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何でも出来る親友がいつも隣にいるから俺は恋愛が出来ない  作者: 釧路太郎


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第八十一話 政虎と二人部屋

 政虎と千雪が神社に向かったこともあって俺達は一足先に旅館へ戻ることになった。同中も唯菜は蛍の話を唯と楽しそうにしていたのだけれど、愛華は二人から距離を取って俺のすぐ後ろを歩いていた。

 いつもであれば唯と愛華は間に誰も入らせないような距離感を保っているのだけれど、今回に限っては二人の距離が離れていたのだ。もしかしたら、蛍を見てテンションが上がっている唯菜に関わりたくないのかもしれないし、楽しそうに話をしている二人の邪魔をしたくないだけなのかもしれない。愛華は俺とも少しだけ距離をあけているので、単純に疲れていて話をしたくないだけだったりするのかもしれないな。

「なあ、お前は千雪とあいつが二人だけで神社に行ってるのをどう思う?」

「どうって、大変だなって思うけど、それ以外にって事?」

「それ以外にだ」

 それまで黙々と歩いていただけの愛華が急に話しかけてきたので少し驚いてしまって変な返答になってしまったのだが、俺の感想はわざわざ神社に行かされるなんて大変だなとしか思っていなかったのも事実なのだ。

「なんか変だと思わないか。蛍を見に行こうって言いだしたのもちょっと引っかかってたんだけど、そんな話ってお前たちは聞いていたか?」

「俺は聞いてないよ。たぶんだけど、政虎も聞いていなかったんじゃないかな。事前に聞いていたら千雪と海に行って遊んだりなんてしてないと思うし」

「だよな。何かこの旅行って千雪と柊政虎の距離を近付けるために唯ちゃんが計画してるんじゃないかって思ってしまうんだよな。移動中の座席を決めたのも海に遊びに行かせたのも唯ちゃんだったと思うし」

「でも、晩御飯の時の席って結構空いてたけど政虎は誰に言われるでもなく千雪の隣に座ってたぞ。それは唯が指示してたわけじゃないと思うんだが」

「それなんだよな。あの時はみんなの隣が空いてたんだよな。それなのに、あいつは何のためらいもなく千雪の隣に座ってたよな。座る前に私達の方を見てたから他にも空いている席があるのに気付いてたとは思うんだけど、あいつが座ったのは千雪の隣なんだよ。いつもだったらあいつは千雪の隣になんて座らないと思うんだが、お前はどう思った?」

「今日はあの二人ずっと一緒にいるなって思っただけかも。それよりもこんなにたくさん食べきれるかなって不安の方があったしな」

 愛華は唯にこの話を聞かれたくないのかやたらと小声で話しかけてきていた。風の音や虫の声なんかで多少聞こえにくいところはあったのだけれど会話が成立しない位邪魔になるものでもなかったのだ。

 俺達の前を歩いている唯と唯菜は相変わらず楽しそうに蛍の話をしているのだ。俺達の事なんて気にしていないのかと思うくらい楽しそうに二人で話をしているのだけれど、旅館に着くまで唯も唯菜も俺達の方を一度も振り向くことは無かった。それなのに、俺達との距離は常に一定だったように感じていて、俺は少しだけ不思議に思ってしまっていた。


「今日はこんな時間までお疲れ様でした。明日は今日よりも暖かくなるみたいなんで熱中症とかには気を付けて遊ぼうね。そうそう、ちょっと小腹が空いたなって人がいたら食堂におにぎりを用意してくれてるみたいだから食べてもいいって。中身は何にも入っていないみたいだけど、それでも良かったら食べてねって言ってたよ」

 俺はそこまで小腹は空いていなかった。ただ、俺とは違って一日中動きっぱなしだった政虎はお腹が空いているかもしれないなと思っておにぎりを二つ貰っていくことにした。さすがにこんな夜中に女子たちはおにぎりなんて持っていかなかった。多少動いたとはいえあれだけの量を食べたのだからまだまだお腹がすくことなんてないだろう。蛍を見に行かなければ今頃お腹がはちきれていたのかもしれないな。そう考えると、蛍を見に行ったのもいい運動になってちょうど良かったのかもしれない。

 散歩して少し汗をかいたのでお風呂に入りたいなとも思っていた。だが、この時間から大浴場を使うのはさすがに迷惑かもしれないなと考えて俺は部屋にあるシャワーを浴びることにした。軽くシャワーを浴びることが出来ればそれでいいやと思っていたのだけれど、ついついいつもの癖で全身を綺麗に洗ってしまった。別にそれ自体はおかしいことではないと思うのだけれど、これから寝るだけだというのに何か気合を入れ過ぎているように思えて少しだけ恥ずかしくなってしまい、頭を冷やすという意味も込めて見ずに近い温度のシャワーを浴びて出ることにした。

 政虎が何時ころに戻ってくるのか見当もつかないので寝てしまおうかとも思っていたけれど、何となく俺は窓から外の景色をただただ眺めていた。もしかしたら、政虎と千雪ちゃんが歩いているところが見えるかもしれないと思ったのだけれど、よくよく考えてみると俺達が使っているこの部屋は俺達が歩いていた道と反対側に位置していたのだ。

 部屋の明かりが照らす範囲はとても狭かったので外に何があるのかはわからない。この部屋に入った時に外の景色は見たはずなのだけれど、俺はそこに何があったのかは一切覚えていなかった。何か特徴的なものがあったら忘れるはずもないとおもう。

 外の景色に同調するかのように政虎の姿が急に浮かび上がったのでビックリして振り返ってしまったのだが、そこには不思議そうな顔で俺を見ている政虎が立っていた。ドアが開いた音も聞こえなかったのでいつ戻ってきたのかわからなかった。

「そんなに驚くなよ。こっちの方がビックリするって」

「悪い。で、神社はどうだった?」

「どうって言われてもな。よくわかんないわ。ちょっと疲れたから先に寝ることにするよ」

「ああ、俺も寝ることにするわ」

 政虎は着替えを終えて横になるとすぐに寝息を立てていた。今日一日で一か月分くらい運動したのではないかと思えるくらいだったと思うので仕方ないと思うけれど、せっかく二人で邪魔されずに過ごせるのだからもう少し話でもしておきたかったなという思いはあった。

 ただ、こうして政虎の寝顔を見ることが出来るのだけでも俺は満足してしまいそうであった。

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