05_Track06
アカペラの練習は、2B教室ですることになった。
講座の一部をキャンセルした時間と、本来の学祭準備のための時間を活用し、それぞれが予定をすり合わせて練習が始まった。
「とりあえず、おれたちの動画が要る」
応募要項を確認してみると、ショート動画の撮影が必要だと分かった。ショート動画の撮影が必要だと分かった。一次選考はすでに始まっていて、指定のSNSにアカペラのショート動画を投稿しなくてはいけない。動画の視聴数や投票を合わせたポイントを基に本戦へと上がれる。
早く投稿すれば有利な気もするが、新着表示の仕組みもあって、必ずしも不利にはならない。時間帯によって視聴数に加算されるボーナスもあり、ポイントの動き方も予測できない。
——とはいえ、締切まで日もあまりないので、まずは歌ってみることに。生徒会から提供してもらえた楽譜の中から、歌えそうなものを。
カラオケの歌声からパート分けし、譜面どおりに歌ってみたものの……
「ん〜?」
竜星が難しい顔をした。
琉夏も考える顔つきで首に手を当て、円になっていたクラスメイトを見回した。
「音程、合ってない。とくにヒナがズレてる」
「えっ、おれ?」
「壱正、いっかい弾いてやって」
教室には上の部室から持ってきたキーボードがあった。琉夏の指示に、壱正がヒナのパートを弾いてみせる。
「……分かった?」
「全然違ったな……。楽譜だけじゃ、おれ、ちゃんと分かってないんだな……」
「まァ、そんなもんじゃね?」
「うわっ、いま気づいたけど、おれだけ音楽の経験が浅いのか?」
円になるアカペラメンバーは、バンド歴のあるハヤト・琉夏・竜星に、ピアノが得意な壱正、昔から歌が上手い詩。
練習しているギターが一向に上手くならないヒナにしてみれば、なんだか錚々たるメンツに思えてくる。
「リーダーのおれが、足を引っ張ることに……」
悲愴感を浮かべたヒナに、琉夏が首を振る。
「いや、ハヤトもズレてる」
「え、俺もか?」
「……ってか、ハヤトは普通に低音歌えば? パーカスのパートは一旦ナシ。ハモりだけで。壱正、ベースのとこ弾いて」
壱正の弾いた音を確かめたハヤトが、なぞるように繰り返した。
「それ。ベースの音に似せなくていいから、音程だけ注意して」
「おう」
「じゃァ、もう一回」
指先で指揮した琉夏に、
(……琉夏、音楽の先生みたいだな……)
ヒナとハヤトは同じことを思いながら頷いた。2Bは全員が選択科目で音楽を取っていて、サクラではなく音楽教員に教わっている。
再び響いた歌声に、琉夏が首をひねった。
「……オレじゃなくて、詩をリードボーカルにしてみよ。一番安定してるから、詩の声を聴いて重ねてみて」
琉夏の細かい指示と修正のもと、バラバラだった歌声が少しずつ和を成していく。
一音一音が安定して重なると、まるで溶け合うように声が寄り添っているのが分かった。
教室の端で試食会をしていた麦とルイも、思わず目を向けた。それほどに、6人の声ははっきりと成長の兆しを感じさせた。
「……今の、なんか気持ちよかった」
歌い終えたヒナが、興奮を秘めた声で囁く。
横にいた壱正は頷いた。
「とてもバランスがよかったように思う」
詩が小さく笑った。
「綺麗に重なりましたね」
竜星が「うちら、優勝ガチいけそぉや」
真面目な顔で調子に乗り、ハヤトが淡々と諫める。「ばか」
いつのまにか指導者と化していた琉夏が、鼻高々に「オレの教えが上手いからじゃん?」などと言ったが、誰も否定しなかった。否定されないことに——むしろ「そうだな」「たしかに」と肯定が返ってきたことに——琉夏は面喰らっていた。
「今の、もう一回やろ!」
ヒナの誘いに、新たな歌声が丸く響き合った。
「……ルイくん、みんなのハモリが綺麗だね?」
「そう? まだまだ練習が足りないと思うけどね」
憎まれ口をこぼしながらも、大人しく耳を傾けるルイの横顔越しに、麦は笑って6人の輪を眺めていた。




