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おれたちはサクラ色の青春  作者: 藤香いつき
青春をうたおう
54/79

05_Track15

 ミュージック甲子園、本選の当日。

 ライブ映像となる番組が始まるころ、現地から遠く離れた桜統学園、オーディオルームの一室。

 

 麦とルイは午後の講座をキャンセルし、ヒナたちのアカペラを見ようと約束していたのだが。

 

「……ルイくん、あの、どうして彼らを呼んだの……?」

 

 麦は細い声で尋ねた。麦の目の端には、かつての級友である元Bクラスの同級生たちが着席している。

 全員ではない。男子ばかりで4人。誰もが気まずそうな顔で押し黙っている。

 

 麦の疑問に、ルイが笑顔を浮かべた。ミルクティーブラウンの髪は今日もツヤツヤで、天使のような光の輪が輝いている。

 

「麦くん、あのメンバーの共通点は分かるかな?」

「ぇ……」

 

 直接目を合わせたくない麦は、視界の隅っこで顔と名前を照らし合わせた。

 

「ぁ……もしかして」

「そう、その『もしかして』」

 

 琉夏とトラブルがあったメンバーだ。

 答えは理解したが、呼び出した理由は分からない。

 麦に向かって微笑むルイは、可愛くウィンクしてみせると、

 

「探偵ごっこだよ。詩のいない今がチャンスだと思ってね?」

 

 大きなディスプレイの前に立った。彼らに対して向かい合うかたちで、まるで教壇に立つ教師のように見据えた。


「——やぁ、こうして話すのは久しぶりだね? 呼び出しに応じてくれてありがとう」

 

 嫣然(えんぜん)とした笑みに、返答はない。4人の同級生たちは沈黙している。

 ルイは構うことなく続ける。

 

「知らせたとおり、今から元クラスメイトの晴れ舞台なんだ。君たちにも、ぜひ一緒に鑑賞してもらいたいな」

 

 笑っているのに、細まる目は冷ややかだった。

 麦はルイの笑い方に寒気を覚えて身を震わせる。

 

「——その前に。みんなに見てもらいたいものがあってね」

 

 ルイは手にしていたタブレット端末に触れる。バックのディスプレイに映し出されたのは、先日クラスメイトたちに見せた、ネットに散らばる悪口のスクリーンショット。

 同級生たちの顔色が変わった。

 

「……ふふ、すごい量でしょ? 全部で52件の中傷コメントを見つけたんだ。……あっ、もちろん僕が見つけたんじゃないよ? 君たちも知ってると思うけど、僕には根強い『ファン』がいるからね……。わざわざ調べてきて、僕に教えてくれたんだ」

 

 ディスプレイが切り替わる。

 ひとつのコメントが拡大される。

 

『金髪は死んだ有名歌手の隠し子』

 

 麦はハッとした。

 ハヤトの母親のことを、麦たちは知っている。中学の入学式で(芸能人だ!)と見かけてから、彼女は学校行事のたびにひっそりと参観していて、誰かの身内なのだろうかと話題になっていた。

 彼女が亡くなったとき、今まで欠席したことのなかったハヤトが数日にかけて休み、クラスメイトたちはハヤトの母親ではないかと噂した。

 

「……これを見て、変だなって思ったんだ」

 

 ルイが、ぽつりと呟く。

 

「この噂を知ってるなら、桜統生のはず。でも、桜統生ならハヤトくんの『暴力事件』だって知ってる。世間的イメージを落としたいなら、どう考えたって後者のほうが有力なのに……それに触れるコメントはなかった」

 

 タブレットから上がったルイの目が、ゆっくりと同級生たちを捉える。

 

「……もし、暴力事件を話題に出したら、調査が入って君たちの『隠蔽(いんぺい)事件』も明るみに出るかもしれないよね? ……琉夏くんは僕たちに何も話してくれないけど、君たちと何かあったのは分かってるんだよ? せっかく教師を騙したのに、今さら警察沙汰になったら困るもんね? ……経歴に傷が付いちゃう」

 

 クスリ。小さく笑い声がこぼれた。

 ルイに見下ろされる同級生たちは青い顔をしている。彼らがここに来たのは、ルイが脅迫めいた匂わせメッセージでも送ったからではないだろうか。

 彼らの顔つきは、最初から不安を抱えていた。

 

「コメントの情報開示を請求して、裁判を起こすこともできるね? ……でも、ハヤトくんを含め、みんな優しいから……君たちが反省するなら、僕も今回だけは目をつぶってあげようかと思うんだ」

 

 ドキドキと心配していた麦をよそに、話は穏便に片付こうとしている。

 ルイの言葉に、麦を含め全員が安堵の表情を見せた。

 だが、しかし。

 

「——代わりに、今から視聴するアカペラの感想を、SNSに投稿してもらうね? 自分が投稿した中傷コメントの百倍の数で(ゆる)してあげる。もちろん、心を込めて褒めてね?」


 天使のような清らかな顔を、悪魔のような笑顔にかたどった。

 

(ぇ……ルイくん、52件の中傷コメントがあったって……)

 

 青かった同級生たちの顔色は、蒼白になっている。

 どこまでが彼らの投稿か分からないが、途方もない数の好意的コメントを投稿する羽目になるような……

 ただ、同情はできない。自業自得とも思うので、麦はフォローすることなく黙っておいた。

 

「さっ、じゃあ、そろそろ時間だね。一緒に見よっか」

 

 明るく華麗に締めたルイが、麦を手招きする。

 

(——そうだ、こっちがメイン!)

 

 ディスプレイ正面の席に、麦はルイと並んで座った。

 ミュージック甲子園の番組は長丁場。生放送で2時間ほど。

 麦はアイスティーの入った水筒をふたつ取り出して、ルイに片方を手渡した。

 始まる番組に、並んだ各学校の高校生たちが映り込み、

 

「……ぁ」

 

 見つけるのは簡単だった。

 長身で虹色の髪をした琉夏が、とてつもなく目立つ。20組くらいが揃うなか、金髪のハヤトとピンクの竜星に挟まれたヒナの顔が……。

 

「……ね、麦くん。ヒナくん、とっても緊張してない?」

「うん……カチコチ……」

 

 ヒナは転入してきた初日を超える固まり具合で、今にも石像になりそう。本番が非常に不安。

 画面越しに、麦は精一杯の応援を送った。

 

(ヒナくん、がんばって!)

 

 

 

 

 

 

 

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