ちが上がる。

 ハヤトに目を投げ、

 

「……なぁ、ハヤト」

「あ?」

「部長として一言くれよ。リーダーの掛け声——みたいなやつ」

 

 唇の端を上げてみせる。

 意地悪で言ったのだけれど、ハヤトは少しも考えることなく、真面目な顔で、

 

「——全部、()(さら)え」

 

 鋭い目と声で、応えた。

 ヒナと同じ。根本は完全に同じセリフなのだが……

 

「カッコいい。優勝」

「さすが部長やなぁ〜」

「えっ、なんでなんで? 今の元ネタおれだろ? おれのときと反応違うのなんでっ?」

 

 琉夏と竜星の称賛に納得いかず絡むヒナ。二人からはスルーされた。

 

「……ほら、行くぞ」

 

 不満げに首をひねっていると、ハヤトの目が空いたステージを示した。準備のための足を踏み出す。

 

 アカペラのときと比べれば、胸は落ち着いている。——けれども、鼓動は確かに跳ねている。

 不安からくる緊張ではなく、わくわくドキドキとした高揚感を噛みしめて、頼もしい仲間たちの背中を追った。

 

 

 

 

 

 

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