表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おれたちはサクラ色の青春  作者: 藤香いつき
ハロー・マイ・クラスメイツ
20/79

01_Track19

 サクラの話は、1限の授業を丸々つぶした。

 

「説教、くそ(なげ)ェじゃん……」

 

 うなだれた頬を机にくっつけて、琉夏(るか)が文句を吐き出す。教室のあちこちからも、安堵と疲労が入り混じったため息が漏れていた。

 

「うちらが嘘ついたの、バレてるんやろか?」

 

 ピンクヘアは両手で頬杖をつきながら首をかしげた。

 

「いやー? おれはバレてないと信じたいなぁ……」

 

 ヒナは、窓に寄り掛かりながら肩をすくめる。窓の外では、桜の花びらが風に舞っていた。昼休み前の空気は、まだ肌寒い。

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 沈黙。治安の悪い島で、真っ先に反応したのは琉夏だった。

 

「はっ? てめェなんで当然のように加わってンだよ!」

 

 口火を切るその声音に、教室の数人がそっと様子をうかがう。

 

「え?」

 

 座っているカミヤハヤトの横で、ヒナは外の桜を見ようと窓を開けた。

 そよいだ風が教室に流れ込むなか、ガタッと派手にイスを鳴らして立ち上がった琉夏。ヒナは背の高い琉夏を見上げて、白々と首をかしげる。

 

「なんでって……おれ、お前らの新しいボスだし?」

「何言ってンの? アンタ弱かったじゃん」

「あれ? 琉夏くん、ひょっとしてルール忘れちゃった?」

「は?」

「降参したほうが負け——って決めたよな?」

「ハヤトも降参してねェんだから、決着してねェよな?」

「いやいや、カミヤハヤトは降参したよ?」

「……は?」

 

 言葉の応酬。周囲は口を挟まず、耳だけ傾けている。

 ヒナは内心ふふんと鼻を鳴らし、座っていたカミヤハヤトの肩に腕を回した。普段の琉夏のマネをして、ニヤニヤと笑う。

 

「今朝、カミヤハヤトが()び入れに来たんだもん。参りました、ごめんなさいって。なー?」

 

 鬱陶しげに肩の手を払ったが、カミヤハヤトも否定せず。

 唖然(あぜん)とする琉夏の半開きの口を見て、ヒナはちょっとスッキリした。

 

「え……コイツが言ってンの、嘘だよな? ハヤト?」

「………………」

 

 琉夏が足を折ってカミヤハヤトの机に(すが)る。悪役みたいに高笑いしてやりたいところを抑えて、ふふふくらいの笑いでヒナは自席に戻っていく。

 と、その前に。ピンクヘアから制服の裾を掴まれた。

 

「ねえ、新ボスさん」

「ん? なに?」

「せっかくやで、自己紹介しよか。うち、羽尾(はお) 竜星(りゅうせい)。よろしくぅ」

「登録名、『竜星』だよな? 竜星って呼んでいい?」

「どぉぞ。うちは、ボスって呼んだらいいんか?」

「いや、絶対やめて。恥ずかしくて即死」

「そんならぁ……ヒナで、いい?」

「うん、ヒナで。よろしく、竜星」


 互いに、ニコッ。ピンクヘアな竜星との間に遺恨はない。

 自席に戻ろうとしたが、振り向いていた壱正が目に入った。

 

「あっ、壱正きいて! 琉夏たちとのトラブル、片付いたんだ!」

「………………」

「あ、れ? どうした? なんか、怒ってる?」


 満面の笑みで駆け寄ったヒナ。

 しかし、壱正の眉はギュッとして険しい。理由を考えて……思いついた。

 

「無関係の説教に巻き込んでごめんな……?」

「そんなことは、どうでもいい。無駄な時間ではなかった。勉強になる点もあった」

「お、おぅ。そっか? 真面目だな?」

「——それよりも、ヒナも喧嘩をしたということだろうか?」

「えっ……いや、そっ……そうじゃなくて、おれは巻き込まれただけだから……?」

 

 背後から、「先に転入生がハヤトをぶっ飛ばすって言いましたァ~」琉夏の密告が。

 

「ばか琉夏! おれの言うこと聞くって約束だろ!」

「内緒にしとけなんて言われてねェし」

「そういうの揚げ足取りって言うんだ!」


 やいやい言い争っていると、壱正が「何も片付いていないように思う……」低く呟いた。加えて、

 

「ヒナのほうが暴力で解決しようとしたのだろうか……?」

「えっ、ちがうよ壱正! おれそんな野蛮(やばん)な感じじゃない。おれが望んだのは紳士なやつ。手袋投げつける感じの——あれだ、決闘! カミヤハヤトはガチ腕折りに来たけど、おれは全然そんなことする気なかったし!」

 

 懸命に弁明していると、今度はカミヤハヤトの声で「いや、お前は(しょ)(ぱな)から股間蹴りに来ただろ」

 

 おれの背には、ボスを裏切るやつしかいないのか。

 

「………………」

「………………」

 

 唇を山なりに引き結んで、壱正と見つめ合う。

 お前なら分かってくれるよな? の気持ちを、瞳に込める。

 

「……私は、暴力で解決しようとする者と、交流したくない」

「そんなっ!」

 

  ぷいっと顔を背ける壱正に縋りつく。壱正はわざわざ耳栓をつけ、ヒナの言い訳を遮断した。

 

「きゃはははは!」

「笑うな、琉夏!」

 

 むかつく笑い声に命令するが、琉夏は聞きやしない。

 仕方なく別のやつを繰り出すことにする。

 

「いけ、カミヤハヤト! 琉夏を黙らせるんだ!」

「うるせぇよ」

「お前くらいはおれの言うこと聞くべきだろっ?」

「……つぅか、いちいちフルネームで呼ぶな」

「いけ、ハヤト! 琉夏を黙らせろ!」

「………………」

「あっ、無視すんな!」

 

 騒がしい群れを横目に。ミルクティーブラウンの長髪が、さらりと揺れる。

 騒音を聞き流していたルイは、吐息をこぼしつつ麦たちと話していた。

 

「ヒナくんは、あっちのボスになったの? ご愁傷(しゅうしょう)さまだね?」

「……ボスというより、猛獣(もうじゅう)使いみたいだね……」

「言い得て妙ですね」


 感想を語り合う3人の声は、教室に満ちた(にぎ)わいに重なる。

 2限の授業のために戻ってきたサクラが、騒々しい教室のようすに、

 

「これほど反省が見えないとは、予想だにしなかったね。私から全員に課題を出そうか?」

 

 ひどく綺麗な微笑を見せ、その場にいた全員が反射的に黙り込んだ。

 

(2Bのボスは、サクラ先生だな……)

 

 クラスメイトの心が一致した、初めての瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ