9.夕立の教室でふたたび
「春のチャレンジ2025」のテーマは「学校」の
参加作品です。第9話です。再会はどうなるのか?
ルルーが現れなくなってから随分経つ。
はるみはもう、放課後無理やりな理由を探して居残る必要も感じなくなっていた。
それでも何となく、誰もいなくなるまで教室を出ないクセがついたままだ。
今日も教室を出るのは最後になってしまった。そんな自分をはるみは笑う。
「さて、帰るかな。」
そう言って、教室を出ようとした瞬間。
目が眩むようなまばゆい閃光が走り、ほぼ同時に凄まじい音が空気を切り裂いた。
「ひゃっ!え、雷!?怖ぁ。う~ん。これは、雷止むまで帰れないな。」
そう独り言を呟いた途端、今度は激しい雨が降り出した。
「マジか。ますます帰れないじゃん。」
窓に寄って空を仰ぎ見ると、真っ黒で分厚い雲が空を覆っている。
「うわぁ…。これはまずいね…。」
げんなりするはるみをあざ笑うかのように打ち付ける雨の音が硬質なものに変わった。
「え~~。今度は雹が降ってきたよ。呪われてるわ、私。」
呪われているのを肯定するかのように、また空に稲光が走る。
光のあまりの激しさに恐怖を感じて、はるみは窓から顔を背けながら
シャーっと勢いよくカーテンを引いた。
だが稲光を多少遮ったとて、音は止めようがなかった。光と音の間隔が短い。
近くにいくつも落ちているのか雷鳴の度、かすかに地面も揺れていた。
雷の音に雹が打ちつけている音。その圧倒的な音の間を縫ってかすかに別の音がした気がした。
か細い音は、はるみの名を呼んでいるように思えた。
「まさかね。気のせいだよね。」
そう独り言ちながら、はるみは確認せずにはいられず、吸い寄せられるように窓に近付いた。
稲妻が怖くて閉めたカーテンを恐る恐る開いた。はるみの全身に衝撃が走った。
繰り返し走る閃光を背に、窓に浮かび上がったのはルルーの影だった。
「ル、ルルー!心配してたんだよ。突然来なくなったから。
私の方からは連絡取れないし。」
思わず大声が出てしまう。
「ごめん。ちょっとこっち立て込んでて。忙しかったんだ。」
そう言いながら、ルルーが視線を外したように見えた。
「ルルー?大丈夫?ちょっと…やつれた?」
よほど忙しかったのか、記憶の中のルルーより顔色が悪い。
好奇心でいっぱいだった瞳は伏せられ、雰囲気も変わった気がする。
忙しかっただけでなく、やはり病気もしていたのではと心配が募る。
「やっぱりまだ体調が悪いんじゃな…。」
「ねぇ、はるみ。私と直接会いたい?」
ルルーは自分を気遣うはるみの言葉を遮って問いかけた。
「え、だって、時間の膜で覆われてるから、別の世界に行くのは難しいんじゃ…?
そんなようなこと言ってなかったっけ?」
「簡単じゃない。けど、不可能じゃない。」
その言葉ははるみにとって嬉しい言葉の筈だった。
けれど、ルルーの様子に何か違和感を感じる。
訳もなく、体中が総毛立った。