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※アルファポリスにて完結済
一部修正の再投稿になります。
校舎裏を駆け抜ける風が、髪を煽った。
おれの髪じゃなく、対峙するクラスメイトのくすんだ金髪を——ざわりと。
風を受けたせいか、それとも苛立ちからか、あいつの眼光は鋭い。
「逃げるなら今だぞ」
低く吐き出されたセリフに、改めて敵を見る。
身長も筋力値も、おれより遥かに高い。ブレザーを脱いだシャツ越しの体が……高校生のくせにアスリートみたいな筋肉しやがって。
全力で体当たりしても、きっと反動で吹っ飛ぶのはおれのほうだ。
向かうおれは、高2男子の平均を下回る身長と体重。
どう見ても負けそう。何しても負けそう。
「……そっちこそ、降参するなら今だっ」
(おれの声、震えてない? 動揺、出てない?)
せめて表情管理だけは完璧に。口の端を持ち上げて不敵に笑ってみせると、敵は鬱陶しげに吐息した。
横にいる観客は二人。カラフルな髪をした長身と、ピンクヘアの小柄なクラスメイト。ヤツらは敵の配下。
長身のほうが、賑やかしの声を投げつけてくる。
「ハヤト、その生意気なチビ、ぶっ飛ばして」
おれが負けるなんて微塵も思ってない。ニヤついた顔が視界の端に見える。
ピンクヘアから野次はない。呆れたように「程々にしとき」、ゆるい声で呟くのが聞こえた。
踏みしめた足の下で、砂がじりっと擦れる。
緊張する頭を目一杯駆使して、敵を倒すすべを考える。
勝てる気はしない。
——しかし、負けられない。
おれは、この学園で青春する。そう決めた。
邪魔するやつは、
「……ぜったいに、倒す!」
桜の花びらを乗せた春風が、決闘の始まりを告げる。
(おれ、喧嘩するの初めてだ!)
不安と高揚感を胸に、強く、一歩を踏み出した。