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何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない  作者: 釧路太郎


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第八十三話 唯菜が意外なことを言い始めてしまった

 昨日の晩から政虎の様子がおかしいと思う。いつもおかしい男ではあるのだけれど、今まで以上に他人に関して興味を持たなくなっているように思えるのだ。今までであれば唯菜が近くにいれば他の人に気付かれないように視線を送っていたりもしていたのだけれど、政虎は唯菜の事を避けているようにも見えるのだ。逆に唯菜の方は今までと違って政虎に歩み寄っているように見えるのだけれど、それは昨日の夜に見に行った蛍がそうさせただけなのかもしれない。朝食の時もこうして海に来ている時も政虎と唯菜が会話を交わしていないのがそう思った理由なのだ。

「右近はさ、政虎君と仲が良いんだよね?」

「そうだけど、今更どうしてそんな事聞くの?」

「どうして聞いたんだろう。全然タイプの違う二人なのにどうしてそんなに仲が良いんだろうなって思ったんだよね。右近だったら誰とでも仲良くなれると思うんだけど、どうして一番仲が良い男子が政虎君なんだろうなってみんなで話してるんだよね」

「他の男子と違って政虎とは裏表も駆け引きも無い付き合いが出来てるからじゃないかな」

「へえ、そうなんだ。私には右近は政虎君の前だけ別人を装ってるのかと思ってたよ。ほら、みんなといる時は明るくて嫌な事も言わないし誰かと言い争ったりもしてないのにさ、政虎君と一緒にいる時の右近は時々何か言い争いをしてることあるよね。違うかもしれないけど、それって右近の中で政虎君だけが特別扱いしてるように見えちゃうんだよね。言い争いをしてるくらいだからいい意味で特別扱いってわけじゃないかもしれないけど、そう感じちゃったんだ」

 政虎と言い争いをする事は時々あるんだけど、それはほとんどゲームをしている時に限られると思うんだよな。人前で喧嘩をする事なんて無いし、誰かがいる時に政虎が俺に話しかけてることもほとんど無かったと思うんだけど。もしかしたら、俺と政虎がゲームで熱くなって喧嘩をする事を愛華から聞いたのかもしれないな。唯菜と愛華が同じ部屋を使っているという事を考えると、その可能性が一番高いように思えた。

「なんにせよさ、そういう特別な相手がいるってのは良いことだよね。それだけ言い争ってもこうして一緒に旅行に来てくれるって事は本当にいい事だと思うよ。なんで私も誘ってもらえたんだろうってずっと考えていたんだけどさ、右近はどうしてだと思う?」

「どうしてって言われてもな。千雪が唯菜ともっと仲良くなりたいって思ってるからって唯から聞いたよ」

「そうなんだよね。私もそれを聞いて嬉しいなって思って参加する事にしたんだけどさ、千雪ちゃんが私と仲良くなりたいって言ってたわりには私と千雪ちゃんって全然この旅行中に話をしてないんだよね。昨日は疲れて寝ちゃってて一緒に海に行けなかったってのもあるんだけど、それ以外の時間も千雪ちゃんと何か話したとか一緒にいたってのが無いんだよね。大学で見かける姿を見てると千雪ちゃんって政虎君と違って社交的だし今更私に人見知りもしないとは思うんだけどさ、誘ってくれた理由を考えると不思議でしょうがないんだよね」

 確かに、この旅行が始まってから政虎はずっと千雪と一緒にいると思う。車の中でもそうだったのだが、政虎の隣にいるのは必ず千雪なのだ。今までであれば政虎の隣にいるのは俺か唯だったと思うのだけど、その唯も政虎の近くにあまりいないような気がしていた。政虎に対して積極的に思いを伝えていた唯なのにこの旅行中は一切そう言ったアピールをしていないのも不思議なのだけど、それ以上に不思議なのが千雪が積極的に政虎にアピールしているように見えるのだ。

 政虎は千雪の事を年の離れた妹としか見ていないようだし、唯菜以外の女性に対して恋愛感情を抱いていないというのもわかるのだが、あれだけ積極的に来られるとその思いも揺らいでしまうのではないかと思えてしまう。現に、今も海に入っていてテンションが上がっているからとはいえ水着姿の千雪に後ろから抱き着かれているのだ。その姿を見守っている唯はなぜか温かい眼差しで二人を見守っている。唯菜ら千雪のように政虎に抱き着いてもおかしくないと思うけれど、なぜかこのチャンスをみすみす逃しているように思えるのだった。

「右近はさ、愛ちゃんと付き合いたいって思ったことないんだよね?」

「うん、一度も無いよ。向こうも無いと思うけど」

「そうみたいだね。うちの大学のベストカップルと言われている二人がお互いの事を何とも思ってないってのは面白い話だよね。右近と愛ちゃんの二人が主演の恋愛映画とか作れそうだなってみんなで話してたりするんだけど」

「そんな話はいつか聞いたことがあるかも。その時は変なこと話してるなって思ってたんだけど、唯菜もそういう話とかしたりするの?」

「さすがに愛ちゃんとか唯ちゃんとはしないけど、それ以外の子とだったら話すこともあるよ。女子会の時の鉄板ネタになりつつあるかも。でもさ、正直に言っちゃうと二人ってお似合いすぎて逆に不自然かもしれないって思う事もあるんだよね。だって、右近も愛ちゃんも美形すぎるんだよ。漫画でもドラマでも映画でもそこまでビジュアルに全振りするなよって思われそうだもんな。右近は優しくて性格も良いのが知らない人にも伝わると思うんだけど、愛ちゃんって意外ときついところもあるんだよね。それがいいって人も結構いるみたいだけど、私は唯ちゃんと話している時の優しい感じの愛ちゃんが好きだな」

 愛華は唯以外の人間に対して基本的には塩対応と言ってもいいだろう。自分に言い寄ってくるような相手に対してはその程度で済まないこともあるし、俺や千雪に対してはそこまできつく当たってくることはまずない。時々俺に冷たい感じになることもあるけれど、政虎に対するそれに比べたら吹雪と晴天くらい差があるのかもしれないな。

 でも、この旅行ではそこまで政虎に対してきつく当たっていないような気もするんだよな。確かにきついことを言っているように思う時もあるのだけれど、旅行前に比べたら随分と丸くなっているように思えるのだ。

「寝る前にちょっとだけ話してたんだけどね。愛ちゃんも政虎君がそこまで悪い人じゃないって思い始めてるんだって」

「ん、愛ちゃんもって、愛華がそう思ってるだけじゃないって事だよね?」

「うん、私もね、ちょっとだけだけど政虎君っていい人なのかもしれないって思うようになったんだよね。ほら、今も千雪ちゃんに対して優しく楽しそうにして遊んであげてるじゃない。そういう姿って今まで見る事が無かったし、大学にいる時だったら断ってると思うんだよね。そういう姿を見ると、ちょっと意外でギャップがあるなって思っちゃったんだ」

 これは良くない。政虎の良さを知ってもらえるというのは良いことだとは思うけれど、唯菜がそんな事を感じてはダメなのだ。

 万が一にでも唯菜が政虎の事を好きになって告白でもしたとしたら、俺にとってこの旅行は今までの人生で一番最悪な日として記されてしまうことになるだろう。そうはならないと思うのだけれど、少しは危機感を持って行動した方が良いのかもしれないな。

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