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1.はじまりはただの紙切れ

「春のチャレンジ2025」のテーマは「学校」の

参加作品です。お気に召す方がいらっしゃれば幸いです。

机の中にあった手紙は、ラブレターでしょうか?


 夕日が斜めに入ってくる教室は、暗めのオレンジ色をしている。

定期テスト直前の教室には誰もおらず静まりかえっていて

昼間生徒たちで賑やかな教室ととても同じ場所だとは思えない。

はるみは暮れいく校舎の中を2年4組の教室を目指して小走りしていた。

「やだ、もう、どうしてテスト前に参考プリント忘れちゃうかな、私っ。」

自己嫌悪の声が漏れる。小さい声なのに無人の廊下に響いて聞こえた。

伝統があると言えば聞こえがいいが、なかなかに古めかしい校舎は

ただでさえ怖がりのはるみに更に嫌なプレッシャーを掛けた。

 ガララッ、静寂を払うように勢いよく扉を開けて、自分の机に走り寄る。

「プリント、プリント!化学のプリント!」

手を突っ込んで引っ張り出す。

「え、何これ…?」

はるみの手の中には化学のプリントともう一枚、見覚えのない紙切れが握られていた。


 「何これ、誰のイタズラよ。え、でも待って、これって…ルーン文字…だよね?

マンガで見たことある。それ自体が魔力を持っている文字とかなんとかじゃなかったっけ?」

思わず目をこらすと、何かが頭の中に流れ込んでくるようで目眩がした。


 「こんな時間に何やってる。テスト期間中放課後の校舎立ち入りは禁止だぞ。」

「ひやぁっ!」

「わぁっ。」

跳び上がるほど驚いたはるみに声を掛けたほうも驚く。

「原先生か、ビックリしたぁ。すみません。プリント忘れちゃって取りに来たんです。」

と紙切れは化学のプリントに隠した。

「そうか、早く帰れよ。要らぬ疑い掛けられるかもしれんし。それにな。」

原がニヤッと笑いながら言う。

「この学校、出るらしいから。」

その言葉に引きつった笑いを返しながら、はるみが足早に教室を出ると

原の笑い声が空っぽの廊下から聞こえてきた。


 結局、わざわざプリントを取りに行ったにもかかわらず、化学のテストの出来は散々だった。

例の紙切れが気になりすぎて、とても勉強に集中できなかったのだ。

イタズラだと思う。思うが書かれた文字を追わずにいられない。

書いてある文字をアルファベットに対応させてみると

「Ek calleth unto thee.」

となった。この文字列で検索を掛けると、どうやら古い言葉らしい。

「日本語にするなら『我は汝に呼びかけん』くらいのイメージかな。だったら…」

はるみはペロッと唇をなめると「Ek shall answer thy call.」と書かれていた文字の横に書き込んだ。

「我、汝の呼び掛けに応えん。ってね。ふふっ。イタズラ相手に私ったらノリノ…。」

途中まで言いかけて、凍り付いた。

Prithee, tell me thy name. と今まで何も書いてなかった場所に文字が浮き出たのだ。

はるみは文字が見えないように紙をひっくり返すと、その上から教科書をどさどさと乗せた。

心臓がバクバクいっている。


 「見なかった。見なかった。私は何も見ていない。

そんな書いてなかった文字が、ひとりでに浮き出てくるなんてないない。

見間違い、見間違い。」

そう自分を笑いながら、怖いもん見たさ、好奇心に勝てず

乱雑に乗せた本をずらすようにどかすと、もう一度紙切れを表に返した。

「見間違いじゃない。文字、増えてる。これは…。」

検索掛けようとしていた手が止まった。文字がなめらかにその姿を変えたのだ。

「汝が名は?」と。

「え?は?に、日本語?」

更に文字が形を変える。

「あなたの名前を教えて。」

「え、なんで?現代語訳?テスト勉強しすぎたかな。疲れてるんだ、きっと。

夢かも。白昼夢。寝よう。まずは一回寝よう。」

はるみは謎の紙切れを机の上に放り出したまま、毛布を頭の上まで引き上げたのだった。


 無造作に置かれた紙切れは、眠ったはるみの横でぽうっと光った。

「あれ、間違えたかな。名前を聞いたつもりだったんだけど。」

紙切れが小さく揺れたことにはるみは勿論気が付かなかった。


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― 新着の感想 ―
ただの紙切れの変化に戸惑う様子がリアルで、この先どうなるんだろうと、物語に引き込まれました。
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