5.そちらはホグワーツか何かですか!?
「春のチャレンジ2025」のテーマは「学校」の
参加作品です。第5話です。秘密の友だちはどんな子?
家に帰ってからも、考えるのはルルーのことばかりだった。
研究内容は良く理解できないにしても、はるみが学校にいるのと同じような時間に
研究をしているのだとしたら、ルルーがいる場所も学校なのではないかと思う。
それも、勉強でなく研究であるのだとすれば、こちらの世界で言う大学みたいな。
人目もはばからず、堂々とはるみとコンタクトを取れるのは
恐らく、ルルーの研究が特に注目を引くような特異なことでないほどに
同レベルの難解な研究がいくつもされているからではないか。
「大学かぁ。ルルーって優秀なんだろうな。私と同じかそれより幼く見えるのに。
飛び級ってやつかな。今度会えたら訊いてみよう。
いや、その前に!放課後の教室に入り浸る理由を何か考えないと!
何の用事もないのに教室をうろうろしてたら怪しまれて追い出されるわ。
そうなったら今でさえ話せる時間が短いのに、挨拶ぐらいしか出来なくなっちゃう。」
散々考えたが、率先して雑務を請け負うくらいしか思い浮かばず
はるみは自分の想像力のなさにがっかりしたのだった。
「は?何か手伝えることはないか?なんで?どう言う風の吹き回しだ?」
不信を隠しもせずに原がはるみを覗き込んだ。
「ちょ~っとだけでも化学の成績に手心加わらないかな~とか言う純粋な気持ちです。」
「加わるかぁ、そんなもん。それにそれのどこが純粋なんだ?アホか。」
テヘヘと笑ってみせる。冗談っぽく装ったけれど、引くわけにはいかない。
「まぁいいや。何かあったら頼むことにするよ。」
「お。ありがとうございます。」
深々と頭を下げたはるみを原は微笑ましく見た。
(誰か好きなヤツでも出来たかな。野球部?サッカー部?陸上部?
教室の窓から見つめていたいってか?青春だな。)
何となく誤解されたような気配を感じたはるみだったが
敢えて訂正はせず、その誤解を利用させて貰うことに決めた。
「今日はぼんくらはいないのか?」
「コラコラ。ルルーったら失礼だってば。否定はしないけどさ。」
窓を挟んでクスクス笑い合う。
「ねぇ、ルルー。ルルーが今いるところって学校なの?
こっちで言う大学みたいなところかな?それとも、研究所?」
「そうだな。講義を受けることもあるし、大学に近いかもしれない。
学ぶ分野の適性もここで見極める。研究によっては他者の見解を求めたり
意見を交わすこともあるかな。ときにはヒートアッ…」
言いかけたルルーの言葉を遮るようにはるみの携帯の着信音が鳴った。
「あ、ごめん、ママだ。出るね。
もしもし、ママ?どうしたの?え?熱出ちゃったの?
うん、うん、分かった。買い物して帰るよ。」
はるみはそれだけ言ってプツッと電話を切った。
「ごめん、ルルー。急用できちゃ… んあ?」
窓に向き直るとルルーが目を丸くしている。
「はるみ、それは?」
「え?これ?スマホだよ。スマートフォン。まさか、そっちにはないの?
すんごい難しい研究とかしてる世界なのに、遠くの人と話をする道具ない?」
「杖…みたいなものなのかな。でも、離れた場所の人との会話には
杖は使わない。直接イメージなり言葉なりを相手の頭の中に送るから。
もっとも、思うように送れるようになるには経験を重ねないとだけど。
それはどう言う魔力で動いている?」
杖?直接頭の中に送る?魔力? はるみの頭の中はカオス状態に陥った。
「精神感応… テレパシー?」
ポツリとはるみの口からこぼれた。
「あぁ、そっちではそういう言い方なのか。それは置いておいて。
スマホについてだ。」
ルルーの目が好奇心でキラキラしている。
「ねぇ、ルルー。もしかして、ルルーの世界では魔法を使うのが日常なの?」
もしそうだとしたら、近くに存在しているという異世界だが
あらゆるものの法則が全く違っている可能性が高くなる。
「魔法?」
そう言いながら、こめかみに指を当てるとルルーは小首をかしげた。
そのまま暫く黙ってから
「そちらでは、そう表現をするみたいだね。」
と何でもないことのように言い放ったのだった。