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爆食を諦めて部屋に帰った。
《——おかえり、ヒナ》
カミヤハヤトは危ないやつ。琉夏への文句とセットで、新情報をチェリーに吹き込んでいた。数学の予習をしながら。桜統に宿題というものはない。
「カミヤハヤトの話って、校内で喧嘩があったってことだよな? 警察は?」
《暴力があったことを証明しようにも、証拠がなかったんだろうね。保護者が望まなかったなら、診断書も被害届も出されていない。警察は知るよしもない》
「それでもさ……教師は? 何人も被害者がいて、『殴られてない』なんて普通は信じないだろ。面倒を避けたとしか思えない。……桜統の信用、急激になくなってきたんだけど」
《ヒナは、どこまで信じているのかな?》
「……え?」
《ヒナにカミヤハヤトのことを話した先輩は、その場に居合わせたわけじゃない。伝聞だと思われるその情報の信憑性は?》
「…………嘘じゃないと思うけど」
《2Bは、問題が多い?》
「……それは、サクラ先生も言ってたし」
《担任の先生は、本当にそう言った?》
「言ったよ。最初の相談のとき、」
——困ったことに、現2Bは問題が多いと言われていてね。
「……いや、ちょっと違うかも。周りから言われてる、って言い方だった……かも」
《ヒナから見て、2Bのクラスメイトは問題ばかりかな?》
「………………」
《距離を置くべき?》
「……いや、そんなことない。琉夏……くんは、うざったいし、カミヤハヤトも知らないけど。少なくとも壱正は間違いなくいいやつだし、麦くんも大人しいだけで問題なんてない。ルイくんも。……あとの二人は……まだ分かんない」
小柄なピンクヘアの子と、ルイに付き従っているみたいなひとつ結びの子は交流がない。どちらも距離を置くほど問題があるかは判断できない。
《——真実というものは、自分自身の目で見なければ分からないものだね?》
今日のチェリーは、人間みがある。
優しく紡がれる言葉は、ヒナの心に沁みた。
「チェリー、おれ……」
《——ヒナ、洗濯の時間だよ》
「っああ、だからそれだって! そういうとこがダメなんだよ! ちゃんとフィードバックして。気持ち冷める!」
《ヒナが設定したアラームが優先されるよ?》
「そこをうまいことするのが人間だろっ?」
《ボクはAIだよ》
「諦めるな! AIだって人間目指してんだろっ?」
チェリーと話しながらも、洗面所のタオルを取って洗濯カゴに入れ、他に洗濯物がないか確認する。
部屋を出てから、このままカフェテリアへ行こうと決めた。空腹も限界を迎えている。
寝落ちの失態から学び、早めに洗濯をしてしまおうというアイディア。空き状況の確認を怠ったが、洗濯機は空いていた。
(それも、そうか。このフロア、おれとカミヤハヤトしかいないんだから……)
——2階は2Bの二人しかいないし。
新情報に含まれる事実に、洗濯機へタオルを放り込む手が止まった。
(おれと、カミヤハヤトしかいない?)
ランドリールームは、各階にある。洗濯機はフロアで共有。自分の階が混雑していたとして、たまに他の階のを使うにしても、
——行っちゃだめだからな? 現2Bは元から問題が多いから、距離を置いたほうがいいよ。
おそらく、他の生徒がこのフロアに来ることはない。
しかし、それならば——走り書きの『ありがとう』をくれた子は、誰だ?
(……そんなの、ひとりしか……)
くすんだ金髪が思い浮かぶ。
顔の印象はあまりない。がっしりした肩と、目つきが悪いことくらいしか。声も記憶にない。
——去年クラスメイトを何人も殴って殺しかけたヤツ。
重なるのは、名も知らない先輩の声と、
——真実というものは、自分自身の目で見なければ分からないものだね?
ぐるぐると、頭が混乱の渦に巻き込まれていく。
カフェテリアで美味しいものを食べても、部屋でベッドに転がっても、どれだけ考えても答えは見つけられなかった。




