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03_Track03

 賑わう人の声と、ゲーム筐体(きょうたい)の軽快な音楽が入り混じる。

 たとえ一人でも、孤独を忘れさせる不思議な空間。

 

 桜統学園から少し離れた街のゲームセンターで、琉夏はシューティングゲームに集中していた。

 迫り来るゾンビを次々と撃ち抜いて、ハイスコア。しかし、琉夏の表情は淡泊だった。つまらなさそうな顔で、空間を仕切った幕から出ようとして、

 

「おっ、いた!」

「うわっ」

 

 目前にいたヒナにびっくりし、琉夏は身を引いていた。

 シューティングゲームの中を覗こうとしていたヒナは、ちょうどよく出てきた琉夏に右手を上げた。

 

「こんなとこで会うなんて、偶然だな!」

「……いや、アンタいま『おっ、いた』って言ったよな?」

「あ、聞こえてた? だってほんとに授業サボって帰っちゃうんだもん、心配するだろ。あとさ、早退したら親御さんに連絡いくだろ? いいの? 怒られない?」

「……べつに。オレの親、オレのすることに何も言わねェし」

 

 ヒナをよけて、琉夏は足を進めた。後ろからヒナも追いかけてきて、ちょろちょろと琉夏にまとわりつく。

 

「なぁ、さっきの琉夏がやってたゲームって何?」

「銃を撃つやつ。シューティング」

「楽しい? クリアした?」

「ふつー。クリアした」

「おれ、ゲーセン初めてなんだよ。なんかやりたい。琉夏、一緒にしよう」

「……なんかって何?」

「安くて簡単なやつ。即死はイヤだ。お金払うんだから、最後まで遊ばせてくれるゲームがいい……あっ、あれ何?」


 ヒナが指さしたのは、ふたつの和太鼓。音楽に合わせて太鼓を(たた)くゲーム。

 琉夏の説明に、ヒナは目を輝かせた。

 

「したい! しよう! これ、いくら?」

「百円」

「高いな。でも、やる」

 

 ヒナは財布から硬貨を1枚取り出すと、ゲームへと入れた。

 

「……あれっ? 二人でやれない?」

「ツープレイなら、もう百円いるし」

「嘘だろっ? ぼったくりだな」

「ゲームってこんなもんじゃね?」

 

 琉夏は電子マネーで支払う。ついでに太鼓のバチを取ると、「これ」

 正面のディスプレイに集中しているヒナへと手渡した。

 

「これで叩くのか。譜面がドン、と……カッ? よし、覚えた」

「曲は?」

「どれも分かんないな……あっ、琉夏! お前の曲ある。見てみて! ルカルカ……フィーバー? よし、これやろうっ」

 

 琉夏の同意なく決定したヒナが、始まった音楽に合わせて太鼓を叩いた。流れる音楽に笑っている。

 

「ルカルカ言ってる。琉夏、呼ばれてるぞー」

「うるさい、邪魔」

「えっ、真剣……?」

 

 双方クリアして、スコアの画面。

 

「簡単だったな? おれでも余裕」

「アンタは『かんたん』選んだじゃん」

「琉夏の『ドン』と『カッ』、すごい数が流れてなかったか? なにあれ?」

「難易度『おに』」

「オニ?」

「おに」

「ふぅん……?」

 

 理解していない顔で首を傾けるヒナに、琉夏がニヤリとした。

 

「なァ、もっかい同じ曲やらねェ?」

「いいよ」

 

 ヒナが選曲する横から、琉夏がヒナの太鼓を勝手に叩いた。

 

「えっ? 琉夏、何してんだ?」

「裏譜面。特別なヤツ、出してあげようと思って」

「おぉ、ありがとう?」

「どーいたしまして」

 

 流れる譜面に、ヒナの絶叫が重なった。

 

「はあぁぁあ? なになに待ってまって……いや、無理! なんだこれっ? おい琉夏! 何したんだよっ!」


 琉夏は笑い声をあげた。楽しく笑っているが、ヒナと同じハードな譜面を器用にこなしている。

 当然のように、ヒナのスコアは散々だった。

 

「……なんなんだ、あの地獄の譜面は……」

「おにって言ったじゃん? かつ裏」

「おにって……鬼か。地獄の鬼……クリア失敗しちゃった……」

「クリアに関係なく3曲やれるから。あと1曲、好きなの選べば?」

「そうなのか! じゃあ……これ! 桜のやつ」

「おっけェ」

「あっ、やめろ! おれのは『おに』にするな」

「あはははっ」

「笑いごとじゃない!」

 

 今度は互いに適した難易度を設定し、無事にクリア。ヒナも満足げにバチを仕舞った。

 

「アヒルちゃん、次なにする〜?」

「アヒル言うな。周りのひとが変な目で見てる!」

「えェ〜? (かも)だし(ヒナ)だし、アヒル似合ってンじゃん?」

「いや似合ってないし。『ヒナ』って呼んでよ。おれの母さんが付けてくれた、大事な名前なんだから」

「……アンタ、母親と仲い〜んだ?」

 

 ゲームの間を縫って進み、自販機の並ぶエリアに出ると、琉夏はドリンクへと気持ちを移した。

 炭酸の効いたレモンジュース。ペットボトルを取り出す琉夏の横で、ヒナは応える。

 

「もう何年もずっと会ってない。おれ、施設育ちなんだ」


 キャップを開けて、口をつけようとしていた琉夏の動きが止まった。一瞬だけ。

 琉夏は何事もないように飲んでから、ヒナを横目に見下ろす。

 

「……なんで?」

「ん? 何が?」

「母親いるのに、なんで施設なわけ?」

「おぉ……()いちゃうか。普通はそこまで訊かないんだけどな?」

「……言いたくないならい〜けど」

「いや、ほんとは、おれもよく知らないんだ。でも……将来、一緒に暮らそうって約束してる。一緒に暮らすためにも、おれ、頑張ってエリート目指すんだ! 母さんを幸せにするんだっ」


 にかっと口を開けたヒナの笑顔に、琉夏が大きく息を吐いた。

 

「アンタは愛されてていいねェ〜? オレなんて母親から悪魔って言われて育ってきたンだけど? ……親が子供に言う言葉じゃねェよな?」

 

 ヒナが、大きく目を(みは)って絶句した。

 軽い調子で話す琉夏は、薄く笑う。


「オレの(うち)、別居状態。父親も母親も別だし、オレも桜統に入ってからマンションで独り暮らし。使用人がなんでもやってくれるから? べつに不都合はないけどさァ〜……」

「そうなのか……え、いま使用人って言った? さりげなくお坊ちゃん感を出したな?」

「金持ちの生まれじゃねェよ? オレが稼いだ分で、オレが雇ってンの」

「ん……? ごめん、理解を超えてて分かんない」

「つまり、オレが天才っていう話」

「お、おぅ……?」


 はてなマークいっぱいで考えているヒナの顔を、琉夏はけらけらと笑った。

 

「凡才から天才が生まれると、家庭崩壊するってワケ」


 乾いた音に、ヒナはそっと眉を寄せたが……ふと、思い直したように微笑んだ。

 

「……そっか。それだけ琉夏が天才で、お母さんの理解を超えてたってことか。親子だからって、必ずしも理解し合えるわけないし……愛し合えないことも、あるよな?」

「……子供を愛せない親なんて、この世にいる価値なくね?」

「贅沢を言うなって。こんな楽しい世界に産んでくれただけで、充分だろ?」

「どこが。毎日つまんねェじゃん」

「そこは楽しもう。自発的に楽しんでいこう!」

「………………」

「……琉夏、」

「あー?」

「みんな、お前のこと心配してたよ」

「………………」

「とくに竜星。ハヤトと壱正も。ルイたちは……どうかな? まぁ、心配してるんじゃないかな?」

「………………」

「琉夏の親御さんのことは、知らないけどさ。お前って、クラスメイトには、けっこう愛されちゃってるじゃん?」

 

 琉夏の口調をまねて、ヒナは軽やかに唱えた。

 

「球技大会、出ようよ。ほんとは琉夏もやりたいんだろ?」

「……べつに」

「さっき、バスケのフリースローゲームみたいなやつ、見てたよな? おれに『次なにする?』って訊いたとき、ちらっと見てたよな?」

「…………見てない」

「ふ〜ん?」

 

 ニヤニヤ笑うヒナ。琉夏はジロリと(にら)んだが、効果なし。

 ヒナは、ニヤニヤした意地悪な笑みを少しだけ抑えた。

 

「今度は独りじゃない。みんないるし……おれもいるよ?」

 

 ヒナの声が、薄暗いゲームセンターの喧騒に溶けていく。

 ほんの一瞬、琉夏の瞳が揺れた気がした。

 ヒナはその瞳をまっすぐに見つめたまま、

 

「何があっても……いや、どんなボールからも、おれが護ってやる! 安心してついてこいっ」

 

 勢いよく、琉夏の背中を叩いた。

 力が強すぎたのか、琉夏の手にしたペットボトルからジュースが跳ねて——びしゃっ。

 

「あっ……」

 

 ヒナが声をあげたときには、琉夏の制服は()れていた。

 

「……なァ、ちょっと」

「……ごめん。わざとじゃないんだ……」

「冷てェんだけど」

「うん……使用人のひとに洗ってもらって?」

「クリーニング出すし」

「おぉ、さすがお坊ちゃんキャラ……」

「バカにしてねェ? クリーニング代、請求しよっかなァ〜?」

「……心から謝罪を申し上げます。どうぞお(ゆる)しください」


 ヒナが神妙な顔つきで頭を下げる。

 ゲームセンターの騒音に負けないほど、琉夏の笑い声が明るく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

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