双子の苦悩 【月夜譚No.261】
双子だからといって、常に一緒にいるわけではない。それぞれ別個の人間なのだから、お互いに好きに行動する。
だというのに、周囲の人間は、双子となるとどうしてもセットに見てしまうらしい。姿形が似ていようとも、各々別の人間なのだと理解してもらいたい。
彼は同じ顔をした兄を横目でちらりと見遣ってから、目の前の紙コップに手を伸ばした。座っているカウンター席の正面は硝子張りになって、右から左へ、左から右へ、人が行き交う。時折こちらを見た人が、少し珍しそうな顔をする。
彼はストローを咥えながらそれをぼんやりと見て、弾ける炭酸を舌の上で転がした。
今日は偶々、帰りが一緒だっただけである。クラスも部活も違うから、こうして放課後二人で寄り道なんて、稀だ。
双子だから、と自発的に意識したことは少ない。多分、きっと、他の兄弟とそう変わらない。
だから周囲なんて気にせずに振る舞えば良いと思うのだが、中々そうもいかないのが実情である。
彼が思わず息を吐くと、横からフライドポテトの容器が差し出された。見ると、兄が小首を傾げてポテトを軽く持ち上げる。
兄はそれをどう思っているのだろうか。話したことがないので真実は判らないが、普段の様子ではあまり気にならない様子である。
そう思ったら思い悩むのが馬鹿馬鹿しくなって、彼は苦笑いでポテトを一本引き抜いた。