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02_Track05

 その日、ひとつの動画が投稿された。

 中・高生のあいだで人気のSNS。多くの生徒たちがスマホにインストールしているアプリ。エリート校の桜統生といえども、例外ではない。

 『桜統学園』とタグ付けされた動画は、推奨のフィルターによって(すく)い上げられ、生徒たちの目のもとへ。

 

——これ見た?

——見た! かっこいい!

 

 バンドメンバーの顔は、照明が暗いせいで、はっきりと見えない。流行(はや)りの曲にアレンジを加えている。

 ボーカル兼ギターは高身長でスタイルがいい。ベースの生徒は小柄で明るい髪色。

 それから、ドラムの演奏が異常に上手い。クローズアップされるスティック(さば)きは華麗で、一瞬の(すき)にクルクルっと指先で素早く回して見せた。激しい曲でもリズムを乱すことがなかった。

 動画につけられたセンテンスは、

 

『桜統学園 軽音部 入部者募集(中等部西棟3階)』


——軽音部あったんだ?

——探したら去年の演奏もあったよ。見てー。

——えっ、生徒会長?

 

 関連動画の用意も万全。再生ボタンを押せば、そこには学園紹介ムービーの中でベースを弾く生徒会長の姿が映る。

 学園一の生徒組織、生徒会執行部。そのトップが入っていた部活というブランディング。

 

 

「——やった! 入部希望者10人達成!」

 

 中等部の別棟、隔離校舎の3階。軽音部の仮部室で、ヒナが叫んだ。

 次々と来る1年生の見学者たちに、タイミングを見て入部申請を勧め、現部長のハヤトのアカウントから承認。その場で加入させていく。(今年度の顧問は空席だったので、サクラに頼んで表向きだけ名前を貰った。こちらはオート承認)

 キャッチセールスみたいなことをしている。しかし、入部にクーリングオフ制度はない。入部してしまったなら、辞める際には『退部』の記録が残る。

 退部のイメージは、あまりよろしくない。()()()()()()()()()。ハヤトを知らずに入部したのだから、そう簡単には抜けないだろう。

 

 即日での目標達成を喜ぶヒナに、竜星が右手を上げた。

 

「いぇ~い!」

「いぇーい!」

 

 ハイタッチ。並んだ二人は、ほぼ同じ背丈。

 見学者も帰り、開けた室内の真ん中で、ヒナと竜星は(そろ)って歓喜した。

 ギターを片付けた琉夏も加わる。

 

「アヒルちゃん、やるじゃん。詐欺師に向いてンなァ~」

「さんきゅー!」

「……ヒナ、それ褒められてないやろ?」

 

 突っこむ竜星は、琉夏を軽く小突いた。

 

「こら、もっと感謝しとき。ヒナが作戦を練ってくれたんやよ」

「ハイハイ、ど~も」

「あかん、もっと心こめて」

「……ありがとー」

 

 そっぽを向いた琉夏の感謝に、ヒナは笑った。からかうことなく、

 

「軽音を仲間外れにする学園のやり方、おれも納得いかなかったから、感謝なんていいよ。おれたち、2Bの仲間だし……同じ軽音部員だもんなっ」

 

 ヒナは背伸びして、ポンっと琉夏の肩をたたいた。ついでに、ドラムセットのところにいたハヤトへと向かっていく。

 ドラムにカバーを掛けていたハヤトが、ヒナに目を投げ、

 

「……ありがとな。お前のおかげだ」

「いや、おれもこんなに上手くいくと思わなかった。超絶技巧なドラマーのおかげだ。かっけぇハヤトくんに女子の視線が集中してた」

「心にもねぇ褒め言葉だな……」

 

 ヒナの称賛に、細い目を送るハヤト。

 疑いの目を向けられて、ヒナが弾けるように笑った。

 

「ほんとだって。おれもハヤトに()れた! ドラム、最高にかっこよかった!」


 窓の外から()す西日の赤が、ハヤトの顔を染める。

 言葉なく停止するハヤトの顔を、近寄ってきた竜星が(のぞ)きこんだ。


「……ハヤトぉ? どぉした~?」

「いやっ……なんでも」

「大丈夫か? ……すこし顔が赤いわ。熱やろか? 保健室、行くかぁ?」

「平気だ。この部屋があちぃ」

「今日は涼しいやろ……?」


 話すハヤトと竜星の横、ヒナが琉夏の使っていたギターケースを眺めていた。


「——ところでさ、ギターって、どれくらい練習したらライブ出れる?」

 

 呟きに、ハヤトが片眉を上げて反応した。

 

「ん? お前、昔は毎日ギターに触れてたんだろ? 感覚が戻ればすぐにでもやれるんじゃねぇの?」

「えっ? おれ、ギターなんて中学の音楽で一瞬やったくらいだけど?」

「は……? けど、(げん)に触ってたって……あぁ、ベースか?」

 

 首をかしげるハヤトに、竜星が「うちと被る……」

 肩を落としたが、ヒナは首を振って否定した。


「違う違う。おれが言ってたのは、バイオリンの弦。ボランティアのひとに教えてもらったときにハマってさー! 毎日欠かさず15分やってた!」

「………………」


 ヒナ以外の3人が、静かになった。

 彼らはヒナが経験者だと勘違いしていて、自分たちのバンドメンバーに加わってくれるものだと思っていた。

 

「えっ、なに? どうした?」

 

 ヒナの疑問に、竜星が、控えめに、

 

「まったくの初心者やったら……数ヶ月。うちらが演奏する曲をやろうとしたら……半年以上は……」

「え! そんな時間かかるのかっ? 同じ弦楽器なんだから、似たようなもんだろ?」


 驚くヒナの意見には、琉夏が答える。

 

「それとこれは、別じゃね?」

「嘘だろ? おれにモテる青春が来るのは、半年後っ?」

 

 無言で話を聞いていたハヤトが、吐息する。

 

「そんなもん、お前には一生こねぇよ」

 

 (あき)れたような呟きが、ぼそりと。

 (あかね)色の部室に(こぼ)れていた。

 

 

 

 

 

 

 

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