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おれたちはサクラ色の青春  作者: 藤香いつき
青春をうたおう
45/79

05_Track06

 アカペラの練習は、2B教室ですることになった。

 講座の一部をキャンセルした時間と、本来の学祭準備のための時間を活用し、それぞれが予定をすり合わせて練習が始まった。

 

「とりあえず、おれたちの動画が要る」

 

 応募要項を確認してみると、ショート動画の撮影が必要だと分かった。ショート動画の撮影が必要だと分かった。一次選考はすでに始まっていて、指定のSNSにアカペラのショート動画を投稿しなくてはいけない。動画の視聴数や投票を合わせたポイントを基に本戦へと上がれる。

 早く投稿すれば有利な気もするが、新着表示の仕組みもあって、必ずしも不利にはならない。時間帯によって視聴数に加算されるボーナスもあり、ポイントの動き方も予測できない。

 

 ——とはいえ、締切まで日もあまりないので、まずは歌ってみることに。生徒会から提供してもらえた楽譜の中から、歌えそうなものを。

 カラオケの歌声からパート分けし、譜面どおりに歌ってみたものの……

 

「ん〜?」

 

 竜星が難しい顔をした。

 琉夏も考える顔つきで首に手を当て、円になっていたクラスメイトを見回した。

 

「音程、合ってない。とくにヒナがズレてる」

「えっ、おれ?」

「壱正、いっかい弾いてやって」

 

 教室には上の部室から持ってきたキーボードがあった。琉夏の指示に、壱正がヒナのパートを弾いてみせる。

 

「……分かった?」

「全然違ったな……。楽譜だけじゃ、おれ、ちゃんと分かってないんだな……」

「まァ、そんなもんじゃね?」

「うわっ、いま気づいたけど、おれだけ音楽の経験が浅いのか?」

 

 円になるアカペラメンバーは、バンド歴のあるハヤト・琉夏・竜星に、ピアノが得意な壱正、昔から歌が上手い詩。

 練習しているギターが一向に上手くならないヒナにしてみれば、なんだか錚々(そうそう)たるメンツに思えてくる。

 

「リーダーのおれが、足を引っ張ることに……」

 

 悲愴感を浮かべたヒナに、琉夏が首を振る。

 

「いや、ハヤトもズレてる」

「え、俺もか?」

「……ってか、ハヤトは普通に低音歌えば? パーカスのパートは一旦ナシ。ハモりだけで。壱正、ベースのとこ弾いて」


 壱正の弾いた音を確かめたハヤトが、なぞるように繰り返した。

 

「それ。ベースの音に似せなくていいから、音程だけ注意して」

「おう」

「じゃァ、もう一回」

 

 指先で指揮した琉夏に、

 

(……琉夏、音楽の先生みたいだな……)

 

 ヒナとハヤトは同じことを思いながら頷いた。2Bは全員が選択科目で音楽を取っていて、サクラではなく音楽教員に教わっている。

 

 再び響いた歌声に、琉夏が首をひねった。

 

「……オレじゃなくて、詩をリードボーカルにしてみよ。一番安定してるから、詩の声を聴いて重ねてみて」

 

 琉夏の細かい指示と修正のもと、バラバラだった歌声が少しずつ和を成していく。

 一音一音が安定して重なると、まるで溶け合うように声が寄り添っているのが分かった。

 

 教室の端で試食会をしていた麦とルイも、思わず目を向けた。それほどに、6人の声ははっきりと成長の兆しを感じさせた。

 

「……今の、なんか気持ちよかった」

 

 歌い終えたヒナが、興奮を秘めた声で(ささや)く。

 横にいた壱正は頷いた。

 

「とてもバランスがよかったように思う」


 詩が小さく笑った。

 

「綺麗に重なりましたね」

 

 竜星が「うちら、優勝ガチいけそぉや」

 真面目な顔で調子に乗り、ハヤトが淡々と(いさ)める。「ばか」

 

 いつのまにか指導者と化していた琉夏が、鼻高々に「オレの教えが上手いからじゃん?」などと言ったが、誰も否定しなかった。否定されないことに——むしろ「そうだな」「たしかに」と肯定が返ってきたことに——琉夏は面()らっていた。

 

「今の、もう一回やろ!」

 

 ヒナの誘いに、新たな歌声が丸く響き合った。

 

「……ルイくん、みんなのハモリが綺麗だね?」

「そう? まだまだ練習が足りないと思うけどね」


 憎まれ口をこぼしながらも、大人しく耳を傾けるルイの横顔越しに、麦は笑って6人の輪を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

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