4.窓の向こうとこっち側
「春のチャレンジ2025」のテーマは「学校」の
参加作品です。第4話です。怖いもの見たさに人は勝てないようで…。
パチ。放課後の教室、暗くなりはじめの時間に明かりを点ける。
「来たね。」
わずかに笑いを含んだような声がする。振り返らずとも分かる。
窓にはルルーがいるはずだ。
「だ、だって。気になるじゃないですか。まだ話の途中みたいな切り上げ方だったし。」
クルリと窓に向き直ると、果たして窓にはルルーが映っていた。
「なるほど。はるみとコンタクトが取れたのは偶然じゃないかもしれない。
知らないことを恐れながらも、知りたい好奇心が勝ってしまう気質が私と似てるのかも。
だから、繋がることが出来たのかもしれない。資料に書き加えなくちゃ。」
ルルーがうんうんと一人肯く。
「で、あの。ルルーさんの研究?の話が聞きたいです。」
「あのさ、そんなに堅苦しく喋んないで。かえって分かりづらくて。
ざっくばらんにさくっと喋ってくれない?」
「さくっとって…」
はるみが唖然とする。
「え、何?効率重視。接近の時間は長くないから。」
きゅるるんのような擬音が似合いそうなルルーのあまりにテキパキした物言いに
はるみは吹き出した。
「ん?」
「や、見た目とのギャップが激しくて。分かった。ため口で話すね。
で、研究って?どんなの?」
「いいね!話が俄然スピーディーになる。」
ルルーは上機嫌になった。
「『時間経過速度を共有する平行世界 その存在証明と接触について』と言う研究だな。」
ルルーは言い慣れた様子でさらりと答えた。
一方、はるみは小難しそうな言葉をたたみかけられ、全く理解が出来ず目が泳いでしまう。
「昨日言ったとおり、各世界は時間という膜に覆われていて
時間の流れによって存在する方向が決まっている。
似たような時間の流れ方をする世界がより近くに存在しているが
完全に同じ過ぎ方というわけでもない。時間の緩急によって空間のあり方にムラができる。
はるみの住む世界と私の世界は時間の流れ方が近い。
私の方にも朝があって昼があって夜がある。
故に、明るい時間と暗い時間の間があって
どうやら、その夜でも昼でもない時間に空間が近付くと考えられる。
ん?あれ?」
途方に暮れたようなはるみに気付いたルルーが話を止めた。
「どうした?」
「いや…、何か難しすぎて、全然理解が追いつかない。」
「え!?この段階で!?」
「うん、恥ずかしながら。」
今度はルルーが困ったように首をかしげた。
「まぁ…いっか。その辺のこと分からなくても、データは集められるし。」
うんうんと一人納得するルルーを見てはるみが微笑む。
(こぉんな難しそうな研究してるのに、見た目は可愛い小動物なんだよな。
言ったら気を悪くしそうだけど。)
「こんな時間まで何をしている。」
「あ、福本先生。すみません、忘れ物を取りに来たんですが見つからなくて。
やっぱり家にあるのかもしれないです。」
先生にとがめられることも想定していたはるみはすらすらと噓をついた。
「ビックリした~。良かったわ、言い訳考えておいて。
でも、あの言い訳だともう帰らないと。」
「はるみ、今の御仁は?」
「福本先生。この学校の先生で、生徒指導の先生なの。」
「先生、か。窓の私に気が付かなかった。ぼんくらだな。」
ズバリと辛辣な言葉を吐くルルーに賛成する気持ちもあるが
気が付かれてしまったら、大騒ぎになるのは目に見えているので
気付かれなかったことにホッともしているはるみだった。