3.Hello Hello
「春のチャレンジ2025」のテーマは「学校」の
参加作品です。第3話です。手紙の主の登場。
窓に映った人影はすぅっと右手を上げた。
「Wes Hal! ん~、コンニチハ?」
気安い挨拶をされてもまだはるみの震えは止まらない。
人影は困ったように身体を揺らした。
「怖がらないで。幽霊じゃないよ。」
そう言うと、ローブのフードを脱いで見せた。
肩につくかつかないくらいのふわふわの髪に大きな瞳と通った鼻筋。
フードをはねのけたときにチラリと見えた華奢な手首。
人形みたいに可愛らしいけど、何しろ”出る学校”。
とても安心して喋る気にはなれない。
カラカラになった喉からようやく声を絞り出す。
「誰?」
「ルルー。さっき教えたよね?
名前交換し合ったから、姿も見えるし、話も出来るんだけど。
はぁ~。文字もいいんだけど、まどろっこしくてさぁ。音はいいね、早い。」
呑気なルルーの様子に引っ張られてはるみも少し落ち着いてきた。
「そうじゃなくて。何者? で、ですか?」
まだ、声は震える。
「あ~~。え~~~と。」
人差し指をこめかみに当ててしばし間を開けてから
「お隣の国、いや違うか。お隣の世界の人?」
ルルーが言う。でも、言われた意味がはるみにはさっぱり理解できない。
「平行して存在する世界って言えば分かりやすい?」
「パラレル・ワールド…」
思わず出た言葉にはるみ自身の方が驚いていた。SFじゃあるまいし!
学校の七不思議、学校の怪談より更に現実味がない。
まだ、夕暮れ時に出る幽霊の方がある話に思えた。
「あぁ、それそれ。私の研究によると、各世界は時間という膜に覆われていて
それぞれの流れで存在する。パラレルって言うのも正確に平行ってわけじゃなくて
近付いたり離れたりしてるわけ。
で、はるみの世界と私の世界が近付いたのを見計らってコンタクトを
取らせて貰ったんだけ…」
「待って待って待って。待ってください。研究って。すごい研究してるんですね。
ルルーさんっておいくつですか?」
自分とそう変わらないように見えるのに、とてつもなく難しい研究に思える。
「いくつ、とは?私は私。一つだけしか存在しないけど。」
「じゃなくて、歳。年齢のことです。」
「年齢とは?」
「誕生日が来る度に一つずつ増える数字ですけど
あれ…、もしかして…、年齢って概念がなかったりするんですか?」
「誕生日は、一生に一度きりでは?時間は一方通行で巻き戻らないから。」
「えぇと。はい。なるほど。そういう感じなんですね。」
いつの間にか、ルルーのくだけた口調に引っ張られてはるみの恐怖も警戒も大分緩んでいた。
夕日が校舎に最後の光を投げかけて姿を消そうとしていた。
「ふぅ。今日は時間切れか。ちぇ。じゃ、またね。」
見た目の可愛らしさにそぐわない舌打ちをすると
窓のルルーは消え、代わりにはるみが映っていた。