第八十八話 映画の感想は個人によって異なる
鬼仏院右近の運転する車で近くのショッピングモールまで買い物に出かけた三人がいなくなったからと言って別に俺達が何か特別な事をするわけでもなかった。
会話も特になく何となく集まった三人は黙ってテレビを見ているのだけれど、テレビに映し出されているのは昔の映画だったので俺はあまり興味を持てなかった。
「お兄さんと愛ちゃんはこの映画見たことありますか?」
俺はこの映画を見た事が無かったので千雪ちゃんの質問には簡潔に答えたのだ。髑髏沼愛華も俺と同じくこの映画は見た事が無いという事だった。あまり面白くないような映画だったのだけれど、途中まで見てしまって結末を見ないまま神社に行くのも気持ちが悪いという事になってしまい、結果的には俺達三人はこの映画を最後まで見ることになったのだ。
そのうち面白くなっていくのかなと思って見ていたのだけれど、なんだかよくわからないシーンが延々と続いていてその退屈な時間は永遠に続いているのかとさえ思ってしまった。
「最後まで見たけどよくわからない映画でしたね。お兄さんはどう思いました?」
「俺もよくわからなかったよ。昔の映画かと思ってたら去年の映画だったんだな」
「何か見たことあると思ったら話題になってたやつだよね。こんなのが話題になるなんてどこがおもしろいのか説明してもらいたいわ」
俺も髑髏沼愛華と同じような感想だったけれど、ここで何かを言い合っても仕方ないと思って俺は食堂へと移動した。さっきご飯を食べたばかりなので何かを食べたいという事ではなく、三人分の水筒に水と氷を入れてもらうために向かったのだ。
「じゃあ、そろそろ神社に行こうか。そんなに遅くならないと思うけど、おにぎりでも作っていく?」
「あんまり荷物は増やしたくないですね。お昼だったら帰って来てから食べた方が美味しいと思います」
「正直に言ってあの場所で何か食べたいとは思わないな。何となくだけど」
「結構景色も良いところだと思うんだけどな。でも、その気持ちは何となくわかるかも」
「じゃあ、旅館の人に言っておきますね。帰ってきたら千雪もお昼ご飯作るの手伝っていいかも聞いておこうかな」
俺と入れ替わるように厨房へ入って行った千雪ちゃんを見送ったのだが、そうなると俺と髑髏沼愛華二人だけになってしまう。すぐに千雪ちゃんは戻ってくるものとばかり思っていたのだけれど、気が付いたら新しい映画が始まって結構な時間が経っていた。
前に一度見たことがある映画だなと思いながらも見ていると、不意に髑髏沼愛華が話しかけてきた。今までずっと黙って映画を見ていたので俺に話しかけてきたのだと気付かなかったのだが、同じことを二回口にしていたのでさすがに俺もそれは俺に対して言っているのだという事に気付いた。
「この映画ってだいぶ前に唯ちゃんにお勧めされたやつだと思うんだが、お前は最後までこの映画を見たのか?」
「たぶん見たと思う。右近と一緒に見たような気もするけど、途中がどんな感じだったかは覚えてないかも」
「お前もそうなのか。私も結末は覚えているんだけど、このシーンはあんまり記憶にないんだよな」
「俺もここはあんまり覚えてないかも。でも、この海のシーンってここの海に似てるような気がするんだよな。あの岩とか見覚えがあるんだよな」
「そう言われてみればそうかもしれないな。私も何となくこの辺りなんじゃないかなとは思ってるんだけど、微妙に違う気もするんだよ。映画なんで別の場所の映像かもしれないとは思うんだけど、何となく違うのに同じような気もしてるんだよな」
千雪ちゃんが戻ってきたのはそれからすぐの事だったのだが、俺達が見ている映画のシーンを見てこの映画の撮影にこの辺りが使われたという事を話してくれた。色々な場所を切り取りして使っているのでこの辺の人達は映画に出てくる風景と自分たちが普段見慣れている風景が違うことに違和感を覚えたりもしたそうだ。
残念な事にこの映画はヒットする事も無くひっそりと終わってしまったそうだ。映画自体もそこまで面白いものではないし出ている人も特別有名な人という事でもないので話題にもならなかったようなのだが、この辺に住んでいる人達はこの映画のヒットを願いこの地域一帯が盛り上がることを期待していたそうだ。結果的にはこの地域で映画が撮影されたという記録だけが残る結果になってしまったのだが、いつの日かこの映画が話題になることがあるとこの地域も盛り上がるのかもしれないな。
「じゃあ、さっそく神社に行ってみましょうか。お兄さんが何か見つけてくれそうな予感がするんで、愛ちゃんも楽しみにしててくださいね」
「こいつに何かを期待するのはやめた方が良いと思うんだけどな。千雪がそう言うんだったら少しは期待してあげてもいいかもな」
俺は何かを見付ける自信なんてこれっぽっちも無いのだ。仮に何かを見付けていたとしてもソレに気付くことも無いような気がしている。でも、期待されているんだとしたら少しでもその期待に応えてみたいなという思いもあるにはあるのだよ。あまり人から期待されることも無いわけだし、たまにはそう思ってもいいのだろうね。それに、今は旅行中なんだから少しくらい普段と違う事をしてもいいのではないかと思ってしまうのだ。
俺達の目の前に現れた石段は昨日よりも段数が増えているように見えた。
一番最初に上った時ほどではないにしても、昨日よりは明らかに増えているように見える。
「何してるんだ。さっさと上るぞ。こんなところで休憩したって大して変わらないだろ」
髑髏沼愛華は気付いていないようなのだが、明らかに昨日よりも高い位置に鳥居があるのだ。昨日はちょっと顔を上げればすぐに見えたはずの鳥居が、思いっきり腰をそって上を見上げなければ見えないくらいの位置にあるのだ。
「お兄さんってもう疲れちゃったんですか。海で遊んでた時はもっと元気だったのにな。もしかして、千雪が水着じゃないから元気ないんですか。そういうのはダメですよ」
千雪ちゃんは俺をからかうように言い残して石段を駆け上がっていった。そんなペースで駆け上がってもすぐに着かれてしまうんじゃないかと思って見ていたのに、千雪ちゃんはペースを一切落とさずに頂上まで駆け上がってそのまま奥へと消えていったのだった。




