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最初から担任には期待していない。
教師なんて最低限まともに授業してくれればいい。まさか櫻屋敷 弓弦が教師をしていて、学級担任になるとは思っていなかったが……エリートを見据えた将来の展望に影響はない。
日常に大事なのは、教師より友達だ。
(待ってて、おれのクラスメイト!)
わくわくとして踏み入った教室。
一歩先を行っていたサクラの背中から、座席に着くクラスメイトの面々へと目線を——
(……はい?)
自分の目を疑った。
座席が……いち、に、さん……いや、数えるまでもない。8席しかない。
教壇に立つサクラがヒナの紹介をする。その横で、ヒナはクラスメイトの少なさに困惑していた。
座席は8席だが、ひとつは空いている。これはヒナの座席だと思われる。
つまり、クラスメイトは7人しかいない。座席がないのだから、奇跡的に大量欠席している可能性はない。
このクラスは2年10組。通称Bクラスと呼ばれ、1組から9組までのAクラスと区別されている。このクラスが特別なのは知っているが、少人数クラスとは聞いていない。
しかも、気になるのが……
(座席の並び、おかしくない?)
教壇から見渡せる配置は偏っている。アメリカンスタイルとかではなく、本当に偏っている。斬新なカタチ。
左手前に、ひとつ。短髪の姿勢のよい男子生徒が座っている。
彼以外は、教室の後部で左右に島を作っていた。
右手に3席、左手に3席。どちらも1席が前、2席がひとつ後ろで横並び。パッと見る感じ、右手の島が荒れている。右手3人、全員の頭髪が人工カラー。
桜統学園の風紀は緩いと聞くが……それでも、彼らの髪色は派手すぎる。金髪、ピンクヘア、おまけにカラフルレインボー。
街中で出くわしたら、なるべく関わりたくない集団。
眺めていて、奥の金髪と目が合った。
細い目つきに、気づいてはいけない事実を察した。
「……鴨居 ヒナです。どうぞ、よろしく」
返答は誰からもない。拍手なんかもない。
無。完全な無音。
教室で、こんな静寂が生み出せるものだろうかと衝撃を受けるほど、たいへん静か。
「鴨居さんの席は、そこだね。空いている席に着いてくれ」
サクラの指示に従って、ヒナは教壇を降り、着席する。
左右の島に属さない、前後左右から見て中央の、ぽつんとした机。イスを引く音だけが異様に響いた。
「………………」
背後から視線を感じる。
ピシピシと、突き刺さるような視線。
(おれ、歓迎されてないっぽい?)
察した事実に、笑顔を浮かべた頬が引きつってきた。
楽しみにしていた学園生活は始まったばかりだというのに、すでに不穏なようす。
(せめて優等生を演じよう……)
視界の右端でピシリと伸びるクラスメイトの背筋をまねて、教壇のサクラに目を合わせる。
新学年らしき自己紹介や、係決めをする学活などもなく。いきなり始まった授業に面喰らいつつも、まじめな生徒として順応するしかないヒナだった。